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入学式




魔法学園‐カエレスエィス‐



そこには様々な種族の子供達が集まっている

人間が世界の大半を占めているが、そんな人間達とは違う世界で生きる高潔な種族がいた


『エルフ』『人魚』『鳥獣』など


その種族達は少なからず魔力を持って生まれる

故に、それを使いこなすすべを学ぶため、魔法学園はあった


高度な技術で地上に生活する土の民『人間』に気付かれる事無く、天空に浮かぶ魔法学園都市


『カエレスエィス』


そこに、1人の少年が入学した

種族は『人間』




***********************************




俺は孤児だ


けど、それを悲しいと思った事はない

何故なら俺を心の底から慈しんでくれる優しい養父がいたからだ

けれど、その人に言われて俺はある学校に行くことになった


魔法学園‐カエレスエィス‐


魔法?

なんだそれ、という俺にオヤジは言った


『お前は魔法使いになれる。その為に学んでこい』


嘘だろう……?


魔法使い?

お伽噺じゃあるまいし

呆れているとオヤジは目の前で部屋にある家具、全てを手を使わずに浮かせた

オヤジが言うには、俺には魔法を使う為に必要な『魔力』があるそうだ


だから、魔法学園都市‐メディア‐へと入学することになった


けど、俺は……ただの人間だ




*********************************




高度な技術で地上に生活する人間は、今だに空を掌握することはかなっていない

飛行機やスペースシャトルなど、空を行き交う手段は得られても、空に住むことが誰に出来るだろう?


いや、と少年は思った


セス・クロウリー

学園に入学できる年齢、15歳を迎えた少年は魔法学園を見上げた


外観は中世のヨーロッパ風の城に近い

白い壁に屋根は青色、幻想的に美しい建物だ


それをこの天空に浮かぶ大地に建てた奴は空に人が住む事を可能にしたのだろう

だから、俺はここに立って居られるのだろうから


太陽の光を浴びて、色素の薄い髪が金茶に輝く

短いくせのある髪だが、襟足の一部だけ銀の髪どめで止めてあり、そこだけ髪を長くのばしている

どこか愛嬌のある金色の瞳は今は不機嫌そうに細められていた


それは、入学式の行われる大講堂に向かう新入生達の視線が関係していた

少年、セスも同じピカピカの新入生だが、カラフルな一団から注目を浴びていた


カラフルというのは、セスの周りを遠巻きに視線を投げ付けながら流れていく新入生達の事だ


彼らが自分を見ているのは『種族』が違う事を知っているからだろう


セス・クロウリーは人間だ

つい先日までこんなラ〇ュタみたいな天空都市があるなんて知りもしなかった、ごく普通の人間だ


けれど、あのカラフルな奴らは当たり前のようにここを知ってるのだろう

何故ならあいつらは人間ではない

お伽噺に出てくるような妖精やエルフといったたぐいのものだ


だから、彼らは普通の人間とは外見がまったく違う


およそ、地毛ではあり得ないピンクの髪だとか尖った耳だとか

この道を行くのは新入生、最低15歳にはなっているはずなのに、平均的男子の身長をしているセスの腰に届くかどうか位しかない身長の奴がいたり

2メートルはありそうなデカい奴がいたり……


学園指定の制服を皆個性豊かに着こなしている


「マジで付いていけねぇ………」


ぼそりと、ため息と共に呟いてセスは大講堂へと向かった



********************



セスが歩いていく姿を好奇心とは違う視線で見つめる者が幾つかあった

気の強そうな青い瞳をした少女はじっと後ろから見ていた


「あれが………『人間』」


その呟きには怒りにも似た感情がこめられていた



********************



「あれ?」


大講堂に続く並木道の木の上で幹に背中を預けていた少年が声を上げた


美しい容姿の少年だった

その声に、直ぐ側の枝に乗って読書をしていた同じ顔の少年が顔を上げた


「アイツ、人間?」


読書をしていた少年はそういった少年の視線の先を見た


色素の薄い髪をした少年が大講堂へ向かっていた

少年の周りは奇妙に遠巻きができている

しかし、その少年を見て眉を寄せる


「何故、人間が?」

「しーらね。でも……ヤバいなぁ」


少年は妖しげに赤い瞳を細めた


「せっかく禁欲してんのにさぁ、ご馳走が目の前に居るなんて……」

「……ディーン」


読書をしていた少年は持っていた本を下ろして、もう一人の少年を睨み付けた


「わかってるよ、ライアン」


軽薄な笑みを浮かべるディーンにライアンは更に視線を険しくした



********************



教会に似た大講堂は落ち着いた趣で神聖な雰囲気があったが、今は新入生の明日への期待と緊張で騒ついていた


だが、セスは困っていた


「あのー……」

「あっいや、スミマセン……ちょっと、その」


狼狽えるセスを受付をしている人は苦笑して見ていた

受付では丸く白い野球ボール程の石を置いてある

入学手続き用の書類を出して何故かそれに手をかざしてくれと言われたのだ


なので、セスは手をかざしてみたが何も起こらない


「どうしました?魔力を込めてみて下さい」


と、受付の人は言う

しかし、そう言われてもその意味が分からない

なので、頑張って石を握り力を入れる


「ウォォオ!」


しかし何も起こらない

その時、後ろから声をかけられた


「ちょっと、貴方何してるの?」


振り向くと、そこには幻想的な少女が腕を組んで偉そうにセスを見ていた


気の強そうな青い瞳

金髪に近いが、翠がかって黄緑色の光沢があるくせのない長い髪が膝裏まであった

整った顔立ちに長く尖った耳が印象的で、まず人間ではないと思う


制服のネクタイの色はフェイトと同じ色、つまり同じ新入生ということだ


「貴方ふざけてるの?こんなの子どもにだって息をするくらい簡単にできるわ」


高飛車な言い方にムッとして、セスは言い返す


「誰もふざけてなんかねぇよ。こんなの初めてやるんだからしょうがないだろ」

「初めて?」


少女は呆れたように言い、周りにいた人も成り行きを見ていたのか、驚いたように騒ついた


「貴方……人間よね」

「ああ」


少女の瞳には怒りにも似た色が浮かぶ

キリリと険しく睨み付けてくる少女

その意味を分かりかねて内心首をかしげる


「百年ぶりに入学許可の出た人間だから、もっと期待してたけど」


少女はそのまま踵を返した


「期待外れだったわ」


唖然としてセスはその少女を見送ってしまった

そして、アイツが絡んで来たせいでまた変な注目を浴びている

セスは拳を握りしめてプルプルと震える


(何だよアイツ!?ムカつく!!)


受付の人は気まずそうに白い石の事を説明してくれた

その石に魔力をこめるとその強さがわかるのだそうだ

それを元にクラス編成を行うらしい


「魔力をこめるにはまず、手をかざして石に集中して下さい。お腹を意識しながら」


四苦八苦して、何とかその石に魔力をこめられたのは入学式が始まる直前だった



*********************



入学式で新入生代表の挨拶をしたのはさっきの高飛車な少女だった


「新入生代表、ベステモーナ・アレンスキー。僭越ながら………」


スラスラと挨拶をするその姿は凛々しく、どことなく気品がだたよっていた


(あの野郎……成績いいんだな)


新入生代表は確か、入学生の中で成績トップの人物がやるはずだ

セスは、その姿を見ながらモヤモヤとしたものが胸の内に溢れていた


『期待外れだわ』


何だというのだろう

期待?そんなもの……勝手にするな


「それでは、魔法学園‐カエレスエィス‐が誇るクラリス・アレイスター校長から新入生に挨拶をして頂きます」


どこからこの大聖堂全体に響く声をだしているのか、口髭を蓄えた背の低い小太りの男が声を上げた


その時、何かが爆ぜる音が響いた

瞬くような閃光は花火だ


赤い火花は渦を描いて空中を旋回し、一度舞あがってからまた弾ける

弾けた火の粉はフワリとその姿を変える

火の粉の代わりに舞い降りたのは、真っ白な花弁だった

生徒が歓声を上げる


「CGじゃない………これ、魔法か……?」


セスが落ちてきた花弁に手を伸ばせば、手のひらに乗った白い花びらは淡雪のように溶けて消えた

そして、大講堂の壇上に1人の老女が現れた


「こんにちは、新入生の皆さん」


クラリス・アレイスターは壇上の前でフワリと微笑んだ


「この魔法学園‐カエレスエィス‐の校長を務めています、クラリス・アレイスターです。新入生の皆さん、この学園では多くの種族が共に魔法を学びます。育った環境、それぞれの価値観、それらの違う感性に触れることで、これから何より大切なことを学ぶことでしょう」


ゆっくりと紡がれる言葉は新入生の心に染みるように響く



「貴方たちの未来に、多くの幸があらんことを願います。ご入学おめでとうございます」








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