入学前夜
俺、神谷 新はいきなりピンチを迎えていた。
制服違う……。
これ、たぶん父さんが学生の頃の服だ……。
今から家に電話しても朝まで寮には間に合わないだろうし……。どうしよ。
まぁ、とりあえず母さんに電話しとくか。
「もしもし、新だけど。」
「新!?新の部屋掃除してたらさっき気付いたんだけど、あんたブレザー間違えたでしょ!」
あ、その通りですよお母様。流石親子。気づくタイミングも同じ!
「うん。そのことで電話したんだけど……。」
あっ……くる……。
「あんた馬鹿じゃないの!一週間前に荷物送ったのに中身確認してなかったの!?あれほど届いたら確認してっていったのに。いったい今日まで何してたのまったく!」
「いやぁ……。悠雅と衣玖と遊んでて……。」
これはまたくるな……。
「あほなの?馬鹿なの?二人とも準備しっかりしてるから遊んでたんでしょ!だいたい、いつも三人の中で成績一番下のあんたが遊んでんじゃないわよ!」
「うるさいなっ!これからは武術もあるんだ。悠雅にも衣玖にも実技じゃ負けないから!」
「……。まあ、頑張りなさい。」
母さんは俺が武術を習うこと自体に反対している、と思う。
俺の父さんは王国騎士で、危険種の討伐戦に参加して死んだそうだ。
父さんが強かったのか弱かったのかは知らない。
でも、騎士という役職はいつ命を失ってもおかしくない。
父さんが死んだという連絡を聞いたとき、母さんは一日中泣いていた。
まだ小さかった俺は何が起こったのかわからなかったが、母さんが泣いていたのだけは覚えている。
そんな父さんと同じ道に進もうとしている俺に反対するのは当たり前だろう。
でも俺はどうしてもこの道を進みたい。
小さい頃、父さんがもっていた昔のゲームを一度やらせてもらった。
俺が勇者で、旅をしながら出てくる敵を倒して行き、レベルを上げてボスに挑むという単純なゲームだ。
そんなゲームの世界がリアルで体験できる。
わくわくする。
「うん。俺、強くなるから。」
「実技じゃ負けない……か?」
うっわ。電話を切った途端、突然後ろから声が聞こえた。
「誰だ!って、悠雅かよ。脅かすなよまったく。」
こいつは天音 悠雅
俺の幼馴染であり親友で明日、一緒に大和第二高校に入学する。
「安心して。俺も新に負けるつもりはないよ。」
悠雅はいわゆる天才タイプだ。
中学の時も勉強や運動はいつも優秀だった。
でも……実技じゃ負けたくない。
「で、ブレザーないんだっけ?俺の予備なら貸すけど。」
「まじか!てか予備あるのか!」
「感謝しろよ。まあ、俺はもう寝るから。おやすみ。」
「ああ。俺も寝るおやすみ。」
くそ、悠雅め。
スピードで二段ベッドの上下決めるのはやめればよかったな。
上がよかったのに。
そんなことを考えながら俺は寝た。