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小悪魔の誘惑

 僕は今、ラブホテルにいます。もちろん一人ではありませんし、相手は女の子です。

彼女の名前は麻里子。さっき合コンで初めて会った人です。僕みたいな真面目な人間でも分かる、いかにも遊び慣れた雰囲気のある彼女に連れ込まれました。

初めての体験にぼぅっとしていると気付けば彼女は下着のみという随分ハレンチなカッコで僕の目に前に立っている。

「……ねぇ」

「は、はい」

「ブラのホック、外してくれない? 酔ってて上手く外せないの」そういうと彼女は振り返る。色白で綺麗な背中が目の前に入る。

 あぁ、真面目な人間だったはずの僕がまさかこんな事態になってしまうとは。これが大人になるということなのか……。




「おう! 久しぶりだな! 元気してたか?」

 携帯電話から元気な声が聞こえてくる。巌の声は大きいから耳を少し離しておかないと痛い。

「元気してたよ、そっちは元気?」

「もちろん、ていうか突然で悪いんだけどさ、ちょっと聞いてくんない?」

「いいけど……どした?」

「合コンしない?」

 少し間が空いて。「は? なんて言った?」

「ゴ・ウ・コ・ン! 合コンだよ、お前さ、あんまり大学ン時もそういうの参加しなかっただろ?」

 そら彼女がいたからな。

「つーわけでさ、たまにはパァーっとしようぜ?」

「パス」

「なんだよ、つれねぇーな」

「乗り気じゃない」

「ふーん……乗り気じゃないねー」

「なんだよ」

「先週、安くて美味くて、しかも女の子ウケの良い居酒屋を教えてやったのは誰だったかなー」

「……」安くて美味しくてしかも女の子ウケが良い居酒屋とはさやなさんとを連れて行った店だ。

「夜中にわざわざ電話してきて、明日、女の子と飲み行くからって泣きついてきたのは誰だったかなー」巌のわざとらしい感情のこもってない棒読みが携帯から漏れてくる。

「……」

「頼むよー、急に一人抜けちゃってさ、人が捕まんないのよー」

「分かった、行くよ」僕は

「やったぜ! サンキュー! やっぱり持つべきものは親友だな! じゃまたあとで詳しい日時と場所を送っとくから、ヨロシク!」と言い残すと巌はすぐに電話を切った。

 自分の用件を伝えるとさっさと切るとは、自分の親友ながらほとほと自分勝手ではある。しかし、コンくらいは乗ってやろう。さやなさんの普段見せない顔を見えたのは巌のおかげかも知れないし。

 普段、会社では理性的な雰囲気をまとっているさやなさん。でもあの日は想像していなかったような笑顔を彼女は見せてくれた、それから突然の告白かと思えば、それは冗談で。あまりにも突然のことで呆けている僕を指差して笑う悪戯好きの彼女。

それから会社で会う時もなんか人当たりが良くなった気がする。ほんの少しだけど。




「お、来た来た!」

 待ち合わせ場所には巌がいた。その周りには年は僕と変わらなそうな三人の男。チャラそうな男、巌のような体育会系の男とオシャレな小太りの男がこちらをみている。ちなみに全員と初対面だ。挨拶もそこそこに彼らとともに店へ向かう。

「いいか皆、今日は決戦の日だ……」巌が芝居がかって喋る。

「向こうの幹事の話では、小悪魔のボインちゃんがいるらしいぞ……」僕以外の周りから固唾を飲む音が聞こえた。なんか嫌だ。

「じゃあアレっすね、巌さん。俺がそのボインの小悪魔ちゃん取っちゃっても恨みっこなしですよね~?」チャラそうな男が見た目通りのチャラいセリフを吐く。

「うおお、いいね! 燃えるね!」と体育会家の男が続く。

 オシャレな小太りはニタニタと笑って「ボインかぁ……久々だな」と呟いていた。

こんな調子でこの気持ちの悪い集団とともに店につく。少し早かったらしく先に入って女の子達を待つこととなった。席に着いたあと僕以外の連中はなんだか合図だの合言葉だのアイコンタクトなど色々作戦を練っている。合コンというものはこういうものなのだろうか。

 僕はこれから迎えることになるだろう初めての体験に緊張する。サークルの飲み会は男女混合だったし、女の子とこの前サシで飲んだばっかりだけど、この飲み会は違うんだ。親睦会じゃなくて、あくまで男と女の出会いの場なのだ。最後まで至ってしまうこともある。

そうこう考えていると女の子達が店に入ってきた。


乾杯に始まり、自己紹介を終えて、いざ合コンが始まった。とりあえず僕は事前に打ち合わせていた通りに巌達とのアイコンタクトとボディランゲージを使ったチームプレイで場を盛り上げていく。

酒も進み、女の子達もこちらの思惑通りにテンションが上がってゆく。だが一人、マイペースに酒とご飯をつまんでいる子が一人いた。それは麻里子だった。彼女は適当に場を流しながらただただ酒を飲んで、じっと機嫌良さげに場を眺めているだけだった。なんだか僕とよく目が合うような気がした。

「んじゃ、席替えすっか!」と巌の号令とともに皆が立ち上がる

「麻里子でぇす、よろしくね」おっとりとした喋りが特徴の女性はそう名乗った。

「い、五十嵐です、よろしく」

「イガラシ? それってぇ下の名前?」

「いや違うよ」

「じゃあ名前教えてよ、アタシ、気になるなー」女の子特有の語尾の上がった媚びた言い方に口元に人差し指を当てて上目遣い。これが俗にいう小悪魔と呼ばれる女の子なのか。その淫靡な雰囲気に戸惑いが隠せない。

「と、冬馬」

「トウマくんかー、カッコイイー」

「あ、ありがとう……」

「で、トウマくんは彼女いるの~?」

「いまは、いないよ」

「そっかー、まぁいてもいなくても関係ないけどー」という遊び人を思わせるセリフをためらうことなく吐く。正直、ビビる。

 結局、僕はそのあとずっと麻里子と相手をしていた。居酒屋のあと、カラオケに行ったがその時もずっと麻里子の相手をしていた。というよりさせられていた。

途中、トイレに抜けたときに携帯を確認したら「お前ばっかズルい」と巌からメッセージが入っていた。知るか。携帯をポッケにしまい込んで洗面台で手を洗う。(早く帰ろう……)と考えているその時だった。

「トーマくーん、遅いよー」

「うひゃあ!」急に後ろから声をかけられて変な声が出る。顔を上げると鏡に麻里子が写っていた。「ここ、男子トイレですけど……」

「知ってるー」そういうと彼女は後ろから抱き付いてきた。「ねぇ、この後どっか行かない? いい加減、カラオケ飽きちゃった」

「ど、どっかって?」

 麻里子が妖しく微笑む。「決まってんじゃん」




彼女が言われるがままにホテルについてきてしまった。部屋は薄暗く、ピンク色の照明がなんだがエッチに感じる。目の前にあるベッドは自宅にあるベッドと違って大きい。

「えぇ~い」という声が後ろから聞こえると同時に腰辺りに衝撃を受ける。

「ふごっ!?」突然のタックルに対応しきれず、僕はそのままにベッドに押し倒された。

「タックル上手いでしょ~、高校の時、ラグビー部のマネやってたの~」

「じゃなくて! ダメだっ……て」

 後ろを振り返ると一糸まとわぬ姿で膝立ちをしている麻里子がいた。服の上からでも分かるその豊満な胸に自然と目が行く。

「ねぇ? オトコノコなら、腹括っちゃいなよ」指を口に当ててながらこちらにゆっくりと迫ってくる。

「あ、あの」頭がぼうっとしてきた。不味いこれはなんとかしないと。「あ! 明日で朝一会議だった! しかもめっちゃ重要なやつで明日遅刻なんてかましたら首になるし、うまくプレゼンできなきゃ昇進できなくなるくらい重要な会議だった! だから本当にゴメン! 今日は帰るね!」とりあえず適当に思い付いた言葉を早口でまくし立てる。

「え?」麻里子は僕の突然の行動にきょとんとしている。

 その内に素早くベッドから退避する。床に脱ぎ捨てられていた麻里子の衣服をかき集めて渡す。

「……」渡された自分の衣服に目もくれず、麻里子はじっとこちらを睨み付ける。僕も負けじとニッと営業スマイルと作って応戦する。少しの間、無言で見つめ合ったが、彼女はため息をついて衣服を奪い取って着替え始めた。




 外に出る。

「……え、駅まで送っていくよ」先ほどからむすっとして無言の彼女に声かける。

「……うん」と頷くも彼女は目を合わせてくれなかった。

 とりあえずご機嫌ナナメのお姫様の連れて駅に向かった。道中、色々と話しかけたが全て無視される。正直、辛い。なんだか足が重く感じる。そのうち僕も無言になって、気付ば駅まで付いていた。

「麻里子さん、どっち方面?」

「……向こう」と指をさす。

「じゃあ、反対の方向なんだ。ここでお別れだね」

 その言葉に麻里子は反応する。「……残念。落とせなかったオトコノコなんて君が初めてかも~」麻里子は眉間に少ししわを寄せてふくれっ面をつくりながらそういった。

「なんか、ゴメンなさい」

「でも、狙っちゃうから。私、しつこいから覚悟しといてね」彼女はそういうと舌をチロリと出して笑う。

 正直、ドキッとする。これが小悪魔なのか。先ほどまでの不機嫌だったのにまるで感じさせない。そのギャップに動揺する。いまなら巌の気持ちも分かる気がした。

「ハハッ……お、お手柔らかに」

 そんな時だった。

「冬馬君?」

 僕は不意に声をかけられる、振り向くとそこにはさやなさんがいた。

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