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夢の中で

 僕は立ち直った。

男二人で公園で泣いた以来、なんとか気持ちに整理をつけられるようになった。さすがに卒業旅行に行けるほど前向きにはなれなかったが、卒業式にはちゃんと出て無事に学位を修めることができた。

そのあと僕は一週間もしない間に会社の入社式を迎えた。社会人となって仕事を必死に取り組んでいると気付けばあっという一年間が過ぎていた。

「大人になると時間があっという間に過ぎちゃうって本当なんですね」

「おいおい、まだ君は二三、四だろ?」会社の先輩が笑いながら言う。「そんなこといってたら三十なんてすぐ来ちまうぜ」

 そういうと先輩は大きな器に入ったうどんをすすった。

 声が大きく、いつもニコニコした彼は頼りがいのある先輩で高校と大学が同じ出身といったこともあってかよく可愛がってくれる。

「お待ちどう様でーす」

「あ、どうも」

 僕達の座る席に揚げたてのかしわ天が二つ運ばれてきたので受け取る。

「お! 来たきた!」というが先か先輩はかしわ天をサッと自分の丼に放り込み、それに醤油をぶっかけて食らいつく。

 一連の動作が早くて、僕は思わず呆気にとらわれてしまう。

「どうした?」

「いやー、食べるの早いな、と」

「営業マンは早飯が鉄則よ」

 先輩がそう言うと二口で拳二個ぶんほどの大きさのかしわ天を食べ、うどんをすすった。

 



 その日は出張のアポを取り、プレゼンの資料作成に追われていた、そしてそれが終われば次の新企画告知の資料作成。

毎日まいにちこんなに仕事をこなしてもまた増えていくものなかと感心する。しかもライン工のように流れ作業で終わらせるものは少なく、一つ一つ考えて仕事に片づければいけないのだから大変だ。でも充実している。どうやら性に合ってるらしい。

話は変わるが社会に出た当初は正直、不安だった。やっぱり彼女が死んだことを吹っ切れたと思っていたのだけれど、やはり一瞬の心の隙からふと彼女のことを思い出される。学生から社会人へ環境が変化し、それに適応しようと頑張っているが、そんなプレッシャーからストレスが僕を現実逃避へ誘おうとする。そのたびに気分が悪くなって仕事に手がつかなくなったりしたが、今では目の前の仕事を片付けることが精一杯なので、そんな心の隙も生まれない。それが幸か不幸かは不明だが、いま現状ではプラスに働いている。

ただいつからだろう。ちょうど社会人一年目の夏を過ぎたくらいから僕の夢に彼女が出るようになった。

 内容はいつも決まっている。死んだはずの彼女が夢に出て僕の名前を呼び続ける。そんな夢だ。

夢の中での彼女は白いワンピースを着て、白いぼんやりとした世界から僕の名前を呼び続けている。よく映画や小説にあるような「死んだ彼女が死後の世界から元カレをあちらへ連れて行く」とかそんなホラーめいた悪夢ではない。むしろなぜかその夢を見るといつも朝起きるのが清々しいのだ。まるで僕を起こしに来てくれいているような、そんな気のする不思議な夢なのだ。

僕は彼女の夢を見て、別段悲しくなったりはしない。むしろなんだか彼女が見守ってくれているようで安心する。




 今日も一日が終わった。

僕は誰も帰りを待っていないボロアパートに帰る。毎日朝早く出社し残業をして夜遅く退社するのでいつもヘトヘトだが、出社と帰宅ラッシュに被らないのがなによりだ。疲れているのにあんなぎゅうぎゅう詰めに人間が押し込められている空間にいるのはキツい。

「ただいま」

 駅を降りて途中で買った弁当を食べ、風呂に入って、ニュースを見たらもう就寝する。こうして大体の一日は過ぎてゆき、また日は昇れば一日が始まる。

(明日は出張の資料を仕上げないとな……)ベッドの中で明日の段取りを考える。あれがまだだ、あの案件も早く片付けないと、と考えていると気付けば寝入ってしまう。

 ゆっくりと、ぼんやりと意識が遠退いてゆく。

「冬馬くん」

 そんな中で彼女の声が聞こえた。

これは幻聴、夢だ。つまり所詮は寝ているときにしか見ない幻想で、起きてしまえば全て消え去ってしまう。

しかし、今日だけは違った。

目を覚ますとそこには死んだはずの彼女が僕の体を揺すって起こしていた。

僕は思わず飛び起きた、ベッドの上に。

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