ホワイトクリスマス
僕は覚えている。あの時も今日ぐらい寒かった、シーズン初めての雪は夕方ごろから降り始めて夜には街全体がうっすらと白い雪化粧に覆われたいた。
就職先も内定してあとは卒業を待つばかりだった僕は同じように暇を持て余していた仲の良い友人たち、それに当時付き合っていた彼女の恵と飲みにでていた。
酒も入りテンションの上がった僕たちは、一軒目の居酒屋もそこそこにカラオケ店へ突入。散々に盛り上がっていた。ここまでは僕達にとっていつも通りの展開なのだだが、その日は卒論やらで溜まりにたまったストレスが爆発したようでいつも以上に盛り上がっていた気がする。
元々そんなにド派手でイケイケなタイプじゃない僕はその場の激しく盛り上がる雰囲気についてゆくのにも疲れてしまって、こっそり抜けだしカラオケ店の軒先で缶コーヒーを飲み、風にあたっていた。あまり美味しいとは言えないブラックは初めこそ熱々だったのだけれど、街を白く染めていゆく雪を見ていると静かにゆっくりとぬるくなっていた。
「なーにやってんだー」
僕の後ろから明るく聞こえ慣れた声が聞こえたかと思うと同時に両ほっぺに冷たいなにかが押しつけられる。
「冷たッ」不意にきた感触に思わず立ち上がり仰け反る。
「冬馬くんの冷たがりー」
振り向くと指をさしてケラケラと楽しそうに笑う恵がいた。
「めっちゃ冷たいのだけれど、なにしたのかなー」君は、そう言いかけると手の平サイズの雪玉を彼女が両手に持っているのが見えた。去年のクリスマスにプレゼントした手袋をはめて防寒はバッチリのようだ。
「雪遊びだよー」酒をけっこうな量を飲んでいるみたいで、ほっぺを真っ赤にして笑顔いっぱいにして答えたてくれた。彼女はお酒が好きで、僕と似てあまりはしゃいだりはしなが、みんながはしゃいだりしているのを見るのが好きなようで飲み会の時はいつも機嫌が良い。
「みんな盛り上がってるね」
「うん、いつも通りだけど」彼女が笑う。
「でも、今日はみんなまた一段と凄いね」
もう最後だからかなーと彼女は言うと上を向いて雪をじっと見ている。「もう卒業だね」
「そうだな」
「あのさ冬馬くん」
「うん?」
「卒業してもこれからもよろしくね」寒さのせいか酒のせいか、ほっぺを赤くしてニッと笑う。そんな彼女が可愛く感じた。
「こちらこそ、よろしく」冷めてしまった缶コーヒーを握り直す。中身はもう空だ。
「うん、いいよ」と言うと彼女は僕の缶コーヒーに視線を落とす。「あっ、私もコーヒー飲むー」そういうと彼女はカラオケ店の道路を挟んで対面にあるコンビニへ足を向けた。
「自販機あるぞ」
「冬馬くんしらないの? 最近のコンビニはコーヒーをドリップしてくれてその上安いんだよ?」
知ってる。だって僕はコンビニ店員だし。
「気ぃつけろよ、滑って転ぶなよ」
「大丈夫だよー」とこちらに振り返り笑顔でピースサインを作る彼女。振り向いた反動で足元がフラつきとても危なげであった。
そのときだった。
ふらついた彼女はそのままバランスを崩して道路へ体が倒れてくと、ちょうどそこを通りがかったタクシーに跳ねられて体が宙を待った。
そこからのことはあまり覚えていない。
人って跳ねられた時あんな凄い音がするんだなってこと、彼女が腕の関節があらぬ方向に曲がっていて恐怖したことと「痛いよ」っていう彼女の微かな声が聞こえたこととか断片的な記憶はあったがはっきりとしたものはなかった。
僕の記憶の中で次にはっきりとしたものは彼女が出棺した時からだ。
あの日は最愛だった彼女が死んだ日。その瞬間だけを、僕は覚えている。