北の国の紅い蜘蛛9
言い争っていたのは2人。
1人は面識はないが顔は知っていた。隣国の外交官で、嫌々ながら付き合わされた社交パーティーで見かけた初老の男性だ。
もう1人は顔見知りだ。チャイナドレスの女性だ。けばけばしい化粧と、若作り丸出しのお団子結びが痛々しいほど不釣り合いだ。
「……あら~っ!私の梅岩!よくいらしたわねえ!」
梅岩に気付いた女性が、走り寄ってきた。
高慢な中年女性だった顔が見る見るうちに変わり、梅岩の前に至る頃には十代の少女のものになっていた。
梅岩は悟った。
このロ〇ータぶった髪型は、彼を迎えるために変じさせたものだったのだろう。万全の用意をしたところに、あの外交官が一足違いで割り込んだのだろう。
(じいさま、よく呪殺されなかったもんだよ。
…いや、ここは理性を保ってたばあさまを褒めてあげるべきなのかな?)
梅岩が老人の背後をよく見ると、立派な狼の姿をした守護霊がいた。
なるほど、こういう場所に寄越されるくらいだから素人ではなかったか。この狐の女王の怒気に触れたら、それだけで通常の人間なら即死モノだ。狼はまだ足を一本引きずっているくらいだから、あと五分くらいは生きていられただろう。