北の国の紅い蜘蛛8
「地下室につながる階段付きの調理場とはね。やっぱり都は違いますでおますなあ」
梅岩が皮肉をたっぷり込めると、振り向いた案内人は物凄い表情で睨んできた。口が細長く伸びて、顔色が橙色に変わっている。
「こんこん。案内はどうしたでおますか。こんこん」
案内人は耳を震わせながら、階段を下りて先導した。
踊場まで降りるとすぐ、朱色で塗られた観音扉があった。
耳を尖らせる程に正体を露出させた案内人の後ろ姿を見ていると、さすがの梅岩もばつが悪くなってきた。
「サンキュ。いじめて、ごめんな」
優しい言葉をかけたのは、少しばかり遅かったようだ。
案内人は扉を開けた後に振り向いた。
「死ね」
呪詛にまみれた言葉を放ったその顔は、完全に狐の面だった。
「おー、怖。口は災いのもとでおますなあ」
あまり反省していない梅岩は、地下室の奥に目を向けた。
朱色に染められた広大な部屋に、梅岩は唸らされた。この連中は重要施設を地下に作る習性があるのだが、さすがに元締めともなると規模が違う。
最奥での口喧嘩が上まで響いていたのは、この無駄に広い空間のせいだ。
同じ部屋に足を踏み入れてようやくわかった。口論は、異国の言葉による応酬だったのだ。