北の国の紅い蜘蛛7
座敷まで通されたが、姿を見せたのは芸子だった。
「女将は用があるさかい、しばらくお待ちやす」
案内人の不自然な態度に、梅岩は訝しんだ。『あの女』が彼を待たせるなど、尋常なことではない。
舞を始めようとした芸子を制止して、梅岩は床に耳を澄ませた。
下から声が聞こえる。何か言い争っているようだが、いくら集中しても何を言っているのか聞き取れない。声が小さ過ぎるわけではないが、何故か聞き取れないのだ。
ますます怪しいと感じた梅岩は、座敷の端の畳を乱暴に剥ぎ取った。
芸子たちの騒ぎを聞きつけて案内人が襖を開けたときには、梅岩は愛用の二丁拳銃を抜いて下に向けていた。
「何をなさる!!」
地元民の演技を忘れた案内人が驚き半分怒り半分で叫ぶと、梅岩は口元を歪めた。
「下に行きたい。案内してくれるなら、無茶はしなくて済むんだが…」
梅岩にはわかっている。彼らとは言葉による交渉は無駄であることを。意志を通すなら、荒事が必要であることを。
「…ヤップンチャイッッ!
……こちらへどうぞ…」
つい出た母国語での暴言を口元に封じ込めて、案内人は廊下に出て『調理場』と書かれた扉を開いた。