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北の国の赤い蜘蛛66

「そうよ。……それにしても、楽しそうね」

息子の笑顔に被せるように、母親も笑った。


「ん……?楽し??」

梅岩は意表を突かれた。

恐ろしく重たいものを背負ってしまったのに、確かに言われてみれば母親の言う通り、寝太郎少年(仮名)と話が出来たことが非常識なくらい嬉しかった。


俗に『母親というのは子供自身より子供のことを知っている』などという。

この謂われにどの程度の信憑性・汎用性があるかは別として、帝の母子はまさに当てはまるケースだった。


「そうよ。貴方、楽しんでいるでしょう?他人の人生を背負いこんでしまったのに、貴方は楽しんでいるの。本当に変な子。

でも、それが貴方の強みなのよ」


この母は、息子がときに支離滅裂なことをしでかす理由がよくわかっていた。

「貴方の優しさは、いずれとても大きな力になってくれるわ。だから、誇りに思っていいの。

困ったことも出て来るだろうけれど、そういうことは烏傘にでも任せてしまいなさいな」

悪戯っぽく笑って、母親は仕事に向かうべく去っていった。


梅岩は

(これ以上負担をかけたら、烏傘が死んでしまいそうだがなあ)

と思った。

そして、どうして自分が楽しんでいるのか、見当もついた。


(そうだ。“今度は”救ってやれるかもしれないんだ……)



大事なことがわかって嬉しかったが、同時に酷い眠気に襲われて欠伸をしっぱなしであることにも気付いた。

梅岩は溜まった仕事に埋もれるだろう半日後に備えて、寝室へと向かった。


それは長く長く、そして楽しい一日だった。

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