北の国の紅い蜘蛛60
「もし…烏傘さんが2・30人もいたら、祓えますかね?」
この場面で、木霊秘書が迷言を吐いた。
「はは。そんな術式でもあれば、万々歳だけどな」
センスの無い冗談に、梅岩は敢えて乗った。それだけ自らの無力に嫌気が差していた。
「一時間半ほど時間を頂ければ、おそらく…」
木霊は鞄から紙の束を取り出した。人の形に似せて切った、いわゆる人型だ。酷く不恰好で、歪な出来であった。
「ちょ、失礼します」
木霊は札を一枚、烏傘の背中に貼った。歪な人型を、烏傘を囲むように配置した。
そして「ナンマク…ボダラ…アリウン…」寺のものらしい呪を唱えはじめた。
梅岩も烏傘も呆れた。
やりたいことは見当がついた。人型を使い幻体を生み、烏傘を増やそうというのだろう。
ただし、烏傘数十人分に相当する幻体を発生させるには、それだけの拝み屋を必要とする。木霊が仮に一人前の拝み屋の力を得ていたとしても、烏傘を二人に増やすだけだ。必要な力には到底届かないだろう。
木霊のしていることは何の解決にもならないと、誰もが思った。
ところが奇跡は起こった。
烏傘の周りを、四体の幻体が囲むようにして生まれた。
それは人型のデタラメさに応じて、顔が前衛芸術のようだったり腕が両方とも右腕だったりで、酷く不恰好だった。
ただし、機能にさほどの影響はないだろう。
「オレは…こんなヘチャムクレじやないぞ!」
烏傘には極めて不評だが、残念ながら本人の好き嫌いに耳を傾けている場合ではない。




