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北の国の赤い蜘蛛58
状況が詰んでいることを、梅岩だって百も承知であることを察した。それでも梅岩が無謀な真似を試みた動機に見当がついた。
これが本当に邪鬼ではなく憑かれた人間であるとしたら、どうして滅することが出来ただろうか。殺人者になれなかった梅岩を、どうして責めることが出来るだろうか。
梅岩は実現はまず無理だろう難題に、ろくに策もないまま立ち向かうしかなかったのだ。
「…烏傘。オレはこの子に偽善者呼ばわりされたよ。返す言葉も無かった。
オレは単に人殺しになりたくないばっかりに、この子の死にたいという願いを聞かずに、皆に迷惑をかけるような事をわざわざ選んだのさ」
梅岩は帝家の当主である。
国内最大の退魔師の棟梁である。そして、たかだか二十歳の未熟な若者でもある。
北の国で判断に迷い、結論を帰国後までに引き伸ばすことしか思い浮かばなかったのだ。




