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北の国の赤い蜘蛛56

「これは…なんとも禍々しい……」

帰国した梅岩が持ち帰った甕を目にした烏傘老人は、開口一番にそう言った。


烏傘の言うとおり、これほどの危険物が帝家に持ち込まれたのは、あの魂外しの事件以来のことだ。

梅岩や烏傘だけでなく、僅かな霊感しか持たない者にも、黒いガスのような障気が瓶の蓋の隙間から漏れているのが確認できた。

珍しく太陽が顔を見せた冬空は、甕の置かれた帝家敷地内の儀式場だけが陰ったように暗かった。

幾人かが遠巻きに厄介な荷物を見つめる中、百重だけが縁側に腰掛けて悠々と茶を飲んでいる。



「梅岩様、これをいったいどうするおつもりですか?」

烏傘には、どうして蜘蛛を滅することなく持ち帰ったのかがわからない。


「烏傘。信じられないだろうが、この中身は人間なんだ」

語るに落ちる。こんな瘴気を吐き出す人間がどこにいる?当の梅岩さえそう思った。

しかし、梅岩はそれ以上に非常識なことを言わざるを得ない。

「オレはこいつを、出来るなら仲間に引き入れたいんだがな」


梅岩の予想そのままに、烏傘は時間が止まったように固まった。そして、崩れるようにへたり込んだ。


このマツ〇ンも真っ青の暴れん坊将軍がやることには、それなりに免疫をつけたつもりでいた。

ところが、この日の暴挙ばかりは予想の斜め上どころか次元を越えていた。

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