北の国の赤い蜘蛛53
「償う?無茶だよ。俺が何百人殺したか、俺だって覚えてない。一生かかったって、償えっこない。頼む、俺を殺せ。殺してくれ……」
悲痛な叫びが梅岩の脳髄を浸食した。
梅岩は縛妖陣を使い、何人もの人だったものや邪鬼の心の中に侵入してきた。幾度かは強靭な精神の持ち主に当たり、負けそうになったこともある。
今日の敵は最も脆弱で、そのくせ最も手強かった。自ら死を望む敵など、今までなかった。
「いいか。君が殺した何百もの人達は、いったい何のために死んだんだ?ただ運が悪かった、それだけのために何の意味もなく殺されたのか?
オレは許さない。そんな酷いことを許すわけにいかない。
いいか、君はオレとともに生きるんだ。一緒に、たくさんの人の命を救うんだ。君の中の邪鬼と戦う術を教えてやる。罪と戦う術を教えてやる。
これはアドバイスじゃない。命令だ。君が本当に罪を感じているなら、死ぬことに逃げるな!」
梅岩は精一杯の言葉をぶつけた。でも、これで勝てる気はしなかった。
少年の心の闇は、言葉でどうにかなるほど浅いものではなかった。
「…黙れよ。偽善者が……」
少年のものとは思えないほど低く暗い声に、梅岩は突き飛ばされた。
梅岩は足元を失い、闇の中に落ちていくような感覚に陥った……




