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北の国の紅い蜘蛛5
「で、当主様はどうなさるおつもりですか?」
木霊秘書は、ようやく明快な質問をしてくれた。
「よくぞ聞いてくれた」
梅岩はニマッと笑い、机の上にかけてあったオーバーを羽織った。
「必要なのは、暫定の人材確保さ。それこそが妙法さ」
鞄を開けて中身をチェックし、また閉じた。
「!?…当主様、どちらへ?」
いきなり身支度を始めた梅岩に、秘書は驚きを隠せない。
「後は、適当にやっておいてくれ」
帽子の鍔を弄んで、梅岩は書斎を出て行こうとしている。
「はっ…?烏傘さんにはどう言えば良いんですか?」
木霊は狼狽しきっている。はみ出たベルトがウネウネ動いた。
「烏傘には適当に言っておいてくれ。じゃあな」
有無を言わさず、梅岩は去って行った。
軽快な走りは止める隙もなく、あっという間に垣根を飛び越えていた。
「…あれは僕は越えられないのを知ってて!!」
わけあって正門からしか敷地を出入りできない木霊は、地団駄を踏んだがもう遅い。
「…しかも、怒られるのは僕なのにっ!」
自らに降りかかる災いを予測できていても、木霊はただベルトを揺らして嘆くしかなかった。




