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北の国の赤い蜘蛛46
少年が目を覚ましたとき、そこは寺の敷地内だった。縄の張られた結界のすぐ内側で、少年は地べたの上に寝転がっていた。
体はおかしいところがなかった。
足も、腕も、どこも元の通りになっていた。
幽霊になったわけでもなかった。なにせ起きたわけというのは、若い僧侶に頬をはたかれたからだった。
「いないと思ったら、こんなところで寝ていたとはね。掃除もサボリやがって、こっちが怒られるところだ」
意地悪い僧侶の口振りが、むしろ懐かしかった。
あれは夢だったのだ、と少年は思った。
本当に恐ろしい夢だった。苦痛も恐怖も酷くリアルな悪夢だった。
もしかしたら、あの結界は白昼夢を見せるものだったのかも知れない。越えようとするものを昏睡させ悪夢を見せる、そんな不思議な力を持つ縄だったのかもしれない。
だとしても、二度と縄を跨ぐ事はすまいと少年は決めた。たとえ幻覚だったとしても、生きたまま身を喰われる悪夢を見せられるのは懲り懲りだったからだ。
この寺は一生好きになれそうにないが、それでも一生好きになれそうにもない場所で一生を過ごすはめに陥る方が、いくらかマシに思えた。




