北の国の紅い蜘蛛45
眼下では猿たちが食事を終えたところだった。
「もう冷えちまったな」
「ミソまで食いたかったがなあ」
「ガキの体力じゃ、こんなもんだろ」
猿の群れは真っ赤な塊を地面に投げ捨てた。
「あの縄張りさえどけちまえば、美味な坊主を食いたい放題なんだが」
「慌てるな。はぐれ者以外を攫えば、用心される。
じっと待って、結界を破る手立てを探すんだ。あれには弱点があるはずだ。絶対にな。
あの坊主どもを全部食えば、オレたちの力は狐にだって劣らないはずなんだ」
「さすがはクビダワラ様、知恵がハンパねぇや」
大猿たちは喋りながら木立に身を隠していった。
(はは、ひでえや。
俺の体、ボロ雑巾よりグチャグチャだ)
頭と胴体の半分だけが残った自分自身の肉体はグロテスクなのを通り越して、見ていて笑えた。
もはや生きて帰ることを諦めると、悲観する気力さえ失われた。
少年はこのまま死霊として浮遊し続けるのだろうか、成仏できるんだろうか。寺の僧侶を頼るのは何だか癪だとか、そんなことを考えた。
少年は浮遊しながら、好きなように動くコツを掴みかけてきた。もはや自分の死骸に興味が失せてその場を去ろうとしたその時、また状況に変化があった。
死体の周りに、小さなものが群がっていた。
蜘蛛、鼠、蛇、山鳥…
様々な生き物たちがいた。
少年の体はとうとう残飯になったのかとおもった。
よく見れば、新たに寄ってきたものも普通の生き物ではなかった。蜘蛛はまるで子犬のように大きかったし、鼠は何匹もいるのだが一匹ずつの輪郭がおかしくて一個の群体のようにも見えた。山鳥の顔は人間の女性に似ていたし、蛇は真っ白で何故か賢そうに見えた。
……




