北の国の紅い蜘蛛38
梅岩は神妙な面持ちで長麿と名乗ったものに応えた。人を相手にするのには、笑顔を見せれば心を通じ合わせることが出来るが、神やヌシには失礼となりやすい。神やヌシには、敬意を持って相手しなければならない。
「紀伊の長麿様。僭越ながら、貴方の頼みがなくても、そのつもりでした。ただ、一つ聞かせてください。『片腕に憑いた』のではなく『片腕を演じていた』というのはどういうことでしょう?」
梅岩は嫌な予感がしていた。憑き物は、祓えば取れる。どんなに強いものでも危険なものでも、呪いが残ることはあっても取ることが出来る。だが……
(良い質問だな。
儂も、八又の鬼蜘蛛、地走り、産女、ぬっぺら坊、毛羽毛現、赤蟲、眸羽……いずれも憑いているのではなく、体を代行しているのだ)
長麿の答えは、梅岩を絶望させた。
憑き物なら祓える。だが、スドウ少年は……
「つまり、あの子はもう肉体を失っていると……」
だとしたら、祓うことに意味がない。
(左様。脳髄と内腑の一部を除き、あの子の肉体は人外のもので出来ている。
あの子には人を喰うもの達を引き寄せる力はあっても、制御する力はない。人を喰らうものの本能に任せるままに、喰らい続けることしかできない。
退魔の力でどうにかしてやることは出来ないか)




