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北の国の紅い蜘蛛33

30分ほど待ったろうか。

蜘蛛はなかなか現れなかった。

(動いたか…?)

もしも近くにいた場合、まず間違いなく梅岩を狙ってくるはずだ。霊感の強い人間は邪鬼にとって極めて美味な餌であり、喰われたり憑かれたりしやすいからだ。

エサがあるのに釣れないのは、つまりここには居ないと考えるのが自然だ…


「梅岩、後ろっ!」

百重が後ろを向いたままで叫んだ。梅岩は反射的に倒れ込むように屈んだ。

空気がのしかかるように重くなった。あまりの重さに、上に乗られたかと勘違いしたほどだった。実際はなたのような足が梅岩の背中の上を薙ぎ払っただけだったが、それの出す慞気はそれほど重かった。


おそらく、蜘蛛は気付かれないようゆっくりと近付いたのだろう。歩みを妨げる積雪と、凍てつくような寒さのせいで梅岩は感覚を奪われていた。そうでなければ攻撃を喰らうほど近寄られることはなかっただろうに。

360°の視野を持つ百重がいなければ、この時点で梅岩は首を刈られていたところだった。


蜘蛛は話に聞いたのとは違い、赤くなかった。全身に浴びた返り血は乾いて黒ずんでいた。

他は聞いた通りと同じだった。獣の足、蜘蛛の腹、山鳥のような翼。

「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ・・・・」と呟きを繰り返す声。

そして、長髪に隠れた顔

そこに、おそらく「スドウ」少年の顔があるのだろう。


「…君に会いたいな」

梅岩は少年を助ける決心をした。

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