北の国の紅い蜘蛛3
「ケンジロウ君。これは、酷く馬鹿馬鹿しい問題だよ」
梅岩は新しい秘書の青年に話をふった。
木霊家が跡取り息子を、教育を兼ねて手伝いに寄越してくれた。せわしなく真面目に動き続ける青年の肉体を休ませてやろようと、声をかけた。
作業に集中していたのだろう、眼鏡をかけた丸坊主の青年は「はい?」と言ったきり次の言葉が浮かばない。腰にはみだしたベルトの先がブラブラと揺れている。
梅岩は苦笑した。これは梅岩が悪い。
「うちは人材が少ない。一方で、霊障の相談に来るものを人手が足りないといって、四大家の紹介状でもなければいつも追い返している。実に間抜けな話じゃないか?」
説明しなければ、何の話かわからないのは当たり前だ。
新人秘書は眉をひそめて言った。
「それはいけませんね。困っている人は助けなければ」
…残念ながら、的を得ない返答だ。
「それができないのは、人手が足りないからだ。
だが、霊障を受けるというのは少なからず霊感を備えているか、寄せる性質である事に他ならない。つまり、面倒な客も手立て次第では人材発掘の鍵となるわけだ」
木霊硯治郎はまだ新人だ。
帝家に仕えて1ヶ月少々。右も左もろくにわからないだろう。
そんな状況で、組織そのものが見落としていた欠陥に、僅かなヒントで気付けという方が無茶だ。