北の国の紅い蜘蛛25
「はは、謙遜するな。本当に間違いない者を遣わせてくれて、青麗殿には感謝しなければならないな」
西の狐は実に『間違いない者』を遣わせた。
約束をきっちり守る、ただそれだけに止まらない。
帝家自慢の結界が絶対ではないこと。東側を壊滅できうる戦力を、いとも簡単に貸せる余裕があること。
百重を寄越すただそれ一手で、梅岩は思い知らされることとなった。
「ところで、オレは紅い蜘蛛の討伐に君を連れて行こうと思う。気が進まないなら、今のうちに言ってくれ」
これも探りだ。
蜘蛛は、青麗と高弟が撃ち漏らしたほどの怪物だ。自信の無い者は同行させられない。
「青麗様は、あのとき私を面子に入れていませんでした。攻防共に長けた者がいれば、結果は変わっていたと思います」
百重も曲者だ。ぬけぬけと言い切った。
この場合『攻防』の『防』は邪鬼を封じたり祓う力のことではない。百重も人外のものである以上、退魔の術を習得している道理はない。
つまり、百重は蜘蛛の爪を通さぬ何らかの手段を持っているということだ。
「一緒に来てくれ。オレは君を気に入ったよ」
百重の整った顔を凝視しながら、梅岩はこの厄介な仲間を受け入れる決意をした。




