北の国の紅い蜘蛛22
客間に足を踏み入れた梅岩は、客人を見るなり固まった。
座敷のちゃぶ台のそばで座布団に正座していたのは、スキンヘッドの若者だった。
少年のような華奢な体つきの上には、剃髪するには勿体無いほど整った顔が乗っていた。上品なルックスと、きっちりキメたスーツがよく映えていたが、驚嘆すべくは容姿の端正さと頭のギャップではなかった。
それは人間ではなかった。
見た目には人間以外の何者でもない客からは、秘められた妖の気が感じられた。
普通に考えて、この男が帝家の門をくぐれる道理はない。
「こんにちは。青麗様の約束により遣わされました、百重灯と申します。どうぞ、よしなに」
澄んだ低音で、男は丁寧に挨拶した。
人化の法を得ている邪鬼は少なくないが、これほど上手に演じることのできるものは一部の例外を除けばありえない。
梅岩は反射的に上着の両方の内ポケットに手を入れた。まさか屋敷内で敵にかち合うことは想定していなかったので、銃を携帯していなかったことさえ失念していた。
「まて…百重…そういうことか?」
梅岩はポケットから手を抜いた。ようやく理解が状況に追いついてきた。そもそもこの男は敵としてではなく、助っ人として屋敷に入ったのだ。




