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北の国の紅い蜘蛛21
そうこうしているうちに、使用人が玄関に入ってきた。
「当主様に面会を希望しているかたがいらっしゃっています」
ショートヘアの妙齢の婦人は少しかすれた声でそう告げた。
「大喜多、ありがとう。おそらく上客だろうから、オレが門まで行く」
まず間違いなく、カンパニーからの助っ人だ。ただし、そうだとしたら客は帝家の門をくぐれない。この屋敷には邪なものが入り込めないよう結界が張られているからだ。
「いえ、お客様は客間にお待ちしています」
大喜多と呼ばれた使用人の一言に、梅岩は気落ちさせられた。屋敷の敷居を跨いだということは、客は待ち人ではないことを示していた。
「だとすれば、予定外の客だな。どういう素性の者だろう?
霊障の客か、はたまた政府の役人か?
その場合は先にアポイントメントがあるはずだが、梅岩が忘れただけか。
「西の稲荷の使い、と言えばわかると…」
使用人はカンパニーの隠語を口にした。
ちょっと話が複雑になってきた。とにかく梅岩を御指名とあれば、無視はできない。




