北の国の紅い蜘蛛17
帝家に帰った梅岩は、烏傘に丁重に迎えられた。
玄関の式台で靴を脱ぐそばで、息巻いた白髭の老人が肩を震わせながら歩いてきた。
「梅岩…様、どちら…へ…おでか…けでしたか…な」
声が震えている。
怒りを抑えているのだろうが、わざわざ抑えている意味が梅岩にはわからない。
単語を切る位置がおかしくなるほど激昂しているくせに、爆発できないのだからおかしい。
「ケンジ君に聞かなかったか?狐のところさ」
梅岩はあっさり言い切った。
「狐…ですか。どち…らの稲荷様に…ですかな?」
梅岩は気付かなかったが、どうやら烏傘は嫌みを言いたいらしい。やり方が下手くそ過ぎて、わからなかった。
「青麗のところだ。何だ、何も聞いてないのか」
烏傘がその気なら、ということで梅岩もスッとぼけてみせた。
「…知らないわけないでしょう!!」
烏傘は激怒した。眼には涙が浮かんでいる。
「いったい、どういう考えがあってカンパニーなどに関わるのですか!」
梅岩は耳に指を入れて塞いだ。
年寄りの説教はいつも長い。忙しい梅岩に付き合っている暇はないのだが、もちろん烏傘にわかって貰えるはずがない。
「よいですかな。カンパニーとは、政府から退魔機関と認められていない犯罪組織なのです。無国籍者を含む外国人と、邪なものが構成員の半数を越す烏合の衆なのです。
そんな輩と、まるで手を組むような真似は…」
「そのことだが烏傘、オレはカンパニーとは手を組むべきだと思う」
烏傘が固まった。おそらく、梅岩が何を言っているのかわからないのだろう。




