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北の国の紅い蜘蛛11
青麗はクスリと笑った。
「これだから、あなたが好き」
そう言って、梅岩の耳朶を甘噛みした。
「…だよあんたは!若い男と乳くりくさって、人の話を聞け!」
梅岩はおもわず体が縦揺れした。さっきから異国の言葉でなにやら喚いていた老人が、急にこの国の言葉で話し始めた。
青麗はその様子を見てケラケラ笑っている。
「お人が悪い。呪をかけましたね」
梅岩にはわかった。耳朶を噛んだことで、老人の言葉が聞けるようにしたのだ。
「だって、依頼人の言うことがわからないと、仕事ができないでしょう?」
青麗は口元を綻ばせた。
「マルコヴィッチ先生、問題はこの子が解決するわ。…腕は保証します。若いけど、この国では一番の退魔師だから」
マルコヴィッチと呼ばれた老人は眉をしかめた。訝しみながらも、話を始めた。
(間が悪かったな…)
梅岩は運の無さを恨んだ。
この老人の持ち込んだ話は、相当に厄介なものであることを覚悟した。




