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できること

 ◇◆◇◆◇冒険者の町ウエルズ◇◆◇◆◇



 俺たちが町に着くといつもと雰囲気が違うことに気がつく。

 ウエルズは冒険者が良く集まる町だが、それほど規模は大きくない。

 だが喧騒にまみれて活気にあふれてる中でも、どこかのどかな雰囲気も併せ持つ人間族が主体の町だ。


 それが喧騒にまみれてるのは変わりないが、どこかピリピリとしまくっていて異様だ。



 早くギルドに急いだ方がいいな……



 ◇◆◇◆◇冒険者ギルド◇◆◇◆◇



 ギルド内は冒険者でごった返していた。


 それぞれ何やら相談しているもの。

 打ちひしがれているもの。

 何をしていいのかわからず熊のようにウロウロしているものやら様々だ。

 だけど、みんなピリピリしてるのはかわらねぇ。


 とりあえず情報がほしい。


 俺はキョロキョロしてると、一人の壮年で赤髪の背はちっちゃいがゴツイおっちゃんを見かける。

 向こうも俺を見つけたらしくおっちゃんからこっちに向かってくる。


「リック、ライガ、パルドレオ。お前たちも来てくれたようだな」


 このおっちゃんはこの町の冒険者ギルドのギルドマスターだ。

 みんなギルドマスターとか俺もギルマスさんって呼んでるから、本名はちょっと忘れちまった。

 背がちっちゃくてゴツイがドワーフ族のようだが人間族らしい。


 ひげも結構立派だからちょっと信じられないんだがな。


「オッス……って普通に挨拶を交わす雰囲気でもなさそうだな、いったいどうしたってんだ?」

「うぅむ、実はまだ風の便りで聞いた程度なんだがよ。どうやら魔竜がこの町に向かってるようだ」

「魔竜か……」


 魔竜は鱗のある竜型とよばれる種類の上位魔物だ。

 魔竜が攻めてきたといっても、魔竜の強さはピンからキリまでいる。

 魔竜の強さの幅は上位魔物の中でも最も広いんだ。


 弱い奴は本当に弱い。

 だがやばい奴は国の騎士団をぶつけてやっと討伐や撃退って程度になるからこれだけでは判断をしかねる。

 風の便り程度じゃ情報は多くはないからしかたないが……


 風の便りっていうのは、ときたま風の精霊がさらっと周辺の情報を教えてくれたりする事を言うんだ。

 端的で情報の量は多くはないが、知らせてくれた情報はおおよそ確定した確かな情報だ。


 ちなみに風以外の他の精霊も、生きる者のことをさりげなく助けてくれたりしてくれるんだ。


「ギルマスさん、もう少し情報はないのか?」

「風の便りによるとよ、その魔竜と遭遇した冒険者パーティの生き残りが二人こっちに向かってるらしいようだ。今はそのもの達が頼りなんだがよぅ」


 なるほど、(ダンジョン)の外にいた魔竜と運悪く遭遇したパーティがいるんだな。


 だいたい冒険者パーティは最大6人で組むもんだが、二人残して全滅ってことは個人で太刀打ちできるレベルではない奴が来てるってことか。


 そんなこと考えてると、外が妙にやかましい。


 入り口のほうで「担架もってこーい」「いいか、ゆっくり下ろせー」とかいってる。

 けが人が来たんだな。冒険者の中にはいろんな治癒の知識を持った奴が多いからとりあえず冒険者ギルドに運ばれることが多い。

 ギルドもそれように治癒室作ってある。


 俺たちも入り口から入ってきた担架を見る。

 担架に担がれてる少女はかなりひどい怪我のようだ。

 フラフラしながら二十歳くらいの冒険者風の女の人もついてきた。

 ボロボロ泣いている、パーティメンバーなのだろう。


「ふむ、あれはちょっとひどいにゃ。ミーもちょっと手伝いに行ってくるにゃー」


 パルがそう言って治癒室に飛び出していった。

 パルはあれで怪我の治癒に関してはかなりの腕がある。かなりひどい怪我に見えたがパルが行ったならどうにかするだろう。

 そう思いながら治癒室の方を眺めていると、さっきの付き添ってた女の人が俺たちの方へ向かってきた。


「……ギルドマスター、風の便りで魔竜のことは聞いていたそうですね。

 私たちの出会った魔竜について説明させていただきます」


 そっか、生き残りの二人はこの人たちか。


「そうか、お前たちかよ。大変だったな。立って話すのもなんだしよ、応接室で話そう」


 ギルマスさんはそう言って行こうとするが振り返った。


「ほら、お前らもこいよ。おそらくお前らが今この町で一番ランクが高いからよぅ」


 女の人は一瞬「えっ」と疑問を顔に浮かべて少しだけ覗き込むように俺のことを見た。そのあとに少しだけ考えるそぶりをしながらギルマスさんについて行った。


 まぁ、俺みたいな若造が一番ランクが高いって言われても疑わしいよな。ライガさんは老けてみられるから問題ないがな――

 ゴスン。俺の頭が鈍い音を鳴らすと目から火花が散る。


「イテェっ、なにすんだっ」

「老けて見えるのは余計な御世話だ」

「なっ!」

「うぬはすぐ顔に出るからな。今のはパルでなくともお見通しだ」


 そういうとライガさんはクックックと笑う。

 俺は釈然としないまま応接室へ向かった。



 ◇◆◇◆◇冒険者ギルドの応接室◇◆◇◆◇



「サイネリア。確かお前のパーティは6人だったよな、よく見てはなかったが担架で担がれてきたあの子はプラナスかよ?」

「はい……」


 サイネリアって呼ばれた人はこげ茶色の髪に青い目をした人でローブを着ている。なかなか鼻筋の通った美人なんだが、怪我をしたプラナスと呼ばれた少女のために急いでたんだろう。肩まである髪は少し乱れていた。

 

「あの将来有望な4人を亡くしてしまったのか。

 ……サイネリア、いろいろ落ち着かんかもしれんけどよ、町の危機かもしれん。話してくれるか?」


 なんだかんだで、ギルマスさんは見た目あれだけどいいおっちゃんだ。

 町にいる冒険者の名前とパーティまで全部把握してるギルドマスターなんてそうはいない。


「……はい、大丈夫です」

「すまんな。では、単刀直入に聞くぞ。種族と魔竜の等級はどの程度なんだ?」

「種族はファイアドレイク。等級はおそらく……超級です」

「なっ…… 超級かよ……」


 ギルマスが呟くとどっと脂汗を吹きだす。

 ライガさんも俺もギルマスが感じるヤバさはわかる。

 ライガさんの表情にもかなりの緊張が走る。超級の魔竜はかなりやばい。


 魔竜はサイズの幅がかなり大きく、それは同じ種類の魔竜であっても全然変わってくる。当然サイズによって強さが違うからいくらか等級わけがされているんだ。


 軽級が中級の冒険者が個人でも相手にできるレベル。これは目安だがだいたい体高二メートル以下のやつだ。


 普級が中級の六人パーティで相手にするレベルで魔竜の中で一番よく見かけるサイズだ。体高四メートル以下だ。


 重級は体高七メートル以下。重級より上は基本的に(ダンジョン)で相手にすることはない。基本無視して帝王乳も諦めるしかない。

 魔竜は女王の間に入ってもすぐにそっと出たら、意外と簡単に見逃してくれるんだ。虫の居所が悪いときと腹の虫がなってるとき以外だがな。

 大体の場合は戦うときは魔竜が襲撃に来た時くらいだから(ダンジョン)の外になる。

 といっても、六人パーティじゃ普通は相手にならねぇ。三十人くらいの冒険者を集めた討伐隊か国の騎士団が相手にするレベルだ。


 そして件の超級だ、体高は十メートル以下。これくらいになると百人の騎士団員でようやく討伐できるくらいだ。


「どこで遭遇した?」


 ライガさんが声を出すとギルマスさんもいくらか冷静さを戻した。


「場所はこの町の西にあるラグビ丘の森の奥です」

「ふぅむ、思ったよりかは遠いがよぅ……」


 ファイアドレイクも割とのんびりしてるから町まで来るのはおそらく明後日の昼と言ったところだろう。しかし……


「ギルマスさん、女王都にすぐに騎士団を呼びに行って騎士団到着までどれくらいかかると思う?」

「……おそらく、どんなに急いでもよ、三日はかかるだろうよ」


 やっぱりか、そうなると騎士団がついたころにはいくらのんびりしたファイアドレイクでもここは更地になってるってことか。

 ってなるとやっぱり、町が生き残るには。


「ギルマスさん、町にいる冒険者でCランク以上って何人いる?」

「ふむ? だいたいだがよ、五十人弱くらい居たと思うが?」

「よし、冒険者で討伐隊を組もう」

「なにっ! リック本気かよっ? 超級は騎士団でも最低百人は必要といわれてるんだぞ?」


 ギルマスさんがそういうのも無理はない。

 冒険者が実力的に騎士団員に劣るってわけじゃないが、集まった時に騎士団ほど統率がとれるかって言うと普通は無理だろう。

 それに加えて今回は数も圧倒的に足りないしな。


「だが、やるしかねぇ。ここは冒険者の町って言われてる町だ、この町をつぶされたら俺達冒険者のメンツにもかかってくる。大丈夫だ、俺達冒険者の町の冒険者ならやれるさ」


 他の町なら無理だろうがここ冒険者の町ウエルズなら俺は別だと思う。

 冒険者の町って言われるだけあって、ここの町は多くの冒険者が長く滞在する町だし、駆け出しからベテランまでみんな集まってくるような町だ。

 酒場に行けば冒険者の半分は顔見知りだってことすら珍しくないしな。

 この町が好きな奴らが集まればいけるはずだ。


「私も、私もぜひ参加させてくださいっ! まだCランクになりたてですがこれでも西魔術士です。きっとお役に立って見せます」


 サイネリアさんはバンっと立ち上がるとそう申し出てくれる。そりゃ彼女に取ったら弔い合戦になるしな。この提案は渡りに船だろう。


「あぁ、ぜひとも頼むよ。よろしくな、サイネリアさん」

「サ、サイネで結構です。仲間からはそう呼ばれていました。一時とはいえ仲間になるんですから、ぜひともそう呼んでください」


 サイネがまくしたてる。それだけ今回への意気込みが表れているんだろう。


「ん、わかった。じゃあ改めてサイネ、よろしくな」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますリックさん」


 サイネは深々と頭を下げる。


「おいおい、そっちこそさん付けとかやめてくれよ」

「そうだな、今から汝はリック隊長だからな」


 横を見るとライガさんがうっすら笑みを浮かべる。


「ぇえ? 俺が隊長なのか? ライガさんのほうが隊長っぽくないか?」

「汝が言いだしっぺだろう。言いだしっぺならちゃんと責任をとれ。それに我らがリーダーを差し置いて我が隊長など恐れ多いわ」


 ライガさんがわざとらしく肩をすくませる。


「へっ、よく言うよ。まぁでもそうだな、若輩者ではあるが俺が暫定的に隊長ということでいっかな」

「暫定も何もお前以上に適任者はこの町にはおらんわ。

 そうだな、ギルドマスターであるワシ自身が冒険者を信じんでどうするんだろうな。

 よし、討伐隊の募集は任せろ」


 よし、とりあえずのやることは決まったな。問題は人が集まるかどうかだが、その辺は無駄に考えててもしょうがねぇか。

 俺は俺に出来ることをだ。


「んじゃ、募集はギルマスさんとライガさんにまかせるよ。サイネも手伝えるようなら手伝ってくれ。

 とはいってもプラナスだっけか? あの子の様子が気になるだろうから一息ついてからでいい」


 ライガさんもギルマスさんもこくりと頷く。


「お気づかいありがとうございます。妹には話に聞くパルドレオさんがついてくれているので安心だとは思いますが、少しだけ様子をみたらすぐに私も募集を手伝いますね。

 でも、リック隊長はどうするんですか?」

「俺はファイアドレイクを直接見に偵察に行ってくるよ」


 サイネは目をまん丸くして驚く。

 数も圧倒的に足りてないし、敵をちゃんと知っとかないとな。あと戦域の設定とかいろいろと必要だからなにより調査が基本だ。


「えっ? 危険すぎます! それに馬に乗って急いでもラグビ丘までは結構かかるのに」

「大丈夫、大丈夫。日が高いうちに帰ってくるよ。んじゃ、さっそく行ってくらぁ」

「道草食うなよ」

「くわねーよっ!」


 ライガさんとくだらないやり取りをしながら俺は飛び出した。

 まぁ、サイネの心配ももっともだが、俺の足は馬よりはええ。万が一ファイアドレイクに見つかってもすぐ逃げれる自信はあるしな。


 それにしても超級かぁ。こういっちゃなんだが、結構ワクワクしてる。


 うん急ごう。




「あぁ、行ってしまった。本当に大丈夫なんでしょうか」

「リックの足は馬より速いし、ラグビ丘までの往復なら途中でばてるような体力ではない。我が保証する」

「本当にすごいんですね。十八歳にしてAランク冒険者のリックって噂にはよく聞きましたが、不思議な方です」

「ふふ、我らがリーダーだからな。さ、我らは我らのなすべきことをやろう」

「ええ、そうですね」


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