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Wild dance

 ◇◆◇◆◇女王の間◇◆◇◆◇



 女王の間に入ると今まで無骨な岩ばっかりだった風景と代わり、壁には細かくキラキラ光るごくごく小さな石がところどころちりばめられている。

 中央には予想通り魔人がいた。

 部屋はかなり広く戦うには十分な広さだ。


 本当にどうやってこんな場所を作ってるんだろう、っていつも思ったりもするが、今は余計なことを考えてる場合じゃないか。


 中央にいた魔人と目が合いこちらに突進してきた。


「あいつは牙象頭(がぞうず)だな、手数で押していくぜ」


 俺がそう言うと何も言わずにライガさんは右に、パルは左に距離をとる。

 俺は正面に立ち、牙象頭の突進を待ちかまえる。

 奴は肩をぶちかましてから、手に持つ剣で真横に薙ぎ払うつもりなんだろう。

 だからって俺も大人しく真っ二つにしてやられる訳にはいかない。


 俺は接近した奴の肩を踏み台に飛び越え着地する。それと同時に地面を蹴りながら翻って、やつの背中に回転の勢いを乗せながら蹴り飛ばす。

 牙象頭は自分の突進力に俺の蹴りが加わったまま壁に激突した。


 グラグラっと女王の間が少し揺れる。さすがにかなりの衝撃だ。

 それなりにダメージはあったみたいだ。牙象頭が立ち上がりながら少し頭をふらふらっとさせる。

 だが、すぐさま俺の方を向きなおして血走った目でかなりの怒気を放つ。


 これで一旦こいつの注意は引き付けれたって訳だ。


 牙象頭ってのは象の頭が特徴的な魔人で体は三メートルくらいあってライガさんよりもかなりデカイ。魔人の中でもかなり大柄だ。見た目通りのパワータイプでその突進力と自分の象牙から作ったって言われる二振りの剣が文字通りの武器だ。自分の象牙から作ったって割にはしっかり長い鼻の横から生えてるけどなっ。


グァアオォォォォン


 っと、また咆哮をあげながら突進して来やがったな。

 象ならパオーンって鳴きやがれってところだが、だいぶ頭に来てるのかさっきより速い。

 しかも今度は縦斬りにして飛び越えられないようにするつもりみたいだ。

 俺は牙象頭の突撃に合わせて真後ろにバックステップを始めるが、当然すぐ追い付かれる。牙象頭が振りかぶってた右手の剣を全力で振り下ろす――。


 ――俺はそれを牙象頭に向かって左に飛び込んで避ける。


 剣は俺の影を斬った。

 奴は緩急をつけた突然の動きに、一瞬俺を見失ったようだがすぐに懐にいる俺を見つけたようだ。

 奴はすぐさま左の剣で薙ぎ払う。


 ――パルの槍を。


「にゃんとーっ」


 パルが思わず声をあげる。

 俺の誘導で完全にパルは死角にいたはずだ。俺も内心かなり驚いた。

 が、立ち止まってたら一太刀で殺される。パルも当然それはわかっているので立ち止まることはない。


 俺とパルは牙象頭を中心に二重の円を作る。

 俺は左回りに内周を、パルは右回りに外周をだ。

 これで間隙なく打ち込むことで奴の武器の一つ、突進力を奪う。これは俺たちの得意の戦法の一つだ。

 俺は周りながらながら片手で握った薙ぎ払いを二撃、両手で握った袈裟切り一撃打ち込む。牙象頭はそれをことごとく弾く、弾く、弾く。

 パルの槍からも何度も突きが放たれるが、巧みに逸らされていまいちダメージが入らない。


 そうこうしてると牙象頭からも鼻をぶんっと振り回して攻撃してくる。

 形勢逆転ってほどではないがひやっとさせられる。

 ライガさんも何度か西魔術の小さめの氷の矢を放つといくらか命中するが、あまり致命打にはなっていないようだ。


「にゃー、防御が固すぎるにゃー!」


 パルが叫ぶ。

 俺も叫びたい。

 こいつはかなりの戦闘技術があるようだ。


 誰だパワータイプだなんていったやつはっ。


 そんなことを何度か繰り返すが、あまり事態は進展しない。このままでは埒があかないな。


 ……しかたがない。


 俺はパルとライガさんに目で合図を送る。

 ライガさんは黙って頷きパルはニィッと口許の笑みを強くするが目は真剣味を帯びていく。

 俺は少しだけ速度を下げるとちょうどパルと同時に牙象頭の前に飛び出す。


グァオォォォォン


 牙象頭はようやくチョロチョロ回ってた煩わしいのが、二人とも前に出てきというところで歓喜の声をあげる。


 これでいっぺんに倒せるってか? 


 牙象頭は、両腕抱きこむように切り下げるモーションで飛びかかろうとしてきた。


「風を六十」


 ライガさんは右手に緑の(たね)を握り締めそのまま一足飛びに牙象頭に近づき巨腕を振るう。背にライガさんが掌底をめり込ます鈍い音がなると、牙象頭の動きが一瞬止まる。

 ライガさんは今まで離れて出力二十程度の西魔術でちまちま攻撃してたし、武器も握ってないから、牙象頭の警戒から外れていたようだ。だがまだ牙象頭は攻撃の体制を崩さないでいる。


「風は刃となり裂け」


 ライガさんがそのまま詠唱(しかけ)るとすぐさま飛び退く。

 若干タイムラグの後に高い音が響き出すと、同時に風は牙象頭の肉を切り裂く音を唸らせる。


ギァオォォォォン!


 牙象頭の背を大きく一文字に切り裂くと牙象頭がたまらず吠える。

 単色でこれだけダメージを与えるライガさんは流石だ。が、まだまだ牙象頭の致命傷にはならない。


「土は八十、火を五十」


 ライガさんは次に黄と赤の(たね)を作り出し混ぜる。牙象頭は完全にライガさんを第一驚異に変更したみたいで、ライガさんの方を向き潰しにかかろうとする。


「たぁりゃぁぁ!」


 もちろん俺もそんなことは折り込み済みだ。牙象頭の脇に回り込み出足を払う。牙象頭が大きくバランスを崩し膝をつく。


「土は岩球となり、火は火炎を添えて降り注げ」


 ライガさんはまた飛び込みながら詠唱しかけると象頭の額に手を翳す。

 ライガさんの頭の上に火炎に焼かれる岩の塊が現れる。それを合図に三人はその場を離れる。その直後に火炎岩は牙象頭に勢いをつけて落下する。

 ――牙象頭を押し潰し、燃やし尽くすそれは土煙を上げながら轟音を撒き散らす。


 牙象頭の持っていた二降りの剣は吹き飛び地面に転がった。


 ……さすがに終わったか?


「まだっ! ライガちんそっちに――」


 パルが言い切る前に土煙が揺らめくと、牙象頭がライガさんに向かって飛び出す。体を黒く焦がしブスブスと煙を上げながら、渾身の力でライガさんにぶちかましにいく。

 まぁ、この距離ならライガさんなら避けて――


「オォォォォッ!」


 ――避けなかった。

 ライガさんは正面から雄叫びを上げながら受け止めると、牙象頭の鼻を捻りあげて固める。

 ライガさんマジスゲェ。


 って感心してる場合じゃねぇ。これはっ!


「パルは下から俺は上からいく」

「オッケー」

“ウオォォォォォォォッ”


 俺とパルは咆哮を上げながら突撃すると最後の攻撃を加える。


「シィッ!」


 パルは全身のバネを使って牙象頭の脇腹から心臓を目掛けて一突き。


「ウオリャアアッ!」


 俺は飛び上がり牙象頭の首を切り落とす。

 牙象頭は首をズズズと重力の引っ張る方へ滑り出す。

 ライガさんは鼻を離すとそのままゴトンと地面に落ちる。

 パルも槍を引き抜くと、体も遅れて膝をつき砂埃をあげて地面に沈んだ。


「よっしゃ、いっちょあがりだな」


 俺はふーっと息を吐くと皆も同じく気を緩ませる。


「意外と手ごわかったにゃー。まぁでも早速、帝王乳の採取としますかにゃ」


 そういいながらパルは牙象頭の剣を回収してぽいぽいっとナップサックにいれる。

 牙象頭の剣も貴重な戦利品だ。なかなか頑丈で叩き斬るための重量感と切れ味のバランスのいい両手剣になる。

 ちなみにナップサックは冒険者ギルドが開発したマジックアイテムだ。

 見た目からは考えられないほどの収納性があって、中に入れた物の重量は十分の一になるすぐれものだ。なんでも収納術っていう空間のないスペースに亜空間を利用して整頓する術を参考にして作ったものらしい。


 何だか小難しいが、要するに便利ってことだ。まっ、そんなことはいいにして帝王乳の採取だな。


 俺たちは足取り軽く女王の間の探索を開始した。




 さて帝王乳探しとして、俺たちがまず探すのは女王蟻がいたと思われる微妙に光沢のある寝藁だ。この近くに帝王乳はあるはずだ。


 うん、たぶんこっちだな。


 実は帝王乳探しは俺たちの中では俺が一番うまい。


「おーい、こっちだー」


 俺がさっそく女王の寝藁と帝王乳を見つけると二人を呼んだ。二人はすぐにこっちへ向かってきた。


「さすがだにゃー、こんなに広いのにリックちんはすぐ見つけるからにゃー」

「へへっ、鼻の良さは負けねぇよ」

「……我などここまで近づかんと匂いを感じんのだがな」


 女王の間は全力で戦えるほど広いし風がほとんどないからな。これは俺の専売特許だ。

 帝王乳は金色に輝くとろみのある液体だが、ある程度離れるとその輝きは見えなくなる不思議な物質だ。

 帝王乳は女王の寝藁のすぐ横の壁の突起物からぽたっぽたっと浅く広く足高な琥珀色の盃の中に滴り落ちて貯められる。


「ぉおっ! 盃三段分っ! 丸儲けにゃー」


 琥珀色の盃は三段に重なっていた。

 パルは少し両手をあげて小躍りをしてから、ナップサックから空の水筒を取り出した。三段の盃から丁寧に水筒に帝王乳を移したら、盃は元の位置に重ねて戻した。今回の収穫量はおそらく百グラムくらいはあるな。だいたいは一段分しかとれないし一段満タンで四十グラムくらいだからパルでなくても小躍りする。


 この盃は帝王乳が固まってできたものらしくすでにある盃がひたひたになると帝王乳が盃の形になって段々になる。ちなみにこれは固すぎて食べられない。

 帝王乳は(ダンジョン)から迷宮蟻が居なくなっても長い間にゆっくりとだが採取できるんだ。

 ちなみに帝王乳が盃とする分の無駄を無くすためにも、空の盃はちゃんと戻すのが冒険者のマナーだ。



 そんな感じで帝王乳がバッチリ回収できたら、長居は無用だな。

 俺たちはホクホクと(ダンジョン)を後にした。




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