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冒険者

 

 ちょっとカビ臭い匂いが俺の鼻孔を刺激して、生ぬるい空気が俺の肺を充満する。

 岩場に囲まれた空間。どれくらい囲まれてるって言うと、見る限り岩肌ばっかり。

 上下左右、岩、岩、岩。赤茶けた岩。

 だが、俺は松明なんか持っていない。先の方まで見通せるわけではないが、自分の行動範囲くらいはなぜか見えるほど明るい。

 まっ、詳しいことは俺もよくわからんが不思議空間ってやつだな。


 俺は(ダンジョン)の中にいる。



 ◇◆◇◆◇岩の(ダンジョン)◇◆◇◆◇



 俺は今、猛烈に岩の壁の(ダンジョン)を走っている。

 どうしてかっていうと、となりにいるひょろ長い奴とゴブリンやオークの人型魔物の群れに追っかけられているからだ。


「うぉぉぉぉ、さすがにヤベェェェ」


 俺は思わずそんなことを言いながら疾走する。

 ゴブリンもオークも一体ではたいして強くはないし、元々三匹から五匹で群れながら襲ってくる魔物だ。だから群れるのが普通だし、俺達もそれなりに実力はあるから、本来ならこいつら程度はある程度群れてても楽勝だ。

 だが、今回は数が違う。

 俺たちを追いかける魔物の群れはおおよそ三十メートルほどの列に伸びているが、そこには我先にと襲いかかろうとする魔物がひしめき合っている。

 あいつら汗まみれでブヒブヒとかケケケケとか言いながら押し寄せてくるんだ。もう、見るのも暑苦しい。

 俺は魔物の数を三十から数えるのをやめた。


「あははー、リックちんがあれもこれも呼び寄せるからにゃー」


 俺とならんで走るひょろ長い奴は楽しげに笑っている。

 リックってのは俺の名だ。俺は青狼族の冒険者で、青髪青目で狼の耳と尻尾がある。

 まっ、平たく言えば獣人ってやつだな。


「いやぁ、俺も全部集める気は無かったんだがなぁ」

「うそつきにゃー、リックちんの事だからどうせ狙ったんだろうにゃー」

「カッカッカ、そのとおーり! って言いたいがなパル、今回は実にうっかりのなせる技だっ」


 俺は胸を張ってそうパルに主張する。本当は俺も半分くらいにするつもりだったんだが、勢い余って群れの中心まで切り込んじまった。

 テヘッ失敗失敗。

 パルっていうのは俺の仲間のパルドレオ。仲間にはパルって呼ばれている。紋豹(もんひょう)族の冒険者で黄色の髪に黄緑色の猫目、パルも獣人で猫系の耳と尻尾があって尻尾に円のブチがある。

 ちなみににゃーにゃー言ってるが男だ。方言みたいなもんだな。

 

「およよ、困ったもんですにゃー」


 緊張感もなく楽しげな顔で困った言うパル。まぁパルが真剣に困った顔をするときは、美味いパンに出会った時にレシピを盗もうと頭を悩ましてるときくらいだ。


「してー、リックちん。この状況をどう潜り抜けますかにゃー?」

「うん、こういうときはライガさんだ。なんとかなるだろ」

「あはは、投げっぱなしだにゃー。でも、ミーも同意見。ライガちんなら何とかしてくれるにゃー」


 そういいながら俺達は先にある三叉路を左に曲がると、その先に眉間に傷跡のある巨人がいた。


「わりぃ、ライガさん。全部来ちまった」


 先にいる人はライガさん。縞虎(しまとら)族の獣人だ。黄色の髪に黒目の猫目だ。体が俺より頭二つ分はデカイ、そしてムキムキだ。

 俺も決して小さくはないんだがな。

 あっ、ちゃんと猫耳と尻尾もあるぞ。

 そのライガさんが一瞬片眉を吊り上げる。


「……まったく汝らは。まぁいい、我に任せろ。――火は七十、光を五十」


 そう言ってライガさんは臨戦態勢をとる。剣は腰の鞘にしまったままだが、代わりに左右の手のひらに赤と白の(たね)を浮かべはじめる。


「よっしゃ、頼んだぜ」

「ライガちん頼りにしてるにゃー」


 俺とパルはライガさんの左右から後ろに抜ける。ライガさんは少しだけ口の端を緩ませる。

 ライガさんは両手を合わせてから腰を落とすと右腕をつき出す。右手に赤と白のマーブルの(たね)ができる。

 魔物たちはその様子に構わず、そのまま飲み込まんばかりに突っ込んでくる。


「火は焼き切る熱となり、光はそれを放射し、我の示す方へ導き放て」


 ライガさんが詠唱(しかけ)ると右手から赤い熱線の咆哮がうなった。

 一直線上にいた魔物たちの上半身、もしくは全身を消し飛ばされて、あたりは煙が立ち込める。

 ライガさんはこんなガタイをして西魔術をメインに立ち回る西魔術師だ。それもかなり腕利き。


「うへ、煙がすげぇな。でもあらかたぶっ飛ばせたのか?」


 煙が濃いせいで俺の鼻は利かないし視界が悪い。


「三匹のこったにゃ。でも逃げたにゃー」


 パルが耳をピコピコと動かしながら目を細める。

 この状態のパルに探れない気配はない。俺も耳に結構自信があったんだが、パルにはかなわない。

 まっ、パルがそういうならここはひとまず。


「いっちょ上がりってとこだな。さすがライガさんの西魔術はすげぇな」

「まったくだにゃ、反則だにゃー。一回で全部終わるとまでは思ってにゃかったにゃー」


 俺とパルがやんややんやと称賛を贈る。


「ふん、我がしたことはいつもと同じだ。それがうまくいったのは汝らの誘導の手柄よ」


 ライガさんはそっぽむいた。

 これは照れてるんだ。

 体でかいし一人称が我とかいっちゃうわりにはライガさんは意外と照れ屋だ。


「問うがリック、あれで全部っていってたな?」

「あぁ、次で女王の間に行けるはずだ」

帝王乳(ていおうにゅう)いっぱい採れるといいにゃー」


 帝王乳とは(ダンジョン)の最奥の女王の間と呼ばれる部屋で採れるものだ。エンペラーローヤルゼリーとも言われている。

 かなり美味らしく高値で売れるから(ダンジョン)にいく冒険者はほとんどこれ目当てだ。


「しかしー、その前に最後の仕上げが待ってるわにゃ。さてさてー、女王の間には何がまってますかにゃー?」

「おそらく魔人だろうがな」


 女王の間には大抵、魔獣、魔竜、魔人のどれかが住み着いている。

 もちろん、そいつらを倒さないことには帝王乳の採取なんて無理だ。この(ダンジョン)はさっきの魔物達を見てもわかるが人型の魔物が多かった。まぁ、十中八九は魔人で間違いないだろう。魔人は人型の魔物が帝王乳を食べて進化する上位魔物だからな。


 (ダンジョン)も別に魔物が作った訳じゃなくて迷宮蟻っていうやたらデカイ蟻みたいなやつが自分の巣のために作ったやつだ。

 もっとも、迷宮蟻は何故か五年くらいでどっかに引っ越すみたいで、その後に魔物とかが住み着くって訳だ。


「さて、魔人としてどう戦おうか?」


 返される答えはわかりつつも俺はたずねる。


「いつも通りミーらの一番年若のリーダーに任せるにゃー」

「同じくだ。我らがリーダーよ」


 そう、俺は何故かリーダーなんだ。パルは一つ上、ライガさんは三つ上の年齢で俺が一番年下のはずなんだがな。


「リックちんはいつもうまくやれるにゃー。ライガちんもそう思ってるにゃー」

「無論だ」


 二人はうんうんとうなずく。

 信頼されているんだがたまに面倒事を投げっぱなされているだけのような気がしないこともなくはない。

 まあでも。


「んじゃ、いっちょいきますかぁ! 作戦は“良い感じに戦え”だ。いっくぜぇぇ」


 二人とも「応っ!」と答えるとパルは槍を構え、ライガさんは左右の手甲をガシガシと当てて鳴らす。気合いは十分だ。俺もバスタードソードを抜くと俺達は女王の間に向かった。



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