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Color blindness  作者: グリコ
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第五章:【7】

 

 その場の空気が、まるで心臓が脈打つように震える。クリフは、どうみても目の前のエルフの長に勝ち目がないと知っていた。だからといって、このまま犬死をしても意味がない。


彼の頭の中で、いくつかの選択肢が浮上する。


眉根を寄せ、警戒心を剥き出しにしているクリフを見て、ウィズダムは嘲笑した。


すると、風の気流など全く感じないにも関わらず、ウィズダムのゆるやかなブロンドの髪が微かに靡いた。ウィズダムを凝視していたエレスの顔色が、驚愕に染められる。


『そうか──あれからもうそんなに時間が経ったのか……』


深く暗い、まるで深海のような紺色の瞳が、二人に向けられる。エレスやクリフは、激怒したとしてもこのような色にはならない。そう、"気"の力は、本人が生まれつき持つ色の濃淡に比例する。


"気"が強ければ強いほど──感情が高ぶった時の瞳の色は、濃くなる。


そして、次の瞬間。限界まで溜まった水が、零れ落ちるように、ウィズダムの身体から気が放出された。


「……!!」


ビリビリと、クリフは頬や手の甲、制服からでている部分が痺れるのを感じた。先ほど感じた、末端の血流から収縮していくような、感覚。恐らく身体は危険を察知しているのだ、動物としての本能が、そうさせる。全身の毛は逆立ち、身体の内部から吸引されているような、物理的圧力。


エレスは、体験したことのない感覚に、思わず自らを掻き抱いていた。プツプツと、鳥肌が立ち始める。この感覚が、目の前のウィズダムというエルフによって齎されているのだとしたら──。


(信じられない──)


唇がうち震え、彼女の瞳は、薄い青へと変わった。殴られたり、切られたりして与えられる外的痛覚ではない。内部に侵入し、末端の血液から内臓器官までも搾り取られるように、痺れの波紋は増幅していく。


どうしようもなく気持ちの悪い感覚に、エレスはついに固く目を瞑った。気を溜めることを知らない一般人に近いエレスは、"気"の圧力を体験するのは初めての事なのだ。


思考することさえままならない、指先や足先、頭から始まった痺れの波紋はついに心臓に達し、思わずエレスは息を呑んだ。まず赤く疼く心臓の表面をなぞるように、痺れが纏わりつき、当人の呼吸を止める。次に、瞬時に細胞の隙間よりその中央まで侵入し、電流を流し弾ける。


「…あ…っ!」



暗い視界がスパークしたように、エレスは足をふらつかせた。深い動揺が全身を包み、痺れが消えてしまっても不安な気持ちは残る。


ようやく深い息をついたエレスを見て、クリフは激しい憤りを感じた。そして、その衝動は表情にそのまま出た。クリフの殺気を感じたのかいないのか、ウィズダムはようやく気を放出するのを緩やかにし、呆れたような声を出した。


『何だ、そっちの女の方はほとんど純な人間じゃないか。……愚かな父親の血を色濃くついたようだな』


顔色がどんどん悪くなっていっていくエレスを見て、クリフは舌打ちをした。


(今は、とにかく姉さんを助けないと…!)


瞬時に、腰につけた剣の鞘を握る。それを見たウィズダムは、再び気の力を強めた。

凛とした端整な顔つきが歪み、何かの牙を繋げて作ったのであろう首飾りがカタカタと振動する。一定時間、クリフとウィズダムはお互い睨みあい──そして次の瞬間、クリフは鞘から剣を抜いた。銀や鋼鉄など、鍛えられた剣の刃と鞘が擦れ、鋭利な音がする。自らに反抗する態度をみせたクリフを見て、ウィズダムは薄ら笑いを浮かべた。


「二つ、お願いがあるのですが」


まだ、いつもの微笑を絶やさないまま、クリフは告げた。それを見たウィズダムは、不審そうに眉間に皺を寄せた。そしてそのまま、握っていた拳を広げ、手の平に気を圧縮し始める。


「一つ目は、一対一の戦いにして欲しいのです」


それを聞いたウィズダムは、フッと表情を緩めた。


『もとよりそのつもりだ。脆弱な人間の血が混ざった貴様など、本来ならば俺は眼中にもない。しかし昔からの約束だ。"生きては返さない"──確実に俺一人でやる。安心しろ』


それを聞いて、クリフは一つ安堵したように微笑んだ。


「よかった──それで、二つ目。ですが」


今まで笑みを絶やさないでいたクリフだが、次の瞬間、その色彩をなくした。無表情に近い、虚ろな目をして、ウィズダムを眺める。それは、彼の中で最重要な事柄を伝える合図だった。


「私を殺すのは一向に構いません……が、この人を殺すのは、止めてください」


剣の先で、エレスの腕に触れたクリフに、エレスはハッと目を見開いた。限りなく薄かった青が、再び元の深青色に戻る。低い、本気で心の底から殺意に満ちた声でそう告げたクリフに、ウィズダムは笑いを噴出した。顔を指で隠しながら、笑い声を荒げる。


『くっく…何を言うか。それでは交換条件にならないだろう──貴様が俺に負ければ、その女も死ぬ』


高ぶった精神をコントロールできないのか、ウィズダムはそのまま開いた手の平をクリフに向けた。


しかし次の瞬間、見えない気の塊がウィズダムに当たり、そのまま彼は後ろに吹き飛んだ。


土の壁を突き破って、ウィズダムは外へ飛び出した。勢いよく地面にたたきつけられ、転がったウィズダムの身体は、すぐに停止した。ダランと、脱力した太い腕が、その衝撃の強さを物語っている。


「エレスを殺したら、貴方も死ぬ。必ず、殺す」


ヒュン、と剣先で空気を切ったクリフは、地面に転がったままのウィズダムを見て、満足そうに目を細めた。




<お知らせ>

遅筆になるかも、とお伝えしましたが、本格的に休載になりそうです。

受験勉強をしなければなりません。

来年の春に、もしかしたらまた復活するかもしれません。

息抜き代わりに書くかもしれません。

全てその時々の状況によりますが、更新を待って頂いてる人が居る限りは、

頑張りたいです。ランキングからも抜けました。暫く停滞しますが、お願いいたします。


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