第三章:【4】
この話は作者が遊びました、エレスとアルが遊んでいるのを見たい方のみどうぞ笑"物語は全く進みません・
窓から差し込む、やさしい朝の光に体が反応する。アルはろくに眠れなかったので、軽く妙な気分のまま体を起こした。エレスは未だに寝ている。
「……」
昨日のあれは、夢じゃない。エレスは悪夢を見ていた……それも、相当な。
寝癖のついた髪を手で適当に直しながら、家から持参したカバンを開く。そういえば、叙任式は明日のはずだ。
それなのに今日からアゼルへ旅立つって……。頭を抱えて、再び様々な情報がアルの心を掻き乱す。
10日ほど前までの、少なくとも平和だった自分の人生に、急に割り込んできた"黒い狼"。
そして心から入団したかった"白の羊"の主人であるケルディア国王ルドルフ・シュバイツァーが行った残虐な行為の真相。ケルディアの国民のはずである自分すらも知らなかった、14年前のクーデタ。
──ティアベルという少女が、前国王の末裔であるという現実。
アルは物事を順序立てて考えようと試みた。彼は基本的には自分の目で見たもの以外信じようとしない。
14歳のアルは、1〜2歳の頃の記憶が全くない。しかしアルはその事をさほど気にしなかった。子供の頃の記憶を忘れるなど……良くある事だと思っていた。母親に聞いても、あまり相手にされなかった。
(……?)
ここでアルは何かが胸につっかえるのを感じた。彼の心の中に、一番重要な記憶を封印していた真っ暗な扉が、浮かび上がる。それは夥しい数の鎖で押さえつけられている。ぎぃぎぃと鈍い音を立てながら、誰かがその封印を解くのを望んでいる。
「……アル…?」
ようやく目を覚ましたエレスは、目を擦りながら、床の毛布の中にアルが居ないのに気づいた。
「──くそっ」
封印を解くには、決定的な証拠が足りない。アルは拳をぎゅっと固めた。気を取り直すように、バッグの中から黒い制服を取り出し、それを着ようと立ち上がった瞬間、背後にエレスが居るのに気がつく。
「うわぁあああ!」
「何よ、そんなに驚かなくてもいいじゃない!」
身の毛がよだつほど驚いたアルは呼吸を整えながら引き攣った笑いを浮かべた。そう言うと、エレスは頬を膨らませてアルの持っていた制服を奪い取った。
「……これ、着るのにはまだ早いんじゃない?叙任式は明日でしょ?」
そう言われて、アルは最もだと思った。しかしベルナが言うには、自分は今日発表されるはずのアゼルへの派遣団に入る。それならば、一人真っ白な制服を着るのは忍びないものだ。それにアルの心はすでに、"白の羊"からは離れていた。むしろ、"黒い狼"が良い人たちの集まりで、間違っているのはケルディアの方だといろんな人に知らせたかった。黒を持つ自分を、初めて本当の仲間だと認めてくれた人たち──……。
「で、でも、一応!」
制服を奪い返し、アルはそれを後ろ手に隠した。
「……ふぅ〜ん」
エレスはそんなアルの様子を見て、柔らかく目を細めた。ようやく目の前の少年が、自分達の仲間になりたいと自分から言ったのだ。これで、もうアルは"仲間"だ。
「あ、あの」
「ん?」
「き、着替えるんで──…」
しかし、エレスはどうもアルは頼りがいがないと思った。男にも関わらず、女の前で堂々と着替える素振りはなく、逆に縮こまり気まずそうに視線を泳がせている。
「……着替えれば、いい」
「は?」
何故自分はこんなに女々しい少年から目が離せないのだろうか、エレスはつくづく不思議に思ったが、それはある気持ちで解決する事が出来た。そう、エレスはアルに"母性本能をくすぐられている"のだ。おどおどするアルを見て、エレスは悪戯心が沸くのを感じた。
「なんなら、私が脱がせてあげようか?」
「えっ!!」
アルの顔が恥ずかしさで耳まで真っ赤になったのを見てエレスはますます悪乗りした。アルに近づき、制服を剥ぎ取りはじめる。
「"黒い狼"の制服は着方が少し複雑だから……その方が早いし!」
「い、いいです……やめてください──」
慌てふためくも、素早いエレスの動きについていけないアルはたじろぐばかりで、簡単に上半身の服がめくられてしまう。
「う、うわ!」
思わず悲鳴を上げそうになったアルを助けるかのように、部屋のドアが勢いよく開いた。それを察知したエレスは我に戻ったかのようにピタリと行動を停止した。おそるおそる、ドアのほうを向くと、そこには驚愕の光景に口をあんぐりと開け立ち尽くすユウヤが居た。
中々誰が誰を好きかを表せないですが、一応設定ではユウヤはエレスが好きなことになってます。いつか二人を絡ませる予定ですが…