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Color blindness  作者: グリコ
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第三章:【1】

 急に立ち上がったエレスは、ティアベルのほうを見据えて言った。いつの間にか雨はやみ、灰色の雲の隙間から穏やかな光が部屋の内部に差し込んでいた。


「ティア様。アゼルへの派遣部隊には私を、是非」


それを聞いたユウヤは負けじと立ち上り吼えるように言った。


「リノ島の行く末を決める大事な旅です。エレスより、俺を!」


そんな騎士たちを見て、ティアベルは口に手をやってくすくすと控えめに笑った。ベルナも嬉しそうに目を細めている。アルは何がなんだか分からないといった様子で何も言えずに跪いている。最後にクリフが立ち上がり、俄然大きな声で叫んだ。


「いいえ──ティア様。この二人より、僕の方がお役に立てるはずです!きっと!」


初めてクリフが叫ぶ姿を目撃したアルは、口を半開きにして四人の凛とした背中を見つめるばかりだった。


ティアベルは熱心な騎士たちをなだめるように、ふわりとした笑みで言った。


「…ありがとう、皆さん。リノのために動きたいという意志が強く伝わりました。だいじょうぶ、誰に任せようとも、しっかりやってくれるでしょう」


その場にいる、幹部の三人がごくりと唾を飲むのがアルには分かった。

 彼には三人の気持ちが理解しがたかった。どうしてわざわざ危険を責任を伴う旅に行きたがるのか。もし失敗すれば、"粗雑な馬鹿共"に襲われて殺され──万一生かされても、断られたのならばリノ島の未来が閉ざされるというのに。一ヵ月後にやってくる血なまぐさい戦争を、ただ待つ事しか出来なくなるというのに……それも、自分の、せいで。


「ただ、旅の団員は私が決めます。これはとても重大な人事なのです。私の気持ちを混入させることは出来ません。いくらあなた方が、私に積極的になろうとも──判断が揺らぐことはありません。今夜は大人しく、それぞれの部屋に戻るように」


「そんな」


エレスが訴えるように短く呟いたが、ティアベルは微笑むだけだった。アルは、全身の毛が逆立つのを感じた。今の今まで、自分は命やら責任やら、そのような事から逃げる事が当たり前だと思っていた。しかし目の前の──自分より少し年上の少女は、そのような重圧を今夜全て背負う事になるのだ。自分だったら──……考えるだけで、歯がガチガチと鳴る。得体の知れない恐怖に、少女は打ち勝つ事が出来るのだろうか。


しかし、もしこのような可憐な少女に出来るのならば。アルはひっしと立ち上がった。それに反応し少し振り返ったエレスは、アルの目が何かの決意に燃えていることに気がつき驚いた。心なしか、顔つきも"少年"から徐々に"男"に近づいている気がする。


今──アルの中で、一人の少女を助けたいという柔らかな気持ちと、そんな事が出来るはずが無いという堅い気持ちが、天秤にかけられていた。ぐらぐらと、少しでも刺激があればどちらかに傾いてしまうそれは、綱渡りをしているかのような危うさがあった。


「分かりました。ティアベル様の勘が素晴らしいのは皆承知の上です。では、お考えに邪魔をしないよう、我々はこれで失礼させていただきます」


 がっしりとした体付きのベルナがお辞儀をすると、まるで分厚い盾がお辞儀をしているかのようだった。


「くっそぉ……ティアベル様!ぜったい、ぜったい俺を行かせてくださいよ!」


頑固にまだ叫び続けるユウヤをがっしり抱えると、ベルナはその他三人を押しながらティアベルの部屋から出て行った。


どこまでも自分を信じてくれた真っ直ぐな騎士たちに、ティアベルは微笑みが止まらなかった。しかし同時に、その赤い心臓はとてつもない威圧感を感じていた。何度も脈打ち、主に危機を知らせる。正直な反応を見せる自身に苦笑しながら、ティアベルは胸の真ん中をきゅっと掴んだ。



「……落ち着いて」


自分に言い聞かせるように、安堵の言葉を呪文の様に繰り返す。


「大丈夫。きっと上手く、やれる」


ふと、首にかけておいた金属製のロケットを服の合間から取り出し、静かに開く。そこには無邪気にポニーに抱きつく小さい頃のティアベルと、それを幸せそうに眺める男の姿があった。白黒のため鮮明ではないが、男は艶やかな黒髪で、はっきりとした二重、高い鼻筋、きりっとした眉、そして体には立派な黒い鎧を纏っている。恐らく30代であろう、いかにも育ちの良い上品な顔立ちをしていた。


「……お父様…」


楕円形の小さなロケットを、ティアベルは両の手で包み込んだ。祈るように頭を項垂れると、小さく吐息の様な声で呟く。


「…どうか…私に力をください…」


騎士たちの前では、立派な主人をやってのけるティアベルであったが、その中身は──まだ若干16歳の、ただの少女であった。


自分の言葉が、リノに住む全ての島民・騎士たち命運を決める権限を持っていることが、彼女は恐ろしくて仕方が無かった。


ただ、故・ケルディア国王の娘であったことが……唯一生き残ったとされるクリストファー族の末裔だったこと、それだけが。彼女を死よりも辛い、生きながらにして人様の命を背負うという巨大な恐怖の渦の中心に引き込んでいた。



【この話からあとがきを書くことにしました。たいしたことは書いてないので、見たい方のみドウゾ笑"】



ティアベルはとても強い少女です。恐らくアルなんか目ではないほどに…笑"

次回から物語が動いていきますが、ティアベルは本当に辛い過去を乗り越えて今ここに存在します。その葛藤を少しでも描きたくてこの話を付け加えました。

可愛いけど暗い過去がある少女は大好きです(ぇ)

そしてその少女を主人公が支えるのも大好きです(ぁ)

主人公らしくないよわっちぃアルですが、これからの成長を見守っていただけたら幸いです。では長くなりましたがこの辺で(*^^*)

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