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Color blindness  作者: グリコ
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第二章:【3】

出来れば最後にあとがきを読んでいただけると幸いです(*^^*)

 アルが再び目を覚ます頃には、夜を過ぎ朝もやが出始めていた。もぞもぞと布団から抜け出て窓の硝子に手の平をつけて空を見上げる。昨日は眩しいほどに照っていた太陽はすっかり灰色の雲の合間に隠れてしまっている。不穏な空気を感じて、アルは身震いした。ふとテーブルの上に目を落とすと、メッセージ付きの黒い制服がきちんとたたまれ置かれていた。


『アルへ。3日後の叙任式にはこの服を着て出てもらう。厳格な式だ、それまでに神の存在の有無、自分の意思を確認しておくといい。くれぐれもティア嬢の前で倒れたりするんじゃないぞ!』


ここでアルは制服の横に小さな子袋が携えてあるのに気がついた。木綿で出来た布をチュレルの茎で縛ったものだ。コレは何なのか、そう思い続けてメッセージを読む。


『それと、リノの街を散策するのにも金が要るだろう。子袋には50ルーツ入っている。未来の仲間への私からの餞別だ、遠慮なく受け取ってくれ。貸しは、少年が強くなる事で受け取るとする』


思わずアルはにやけ顔になった。きつく布を縛っていたチュレルの茎を解くと、中にはキラキラと銀の光沢を放つ丸い硬貨が入っていた。


『私はしばらく騎士団の方に居る。騎士団の本部の場所は……街の人に聞けば恐らく分かるだろう。It is good luck that to a noble child wolf(気高い子狼に幸あれ),エレス』


そこでメッセージは終わっていた。アルは小さな紙を二つ折にテーブルに置くと黒い狼の制服を見据えた。真っ黒だ、本当に"白の羊"とは対照的な──どこまでも深く暗い闇だった。触ってみると案外手触りが良い、アルは着ていた白い制服を脱ぐ事に抵抗を覚えた。


なんだかんだと言ってもアルはは未だケルディアの人間なのだ。そう簡単に、受け入れるはずがない。


(こんなに良くして貰って、自分はまだ何が嫌なのだろう)


 自分は誘拐された、今まではそれの一点張りだったが、それはアルからしたらさほど重要な事ではなかった。仮にケルディアで騎士団の試験を受けていたとしても、いきなり王国直属の精鋭部隊である"白の羊"などには入団出来ないだろう。それにアルの母親も"黒い狼"の事を毛嫌している。アルは女手一つで自身を育て上げた母親に対する愛情は人一倍強い。だからアルは、母親に心配をかけないため彼女がダメだと言うものは全てダメだと見なしてきた。


しかし、アルの中には最近、自我というものが芽生え始めていた。他の誰でもない、自分は自分なのだという強い思い。


 アルは今一番欲しいのものは名誉と喝采だった。長年虐げられてきた彼は人一番他人を見返したいという気持ちが強かった。そのためなら、どこの騎士団だっていいではないか。そこで活躍さえすれば……!


そんな中でアルはふとエレスの言葉を思い出していた。


『ケルディアの民は、嘘を真実だと思い込まされている』


「……嘘を…真実…?」


アルは思った。自分は今、何が真実で何が虚実なのか分からないからこんなにも悩んでいるのだ。"黒い狼"と"白の羊"、どちらが真実なのかがはっきりすれば、全て解決するではないか。


アルは何かを決意したように目の前の黒い制服を見た。


(……これを着るのは、もう少し後になりそうだ)


子袋をズボンのポケットに突っ込むと、アルは勢いよく部屋から走り出ていった。








 小高い丘の上で、二人の騎士が互いに牽制しあっていた。一人が乗るのは漆黒の馬だ。その目は血走り、がっちりとした胸前の筋肉、逞しい首、強靭そうな四肢はその馬が歴戦の名馬であることを伺わせる。それに跨るのもまた、相当の馬乗りでしか有り得ない。黒い鎧を纏った騎士は、頭部にも鎧を被っているので目元しか外気に触れない。隙間から見える燃える様な紅いの瞳は、細められていた。それに対峙するのは、雄雄しい茶色の大地──栗毛の馬だった。額には白い流星が走り、伸びやかな四白の馬体は駿馬の証である。恐らく、草原の上では風の様に走るだろう。その乗り手は同じく目元しか開いていない鎧を纏っている。しかしその鎧は、眩しいまでの白さだった。薄茶色のレンズは涼やかに相手を見据えている。


「……何のようだ」


黒い騎士は、まるで壊れそうな橋を渡るのかとでも言う慎重さで尋ねた。騎士の相棒である黒い馬は、白の騎士が敵であることを知っているかのように激しく左前足で前掻きをした。


「……宣戦布告を致しに参りました」


少しほくそえんでいるのだろうか、白の騎士は余裕綽綽とばかりに言った。それを聞いた黒の騎士は少しも動揺せずに相手を見据えた。


「また、どうしてこのような時期に。ケルディアも相当戦争好きのようだな」


「"悪魔"は、"騎士"が倒すべき宿命の相手。悪魔を倒すのに時期など関係ありません」


淡々と告げる白の騎士に、黒い騎士は初めて声を荒げた。


「何を馬鹿なことを…っ悪魔は貴様らの方だろう!」


黒馬が同調するように嘶いた。今にでも駆け出しそうな勢いだ。


「はて…何のことやら…やはり"悪魔"の言う事は意味が分かりませんな」


すると白の騎士の背後から数十人の歩兵が現れた。それぞれに鋭い槍を構えている。


「もう一度宣告します。次に月が満ちる頃、我々は貴方方の島を責めます。わざわざ告げるのは"白の羊"の誇りを汚さぬため。主人の優しさに感謝するべきですよ」


嘲るように笑うと、白の騎士は黒い騎士に背を向けた。恐らく黒い騎士は見逃してやるという意味だろう。しかし黒い騎士は心底おかしそうに言った。


「貴様らの主人に、人間の心など残っていない」


 それを聞いた白の騎士は馬の歩みを止めた。その手は手綱をこれでもかというほど握り締めている。


「なんだと…?」


「貴様らの主人こそ、人の姿をした悪魔だ」


白の騎士の周りにとりついていた歩兵達が色めきたった。


「主人を貶すとは…っ!許さざる大罰だ!見逃してやろうというリゼルさまの慈悲の心を、お前は踏みにじった!」


黒馬は自身に向けられた何十もの槍に、攻撃本能を掻きたてられたように激しく前掻きをする。屈指の馬乗りでなければこの馬の闘争本能を押さえる事は難しいだろう。剣を翳し自分に向かってくる白の騎士や歩兵を、黒い騎士は臆することなく、それどころか愉快そうに見据えた。





読んでくださっている方々に少し報告があります。

嬉しい事にColor blindnessの合計読者数が1000人を超えました。恥ずかしながら私、小説家になろう!で書いてきて、ここまでの読者数が1000人を超えた事がありませんでした…笑"

やはりランキング登録の威力が凄いですが、それにしても連載物で一日の読者数が安定しているのは、毎日覗いてくださっている常連さんが居るということでしょうか?

そうでしたら、とても嬉しい事です!それに一度投稿して何度も後で手直しするので、せっかくの読者様にも迷惑かけてしまっています…すいませんm(_)m

では長くなりましたが、まだまだColor blindnessは続きます。こうご期待を!

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