作戦決行
「本当に何も身につけないのか」
「武器は持ってる。ハイパーベルト!」
作戦決行の当日。防弾チョッキはおろか、服さえ着ようとしない瀬良太にリンネは言ったが、瀬良太はこの通りである。
「リンネ。プリミティの仲間がリーズの襲撃を受けたらしい。合流できないそうだ」
仲間の一人だろうか。さっきからこんな風にひっきりなしにリンネに仲間が話しかける。
「そうか。漏れてしまったからな。プリミティが立ち上がった事が。総力戦になる。同志になってくれる者がいればプリミティじゃなくても構わない。どんどん集めてくれ」
今日と言う日までに色々な話を聞いた。
瀬良太や竜清のような、具体的な超能力の数値を出せるのが新世代の強化超能力者で、プリミティは超能力が使えるが科学者の言う数値は出せないと言う事。
央利の事を話したら、自然にそんな強い超能力者が産まれる事はおかしい。両親がプリミティだとしてもそれはあり得ない。何か遺伝子をいじられたか、産まれてから何か細工をされたのではないだろうかと話していた。
作戦は総力戦で、プリミティの戦力全てを使って、やっと突き止めたリーズの拠点に攻め入ると言うものだ。
準備期間が長すぎたようで、超能力研究所襲撃を許してしまった事をリンネは何度も瀬良太に詫びてくれた。
ただ、リンネも強化超能力者の事を良く思ってはいない。
瀬良太の知ってる感情で言えば恐れだ。一対一で何の作戦もないなら、リンネは瀬良太に勝てないと分かってるからだ。
人間が持つ力にしては、大きすぎる。プリミティの力でさえ、人間を大きく越えたものなのに、強化超能力者はそのプリミティをも越えている。
そして、強化超能力者の力を武器にしたのがサイムズ。
幸いな事にリーズの親玉、浦尾靖がサイムズが他に渡らないようにと、少数しか生産しなかった。リーズの隊員全てがサイムズを持っている訳ではない。
少ないサイムズを封じ込めてしまえば勝機は十分にある。
これを大量生産し、兵の一人一人にサイムズを持たせれば、もはや打つ手などない。
その話を聞いた時、瀬良太は言った事がある。
『強化超能力者がいればサイムズが作れちゃうなら、また誰かが作っちゃうんじゃない?』
いつか誰かが作ってしまうだろう。だが、その力を独占し、強い超能力者を排除してしまおうなどと言う邪悪を許してはいけない。
超能力を持たぬ者、超能力者に産まれてしまった者。
その差を埋めるための機械であれば、こんなに素晴らしいものもない。
我々はその日が来るまで戦う。それが超能力者の祖先の役目だ。
瀬良太はその考えに大いに同調し、死への不安をすっぱりと断ち切った。
と、言っても正義に目覚めたわけではない。瀬良太は単に気をつければ死んだりしないくらいにしか思っていないのだ。
世間知らずの向こう見ず。やりたい事だけやっちゃうタイプ。
責任が重く潰れそうなリンネを時折支えるのが、瀬良太の呑気さだ。
仲間への信頼や結束が逆に重荷になっていく中、瀬良太が一人ヒーローごっこでもして、リンネに自分のヒーロー好きを語るのだ。
何が好き、これが好き。あれが食べたい、あれが欲しい。
忘れかけてた日常に戻らせてくれるようで、リンネは時間が許す限り瀬良太と一緒にいた。
瀬良太も遊んでくれるにーちゃんだと、リンネに懐いた。
そんな出来事が交わりつつ、本日ただいまを持って、作戦は開始された。
瀬良太はリンネに付いていけばいいと言われた。
早くハイパーベルトの威力を試してみたいとそればかりを思っている。
他のプリミティは、本当にあれで戦うつもりなのかと正気を疑っている。
作戦の概要はと言うと、力押しでしかない。
大部隊は用意できなかったが、時間をかけて調達した豊富な武器と超能力で、一気に攻めきろうと言うのだ。
サイムズ部隊が現れたら、選抜された対サイムズ部隊が躍り出て応戦すると言うものだ。
どうやら先鋒部隊が敵と交戦を始めたらしい。
そんな内容の言葉が、リンネがトランシーバー越しに放つのを瀬良太は後ろの方から見た。
一時間、二時間。待機命令がずっと出たままだ。
瀬良太がそわそわしていると、精鋭部隊の、今日初めて顔を合わせた青年が声をかけてきた。
「落ち着かないか?」
「だって、もう始まってるんでしょ」
リンネの紹介によると、この青年はシャシュと言うコードネームで、念動力の使い手だと言う。
撃った弾丸を念動力で補正し、百発百中の命中率を出すことを得意とするようだ。
竜清のように遠くのものを動かしたり、引き寄せたりは出来ないらしく、プリミティの言葉で言えばそれは「不自然」と言う言葉になる。
「俺達はサイムズを押さえる事が仕事だ。サイムズさえ無力化出来れば、俺達には超能力のアドバンテージがあるんだ。そんなに心配する事じゃない」
サキミと言うコードネームの青年だ。予知能力者であるが、未来予知のサトリとは違い、相手の動きの五秒先、十秒先を予知出来る。
精神感応の心を読むのと似ているが、確定した相手の動きをイメージとして予知出来るので、精神感応で相手の動きを読むより反応が早いと言われている。
少ないが、メンバーが対サイムズのメンバーとして選ばれた者達だ。
他にも適任な者もいるが、リーダーをやったり、別の作戦をやったりで、サイムズが脅威な事には違いないが、そこばかりを考えてやる訳にもいかないのが現状らしい。瀬良太がいなければ三人でやるしかないと言う事であった。
「あぁ、こちらシャシュだ。来なすったか。ようし、分かった」
トランシーバーで連絡が来たようで、シャシュは立ち上がり、みんなに言った。
「出番が来たぞ。数は二十」
「二十もか」
「こちらの本気に気付いたのだろう。少数生産しかしてないと言う情報だが、まだあるかも知れん。油断せずに行くぞ」
対サイムズ部隊のメンバー達は駆け足で向かう。瀬良太も行こうとするとシャシュに呼び止められる。
「お前の作戦は、好き勝手に暴れ回ることだ。遊撃ってやつだな。こちらが途中で作戦を言い渡す事もない。だからこちらを気にするな」
「う、うん……」
頼りにされてないのかなぁ、と瀬良太はちょっと残念に思いながら、でも、こっちの方が性に合ってると思い直して駆けていった。




