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ビター・アジト

「ごめんな。こんなものしか無くて」

 目の前に差し出されていたのはお湯で作るコーンスープだった。

「わ、ありがと! これ好きなんだ」

 瀬良太は無事だった。体勢がくずれて瓦礫の下敷きになるのを待つだけの瀬良太を命がけで救い出してくれた人がいたのだ。

 それがこの人、リンネと名乗った。コードネームだと言っていた。

 まだ若い青年だが、どこかで何かを指揮してそうな張った胸と、威厳のある態度。

 能力も素晴らしいのか、自己強化中の瀬良太とは行かないが、常人離れしたスピードで瀬良太を抱きかかえたのだ。

 瀬良太を救出した後は、近くのアジトに瀬良太を連れてきたのだ。

「しかし、見させてもらったが……。凄まじいな。強化超能力者と言うものは」

「なにそれ、オイラのこと?」

 一つ咳払いをするとリンネは語った。

「そうだ。人は潜在的な超能力を持っている。いや、超能力とは本来小さなものでしかなかったのだ。相手の表情や雰囲気を見て相手がどう思っているのかなんとなく分かるのが精神感応。自らを鼓舞し、絶体絶命の危機の時に出る火事場の馬鹿力、それが自己強化。誰の中にでもあるそんなものが、今現在超能力と呼ばれているものの種だった。人よりその力を器用に引き出す事が出来る。それが私達、プリミティだ」

「プリミティ?」

「しかし、その力があまりに強く出過ぎた個体がいた。その力は科学のメスの介入を許してしまった。データ化された超能力は飛躍的な発展を遂げる。その結果が君達新世代と呼ばれる強化超能力者だ。データ化された超能力はついに兵器と化してしまった。それがサイムズ。それを扱うものの志が低いため、少数しか生産されなかったのが救いだ。だが、現実に存在する以上は誰かの手に渡り、サイムズがまた作られるだろう」

 リンネは瀬良太の肩を叩いた。

「はっきり言おう。君達はいてはいけない存在なのだ。人間の力の格差を許し、武器のデータとなりうる」

 瀬良太は敵だと思って身構える。

「だが、存在してしまった以上、死ねとも言えない。我が同胞には間違いないからだ。消すべきはサイムズ。そしてそれを操る者。私達プリミティはそのために今行動をしている」

「カッコいい! 悪の組織を滅ぼすの?」

「そうだな。そのためには君の力を貸して欲しい。君はまだ子供だが、プリミティの誰よりも能力が高い。私も自己強化能力が使えるが、君のように体一つでリーズの軍勢には飛び込めない」

 リンネは瀬良太を保護してそのまま作戦を続行するつもりだったのだが、リーズの銃撃を軽々と避け、敵陣へ斬り込んでいった瀬良太を見ると大きな戦力になると判断したのだ。

「情けないがな。こんな子供に頼るなど。だが、力は力だ。君の助力がぜひ欲しい。君もリーズがいる以上は狙われる事になる。それは困るだろう?」

 あの手この手を考えていたが、瀬良太は即答した。

「悪の栄えた試しなし、ってね! オイラも手伝うよ! でも、リーズって何が目的なの?」

「そうか。ありがとう。順を追って説明しようか。リーズとは裏社会を牛耳っている浦尾靖と言う男が作った私設軍隊なのだ」

「世直しをするって」

「あぁ、そう言ってるな。浦尾を邪魔する者を消すのが世直しと言う訳だ。浦尾の欲のために法律がいくつか変えられた。志が低いのは浦尾が自分一代限りが欲望の限りを尽くせればいいと思っている所だ。だが、サイムズはそんな欲に対して強すぎる。浦尾が死に、サイムズが残れば誰かが金のためにサイムズを売る、それともサイムズを使ってこの世を混乱に陥れるか。平和利用されるとは考えにくい。リーズがサイムズの扱いに慣れない内に、私達はリーズからサイムズを奪い取る。規模が小さくて良かった。これが国の軍の正式採用装備になっていたら私達はどうする事も出来なかった」

 瀬良太はふと、研究所の事が気になった。このリンネなら何か知っているかと思って訪ねた。

「ねえ、超能力研究所がどうなったか知ってる?」

「あそこか。残念ながら超能力者及び研究員は君達を除いて全員が殺されてしまった」

「そんな……」

 瀬良太はめまいがして、ふにゃっと崩れた。

「これがサイムズの精鋭部隊の威力なのだ」

 するとリンネと瀬良太のいる部屋に一人の青年が入ってくる。

「リンネ。新しい未来が見えた」

「紹介しよう。サトリと言う。未来予知の能力者だ。リーズの超能力研究所襲撃も予知した」

 サトリと言うのもコードネームだろうか。瀬良太は屈託なく挨拶をした。

「オイラ瀬良太!」

 サトリは軽く右手をあげて、瀬良太に挨拶を返す。

「教えてくれないか」

「いいが、最高機密レベルだ。二人きりで話したい」

「いや。この子は一番の協力者になる。聞いてもらうべきだ」

 リンネは瀬良太にウインクしながら言った。瀬良太は嬉しくてにっこり笑った。

 顔をしかめたのはサトリだ。

「……いいのか。未来予知を占いか何かと勘違いしてないか」

「分かっているさ」

 リンネは強く頷いた。しかしサトリは言った。

「最高機密レベルだ。これはリーダーと参謀しか知ることの出来ない事になっているのを忘れたか」

 おかしい、とリンネは思った。そんな決まりなどないからだ。

「分かった。では向こうで聞かせてくれ」

 リンネは瀬良太の方をむき直す。

「すまない。後で教えるよ。うちは少し規則が厳しいものでね」

「うん。待ってるよ」

 リンネはサトリと共に別の部屋に行く。サトリはドアに鍵をかけて未来予知の結果を切り出した。

「天馬のためいき作戦は、あの子を連れて行けば上手く行く。が、あの子は死ぬ。犠牲になるのだ」

「そ、そうか……」

 だから瀬良太の前で言わなかったのだな、とリンネは納得した。

「分かってると思うが俺の未来予知はすぐに変わる。あの子を守れる存在がいればまた結果は変わる。今のまま連れて行けばの話になる。だが、あの子が助かる未来を選べば、作戦が失敗に終わる可能性も十分にある」

「あの子はどこでどう死ぬのだ」

「俺の知らない要素が多すぎて、まともなビジョンになってないが、大きな敵にあの子がぶつかる。特攻するような気迫を感じた。それ以上は分からない。その後、歓声が上がる。割れんばかりの歓声だ。それは俺は勝利の歓声だと思う」

 リンネは沈黙した。

「助けたいと考えているな。やめておけ。せっかく作戦が成功すると言う未来が見えたんだ。このままでいけ。全て予定通りに。今まで作戦が成功すると言う未来が見えなかったんだ。お前が瓦礫からあの 子を助けると言う行動を取って初めて見えた未来だ。未来を変えて、いい結果を出せた。だが、次はこうは行かないかも知れない。行動することが必ずしもいい結果を出すとは限らない」

「もっと多くの要素を入れてみるとどうだろう。例えば瀬良太の仲間を捜し出し、作戦に参加させる」

「明後日の朝までにか?」

「やってみたい」

「武器調達をしている同志を子供を捜すために使うつもりか。言っておくがいくらお前の頼みでも、作戦のために動いてる同志の行動を変えさせるわけにはいかない。未来を変えないためにも。お前があの子に差し入れたのがコーンスープ以外のものでさえ、未来を変えてしまう事になりかねない。未来は些細な事で大きく変わってしまうのだ」

「しかし……」

「言って伝えろ。作戦は瀬良太がいるから上手くいくのだと。それ以上の事は言うな。気をつけろとも、自分の身を守る事だけ考えろ、などとな」

 リンネはすっかり沈黙してしまう。その様子をみかねてサトリは言った。

「死ぬのはあの子だけじゃない。プリミティの同志達も多く死ぬ」

 それだけ言い残し、サトリは鍵を開けて部屋を出た。

 瀬良太はいない。聞かれたりしていないだろうかと少し不安になっている。

 死ぬと言う未来を聞いて、急いで逃げ出した可能性もある。

 サトリは瀬良太のいる部屋まで様子を見に行く。

「うりゃっ! とりゃっ!」

 シャドーボクシングでもやっているのだろうか、とサトリは思ったが、退屈を感じた瀬良太の発作が飛びだして、ヒーローごっこの真っ最中だった。

「何をしているのだ。ここはあまり丈夫じゃない。暴れてもらっては困る」

 しかし、発作の起きた瀬良太には聞こえない。

「こうなったらミラクルチェンジャーだ!」

 虚空を見上げて言うが、敵などどこにもいやしない。

 ごっこ遊びなら、サトリが声をかけた時点で少しは止まるだろうに。

「まさかこれが、強化超能力者の発作か……?」

 プリミティにも大なり小なり発作がある。サトリは暗い部屋が好きで、照明の類を一切付けない。リンネは口にするもの何でも大量のカラシを付ける。

 力の強さは発作の強さ。プリミティの中でも力の強いサトリとリンネは、常人から見れば頭のおかしい類に入るのと同じで、強化された超能力者は更に上を行く発作が出てしまうと言うのだろうか。

 そう言う事ならと、サトリは見なかったことにして部屋を出た。

「ハイパーキック!」

 どっか~ん、と星を散らして怪人にトドメをさした。

「ふう。やっつけたぞ」

 瀬良太は部屋の外をちらりと覗いた。

「それにしてもあのにーちゃんまだかなぁ」

 そもそも発作の出た原因がこの退屈と静寂なのだ。

 部屋の外をきょろきょろ見回していると、一人の青年が歩いてい来るのが見えた。すぐに分かった。リンネだ。

 瀬良太は頭を引っ込めて、リンネが来るのを待っていた。

 リンネは部屋に来たが元気がない。

「未来予知の結果が出たよ」

 弱々しく笑う。後ろめたくてしょうがない。リンネは瀬良太が死ぬことを黙っている事を決断した。

「作戦はうまく行く。だけど、こちらも大損害らしい」

 それだけひねり出すのが精一杯だった。元々実直なこの男。嘘をつくのは苦手なのだ。

 瀬良太だって精神感応者だ。心を読めば嘘を付いてるかどうかの裏が取れるため、人が嘘を付いている態度はなんとなく分かる。

 今回だってそうだと思った。

 瀬良太はなんだか重大な事を隠されている気がして、面倒に思ったが心を覗きに行った。

 オレンジ色の海に飛び込み、すぐに消えていきそうな気泡に触れる。

(これでいいのだろうか。知っていながら黙ってる。この子が死ぬ事を。そのおかげで作戦が上手く行く……、らしいが)

 瀬良太は絶句した。明らかな瀬良太の顔色の変化にリンネは気付き、精神感応者の可能性を考える。

 だが、瀬良太は自己強化能力者のはずだ。プリミティなら、同じ能力の行使を知覚出来るので確信はある。

 だけど、瀬良太は黙っていた。悪者を倒すためならヒーローはその命を賭け、使命が終われば死んでしまうケースも珍しくないからだ。

 そして瀬良太は復讐がしたかった。

 自分の家を、そしてその仲間を。殺された所や死体を直接見た訳ではない。だから、殺意や憎しみと言うのは沸いてこない。

 こないが、奪ったと言うなら復讐を考えたくなる。

 央利と竜清とはぐれ、自分の身一つとなった今なら。

(そう言えば、央利に一言でも挨拶したかったな。もう会えはしないってなら……、でも、本当にオイラ死んじゃうのかなぁ……)

 央利の恋人が竜清に変わった事など瀬良太は知る由もない。

「作戦は二日後になる。それまで体調を万全に整えておく必要がある。何か必要なものがあったら言ってくれ」

 リンネは最後にキリッとそう言ってみせると、瀬良太は迷いもなく言った。

「DXハイパーベルト!」

 絶版となった今、武器調達隊を大いに困らせてしまったが、なんとか遊べる中古品をようやく入手できたと言う。

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