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スウィート・ホーム

「瀬良太……、死んじまったのかなぁ……」

 竜清は沈んだ様子で言った。

「しょうがないよ。瀬良太、勝手に突っ込んじゃうんだもん」

 央利は竜清を慰めようと言ったが、央利の声のトーンも低く、二人はますます沈んでいく。

 二人は混乱に乗じて、電車に乗ることにした。

 竜清はお金を重装備の中に入れていたが、央利はお金をズボンのポケットに入れていたので二人は八千円を持っている事になる。

 幸い電車は動いているようだ。竜清を見て誰もが驚くが今の竜清にはそんな事を気にならなかった。

 二人は央利の実家に急ぐ。

「央利、瀬良太の意識を感じなかったか?」

 電車に揺られていると竜清は突如口を開いた。

「遠すぎたし、混乱の意識が渦巻いてたんだ、ごめん……」

 央利は嘘を付いた。最初から瀬良太の意識など探ってはいないのだ。

「あの瀬良太なら殺しても死なないよ」

 央利はぱっと明るく言った。

 そう言う問題じゃないと思ったが、否定するのは瀬良太が死んだ事になる。

「そうだな。きっと元気に逃げ延びているよな」

 竜清はこの沈んだ気持ちと決別しようとひとまずそう言った。

 電車から見える景色は竜清は初めて見る。

 そんなに興味もなかった。田舎町の鉄道から見える緑と海。

 今の荒みに沈んだ心を癒してくれるようだった。

「ぼくの家はもっと都心にあるんだけどね。とってもいい所だよ」

 央利はうきうきしながら言った。

 竜清が沈んでいるから明るく振る舞っているのか、央利は瀬良太が死んだかも知れないのにあまり変わらない様子を見せる。

 今の恋人役は竜清だが、それまではずっと瀬良太が恋人役だったのに。

「なんだか力を使ったら眠くなっちまった。着いたら起こしてくれ」

 竜清は寝たふりをしつつ、央利の精神世界に足を踏み入れた。

 強く考えているのが家に帰る事、ママに会いたいと思っている。

 その次がママに竜清を紹介するんだと言う気持ち。

 瀬良太の事は意識の中層では考えてはいないようだ。

 こんなに冷たい奴だったか、と竜清は首をひねった。

 もう少し意識を探ってみる。洞窟内の小さな光を一つ一つ確かめていく。

 央利の中にあったのは、未曾有のストレスだ。

 住んでた場所を追われ、銃を向けられ、友達を一人失ってしまった。

 求めたのは母親のぬくもりだ。

 命の危険があるなら、死ぬ前にママに会いたいと願っている。それしか考えていない。それに集中する事のみがこの非常事態での心の支えになっているようだ。

 ならば竜清は付き合ってやろうと思った

「着いたよ」

 竜清はハッと目を覚ました。いつの間にか本当に寝ていたようだ。

 電車を降りると、景色が全然違う。少し都会になっていた。

「ほら、閉まっちゃうから早く」

 央利は竜清を急かした。

 それから電車を三度も乗り換えした。

 竜清は今自分がどこにいるのかすっかり分からなくなっていた。

 ただ乗っているだけでも疲れるもので、竜清はぐったりしていた。

 人々の視線が気に障ると言うのもある。

 央利が驚く程、電車に乗り合わせた人、すれ違った人全て竜清の姿を見て圧倒される。

(なんだありゃ)

 驚きだけの時もあれば、はっきり気持ち悪いと思う人もいる。

 作り物か、特殊メイクかと疑う人もいる。

「あの子どうしたの?」

 そう無邪気に親に聞く子供もいた。

 竜清は特に何も言わなかった。ぼんやりと窓の外を見続けている。

 央利は竜清の心を見てみようかと考えたが、次の駅でとうとう目的地なので断念した。

 少しの間ガタゴトと揺られる。

 そうして付いた目的地。「着いたよ」と央利が言うと、竜清は弱々しく微笑んだ。

「着いたか」

 ホッとした様子だった。バスを使えばもっと早く着くのだが、央利は竜清が人目に付かないように徒歩で行く事にした。

「これから少し遠いんだ」

「大丈夫だ。人気のない道がいいな……」

 人気のない道になると竜清は徐々に元気を取り戻していった。

「やっぱりさ、おれはこう言う所がいいな。あんな狭い所はおれ向きじゃない」

 竜清は狭いところと言ったが、本当は人の沢山いる場所の事だ。

 バスで行けば十分の道を二人は歩いて三十分かけた。

 央利は竜清を心配して色々言ってみるが、どうにも反応が薄い。

 しびれを切らして央利は竜清の心を覗いてみる。

(なんだか妙だ。瀬良太が言われてた事なんだよな)

 恋人役に慣れないらしい事が分かり、央利はホッとしたが、焦れったくも思った。

 まずはスキンシップから始めるのに。腕を組んで歩いて。竜清にもたれかかって。

 だけど、それは痛がりの竜清には出来ない。

 だからこうやって色々話しかけていると言うのに。竜清と来たら生返事ばかり。

 央利は大いに不満に思ったが、もうすぐ自分の家に着くので竜清にひっつくのをひとまずやめてもいいと思った。

「あっ!」

 央利は飛び上がって指さした。あったのだ我が家が!

「あれだよ、あれ! あれがぼくの家!」

 央利は無意識の内に走り出していた。

 もしかしたら央利の家族は引っ越ししていて違う人間が住んでいるかも知れないと言うのが過ぎった。央利は期待と不安が入り交じり、視界がチカチカした。

 玄関の名前をすぐに確認する。「伊野」

 間違いない。昔からちっとも変わってない。変わっているとしたら庭の樹木が伸びている事だ。

 央利はインターホンのボタンを押す。

 まだかなまだかなと待っていると「はい、どちら様でしょうか」

 ママだ!

「ママ! ぼくだよ、央利! 帰ってきたんだ!」

 ドアがすぐに開くと、夢にまで見てママが目の前にいた。

「ママ!」「央利!」二人はぎゅっと抱き合った。

「どうしたの? どうして帰ってきたの?」

 央利は感極まって、わぁわぁと泣く。もう帰れる事は出来ないかも知れないと覚悟していたからだ。

「ママぁ。ぼくもうあの研究所にいなくていいんだ。ずっとここにいれるんだよぉ!」

「おい。本気かよ?」

 竜清が感動の対面を邪魔しちゃ悪いがと思ったが言った。

「あれは……、お友達? あぁ、竜清君ね」

 竜清は自分の名前が知られているのに驚いた。

 央利が家族と手紙や電話のやり取りをしていて、竜清や瀬良太の事をママは少しは知っていた。

 実際に見た訳ではないが、央利が書いた竜清の特長。真っ白頭と、体の節々の縫い目でママはピンと来たのだ。

 もちろん痛がりだと言う事も知っている。

「こんにちわ」

 竜清が知っている外の人間とのコミュニケーションの方法だ。

「よく来たわね。さ、中にお入りなさい」

 央利はママの足にしがみつきながら、家の中に入っていった。

 このままここに居続けることになれば、ママが危険に晒されてしまうのは明白だったからである。

 晴彦がそうだった。元々が無関係で車を壊された被害だけで済んだが、央利のママは違う。央利は必死で守ろうとするだろう。ママもその時が来たら命を賭して 央利を守るだろう。

 だから、逃亡資金をちょうだいして今すぐ別の場所に行くのが一番いい。

 だけど、央利はそうしそうになかった。

 竜清は忠告だけはしておこうと思った。



「帰ってくるなら連絡くれれば良かったのに。今家にはこんなものしかないのよ」

 言いつつ、ママ特製のクッキーが登場。その美味しさをよく知っている央利は手を叩いて喜んだ。

 馴染みのあるソファに座り、上等ではない少し潰れた感触がとても懐かしく思えて央利は瞬時にリラックスした。

「ずっと食べたかったんだ!」

 竜清は借りてきて猫のように大人しくしている。晴彦の時の用に横着も出来ないと感じているからだ。

「竜清おいしいよ。食べなよ、ほら」

 ママは台所で紅茶を入れている。竜清は央利に言った。

「おい。おれ達がここにいると、お前のママが危険に晒されちまうぞ」

 央利は険しい顔つきになった。

「もうあいつらは巻いたよ! だってそうでしょ。電車を三回も乗り換えてバスを使わずにここまで来たし。それに一回も襲われてないじゃないか」

「同じような事を言って、あの兄ちゃんの家にいた時襲われたじゃないか。冷静になれ。こだわりを捨てろ」

 竜清はクッキーをかじった。なるほど美味だ。

「……じゃあ、今日一日だけ……」

 央利も頭の片隅で心配に思っていたのだろう。

「一日もいるのか」

「一日しかいれないんだよぉ……」

 それでも断腸の思いだったのだ。央利は苦しくて泣いた。

「おれがいるじゃないか。帰れる所があれば、全てを終わらせる気にもなる」

「どうして一日しかいれないの? ママに話なさい」

 紅茶を持ってきてママは差し出した。

 央利が話そうとするが、竜清の方が言った。

「おれ達、狙われているんだ。研究所が襲われて逃げてきた。三人いたんだけど、行方不明になっちゃって。あいつらは今は穏便に済まそうなんて思っちゃいない。螺君町で銃器を持ち出したんだ。超能力者は生かしちゃおかない。たった一つの理由のために」

 ママは難しい顔をした。だけど、すぐに笑顔になる。

「いいのよ。ママがなんとかしてあげる。だから安心してお上がりなさい。二人とも汚れちゃってるからお風呂に入りなさい。今用意してあげるから」

 ママはお風呂場へと向かう。央利はすっかり安心した様子だ。

「大丈夫だって」

 ほら見ろ、と言わんばかりである。

「サイムズの説明をしないと駄目かな」

「いいよ! ママがいいって言ったんだ!」

 央利はテレビを付ける。

「……いいじゃない。逃げ続けて生き延びれる保証ってあるの……?」

 ぽつりと言った。竜清は央利を抱きしめる。

「竜清……!」

 あれだけ嫌がっていたスキンシップ。央利の胸が激しく燃えた。

「お前の気持ちはよく分かるが……」

 央利が欲しがっていた熱い抱擁。竜清は痛みをこらえてやっている。

「あの人が死んでいいのか。おれは嫌だ。だって……、おれの縫い目を見て『お友達の竜清ちゃんね』って、そう思ったんだぞ。誤魔化しのきかない心の声で」

 竜清はじわりと涙を浮かべた。リーズが先回りしている可能性を考え、ひっそりとママの心を覗いたのだ。

 そこにはふんわりとした優しいものだけがあって、好奇の目に、忌避の声に打たれ続けた竜清をそっと包み込んでくれたのだ。

 竜清はそれに感激したからこそ、迷惑をかけてはいけないと強く思ったのだ。

「竜清……。じゃあ、竜清もウチの子になっちゃえばいいんだ!」

「お前の気持ちは分かるがって言っただろ!」

「ママが大丈夫だって言ったでしょ!」

「お前のママは、一人でリーズを討ち滅ぼすことが出来るとでも言うのかよ!」

「ほらほら、ケンカしないの」

 怒鳴り合っていたらママが来て、央利と竜清をなだめた。

 ママは竜清の顔をじっと見つめた。

「大丈夫だからね」

 ママは竜清の隣に座る。

「ここに頭を乗っけて」

 ソファに座った太ももを枕にとママは言った。

 竜清はとんでもないと首を振ったが、ママは竜清をころんと転がした。

 痛かったが気持ちよかった。そして驚いた。

 今までありとあらゆる枕を試してきたと言うのに、どれもこの膝枕には遠く及ばないのだ。

「あっ、いいな!」

 央利は指をくわえた。

「寂しい子なのね。でも、もう大丈夫よ」

 ずっと言われたかったのかも知れない。この言葉を。

 竜清はふにゃっと泣き出した。泣くなんて今まで人前でした事なかったのに。

 何故だか心が見透かされているで、竜清はママの心を覗く。

 すると小さい頃の央利が拗ねているくせに、構って欲しいあの表情を竜清がしていると思ったようだ。

 こうしてやると機嫌を良くする。ただそれだけのようだ。

「白い糸はなかったの? かわいそうにね。目立つでしょう」

 竜清はさらに涙が落ちた。今まで誰も竜清の縫い目を哀れんでくれた事がないのだ。

 瀬良太はカッコいいと思ってはいるが「悪役っぽくて」だし、央利は触れちゃかわいそうと思っている。

 いつしか竜清は眠りに落ちた。ママは優しくなでなでしてあげてる。

「ママ、ぼくも!」

「研究所にはこの子をかわいがってくれる人はいないの?」

「う、うん……。竜清きついから。みんなにあまり好かれてないんだ」

「そう……」

 その膝枕は央利のものだったのに、竜清に取られてしまって央利は頬を膨らませた。

 仕方ないので横にぴったりと寄り添う。

「お風呂入ってきなさい」

「やだ。ママと入る」

 竜清も寂しい子だが、央利も親元を離れてずっと寂しかったのだとママは思った。

「寝かせてあげましょ。気持ちよさそうに寝てるから」

 見れば竜清は安らかな顔をして寝ている。あれだけ寝具にこだわり、上等なものでないと眠れないと豪語していた竜清が。

 古さのせいで綿が潰れたソファの膝枕で、こんなにぐっすり。

 痛くないんだろうか? 抱きつかれるのも嫌なはずなのに。

 央利は精神感応を使おうと集中する。

「こら、ふつうの子でいなさい」

 央利のママは超能力者ではない。パパも違う。

 なのに、央利が精神感応を使おうとすると昔から分かるらしいのだ。

 ずっと育ててきた息子だから分かるに違いないと央利は結論している。

 ママとずっとテレビを見ていると、竜清がううんと起き出した。

「へへ、首がいてえや」

 寝起きはいつも不機嫌だと言うのに、この時ばかりはご機嫌だ。

「竜清お風呂沸いてるよ」

 央利が竜清を追いやろうとする。恋人役になったのだから目覚めのキスでもされるかと思った竜清は不審に思って、央利がどんな気持ちでいるのか見ようとした。

「駄目よ。ふつうの子でいなさい」

 央利と同じようにママは竜清を制した。

「わ、分かるのか。お前のママって何者なんだ」

「ママ、ぼくじゃなくても分かるの?」

 ママはそれには答えずに、

「ママ、買い物に行ってくるから、二人でお風呂に入って来なさい。今日はご馳走作ってあげるからね」

 二人が欲しがっていた母性の笑み。

 二人はわぁいとはしゃいだ。

「瀬良太も連れてきたかったね」

 央利がぽつりと言う。

「あいつがいると、占領するに決まってるじゃないか」

 半分本気の冗談で竜清は言った。

「ぼくのママだもん。きっとみんな可愛がってくれるよ」

 言われて竜清は納得した。あの感じはみんな等しく可愛がってくれそうだ。

「悪かったな。お前のママを占領しちまって」

 竜清は自慢げに言った。忘れられない思い出になったのだ。

「いいよ。ぼくはその倍ママに可愛がってもらうんだから」

 央利はタンスから着替えを出す。央利がこの家から出ることになったと言うのに、央利のタンスには変わらずいくつも服がしまってあった。

「あ、小さいかも」

 ワンサイズ小さいのが出てきた。

「締め付けるのはいやだぞ」

 相談した結果、下着は替えずにそのままと言う事になった。

「着替え持ってくれればよかったのにね」

 リュックを無くしたのはやはり惜しかったと二人とも思った。

 それからお風呂に入り、テレビやゲームをして過ごす。

 ママが帰ってきて、両手にレジ袋いっぱいの買い物を見せ、二人を沸かせた。

「今日何作ってくれるの?」

「央利の好きなものよ。嫌いなものもあるけどね」

 央利のママの方針は、好き嫌いは許さない。上手く調理してくれるのでどうしても食べられないと言う事は今までないので、このママも自信に思っているようだ。

 鼻歌交じりでキッチンに立つ。央利は追いかけていって、服が小さいことを報告する。

「ママ、ぼくのシャツとパンツ。もう小さくなっちゃってたよ」

「あー、ママうっかりしてた。そうよね。もう央利もおっきくなっちゃったのよね。もしかして着替えられなかったの? じゃあ、ママもう一回お買い物に……」

「ぼくが行く!」

「だめ。おうちにいなさい」

「どうして?」

 ママは初めて表情を曇らせた。央利は知りたがりママの心を覗きに行く。するとすぐに制される。

「だめよ。おうちにいる限りはふつうの子でいなさい」

「じゃあ……、教えてよ」

「いいの。子供は知らなくて」

 ママはもう一回出かける身支度をする。近くのスーパーに衣類を扱っている所があるのだ。そう時間はかからないと食事までの時間を計算した。

「じゃあ、ママ行ってくるからね。お留守番してるのよ」

 小走りでママは出かけていった。

「どう言う事だろ」

 央利に過ぎるある不安。竜清は精神感応を使わずとも分かってしまう。竜清も同じ事を思っているからだ。

「おれ達を目立たせたくないんだろ。きっと、大丈夫だって言うの……、嘘なんだよ」

 やっぱりこの家を出ようと竜清は言い出した。

「え、やだよ。だってママのごはん、まだ食べてないもん」

 家に戻ってくると央利は急に子供じみたことを言い出す。

 気持ちは分かるが、と竜清は語り出す。

「いいか。もし、もしだぞ。お前のママを直接狙わなかったとしても、流れ弾に当たったり、ママがお前をかばったりしてみろ。お前のパパに申し訳が立たないぞ。そうだ。お前のパパっていつ帰ってくるんだよ」

「もうすぐだよ!」

 竜清の言った不安事項には耳を貸さず、央利はパパが帰ってくるのを楽しみにしはじめた。

「おい。央利! おれは嫌だぞ。お前のママが危険な目に合うのが!」

 子供の声を不審がって、ただいまも言わずに央利のパパが居間まで入って来た所に央利は出くわした。

「お……、央利なのか……?」

 パパはじわりと涙を浮かべる。

「パパ! 央利だよ!」

 央利は飛び上がってパパに抱きつく。

「ははは! 央利! いつ帰ったんだ? 帰れたのか、お許し出たのか? 連絡してくれれば良かったのに!」

「びっくりさせたかったの」

 もう央利はすっかり子供になってしまった。

 いい人そうで、竜清の迷惑をかけてはいけないと言う気持ちはどんどん大きくなる。

「あ、君は竜清君だね。いやぁ、話の通りだ。利発そうな子だね」

「お、お邪魔してます……」

「はは、そんなに堅くならなくていいんだよ。君も僕達の大切な子供だよ」

 パパは竜清の頭を優しく撫でてやる。竜清が痛がりなのを配慮してだ。

 竜清は無意識の内に抱きついた。

 竜清の守られたいと言う潜在的な欲求が爆発した瞬間でもあった。

「お風呂入ろうか」

「もう入ったよ」

 央利が言うが、竜清は入ると言った。

「何回入ってもいいじゃないか」

 パパは仕事の汗を竜清と流しに言った。

 しばらくすると、竜清のお風呂の歌が聞こえてきた。

 そんな所でママが帰ってくる。

「パパ帰ってきた?」

 外に車が止めてあったのだ。

「おかえり! 帰ってきたよ。竜清とお風呂入った」

「そう。じゃあ、央利はママを手伝って。ごはん作ろ」

「うん!」


 その日の夕食は豪勢だった。

 央利の好きなオムライスを筆頭に、グラタン、ほうれん草とベーコンのバターソテー、鳥の唐揚げもあった。

「わぁ、美味しそう!」

 央利がむしゃぶりつく。

 竜清は食事の歌を歌い始めた。話通りだとママもパパも笑った。

「ママの料理は美味しいなぁ」

 普段はもっと質素なので、パパもご満悦だ。

 竜清はある事が気になって、精神感応を試みる。

「こらこら。聞きたい事があるなら口で言いなさい」

 優しくパパも言った。竜清は目を丸くした。

「ど、どうして分かるの?」

「子供の考えている事くらい分かる。な、ママ」

「ええ、そうね。だから二人とも力を使っちゃだめよ」

「はーい」

 と、約束させられた所で、改めてパパは竜清に訪ねた。

「何が気になったのかな」

「そ、その……」

 竜清は急にもじもじしはじめる。

「言ってごらん」

 優しく促されて、竜清は意を決して言った。

「お、おれの縫い目って気持ち悪くないかな……、って思って……」

 最後は消え行くようなか細い声であった。

「なんだ。そんな事を心配していたのか。カッコいいじゃないか。なぁ、ママ」

「そうね。男の子らしくてステキよ」

 竜清の心が洗われていく。

 それを象徴するように竜清は泣き出した。

「だって、だって、みんな、みんなおれのこと……」

 竜清の心にこびりついた、竜清の縫い目に対しての拒否感や

「ほらほら、泣いてないでごはんを食べなさい。冷めちゃうぞ」

 分からない。本当は心を読めば違う事を思っているのかも知れない。でも、竜清にはこの二人が嘘を付いているようには見えなかった。

 その事も相まって食事はとても美味しかった。


 食事が済むと、央利のベッドに央利と竜清、二人が寝ころぶ。

「なぁ、お前のママとパパ、どうして精神感応を使おうとするのが分かるんだよ。それに、時々見透かされているように思うしさ」

「うん。でも、ママもパパも超能力者じゃないんだよ。検査も受けたけど、反応は出なかったんだ」

 竜清はおやすみの歌を歌うと、ぐっすり眠った。

 央利はひとしきり両親に甘えると、恋人ごっこの欲求が頭をもたげてきて、竜清の寝顔を見ていて、その内に眠った。


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