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神を喰らう少年と、神に祈る少女  作者: 朽木 良平
1/3

出会い

投稿というものが初めてなので、かなり緊張しています。

けれど、自分の作品が、人からどのように見られるのかを知りたくて、投稿させてもらいました。

拙い文章かもしれませんが、よろしくお願いします。

 教会は言う。

 神は正しいと。

 教会は言う。

 神は偉大だと。

 教会は言う。

 神こそ、この世の救いだと。

 少年は幼き頃からそのように教わってきた。

 別段、少年の家族が特に敬虔な信者だったというわけではない。少なくとも、少年の住まう国の中では普通のこと。

 この世には確かに神々は存在する。

 だから、少年は教会の教えを普通に信じてもいた。

 そして、少年は十五歳の誕生日の日に、村の近くの森で神に出会う。

 神は男とも女ともとれる美しい姿をしていて、神々しいという言葉そのものの印象を少年は感じた。少年は一目見て確信する。この方が神様なのだと。

「あなたは神様ですか?」

村の中でも立派な印象を受ける教会の神父さまが、常に偉大だと言い続ける方だ。自分なんかが話しかけても良いものか? と不安に思い、少年は恐る恐る話しかける。

神は今まで気付かったのか、それとも、少年など眼中になかったのか、ここでやっと少年の存在を認める。

神は少年を見ると優しく微笑んで頷いた。その微笑みは少年が今まで見たどんな笑みよりも優しいものに感じる。

 少年は微笑みかけられたことで舞い上がり、少年は色々なことを話した。

神様に会えてとても嬉しいということからはじまり、自分のことや、村のことを話し続ける。

 その間、神は優しく微笑みながら少年の話を聞いてくれていた。それどころか、少年が今日は誕生日だと言った時には、光る綺麗な石さえくれたのだ。

 少年は嬉しくて仕方なかった。とても偉大な方が、自分なんかの話をちゃんと聞いてくれて、しかも、贈り物までしてくれた。

 少年は最後に村に来てくれるように神に頼む。

 皆が敬う神。村の皆も会えれば喜ぶに違いないと思った。

 神は少年の願いを聞き届け、少年の住まう村へとやってきてくれた。

 村の人達も、神だとすぐに理解する。

村の人達は神をもてなそうと、村で一番立派な建物を貸し、できうる限りの豪華な食事を振舞った。

そして神も村の人達に数々の奇跡を行った。

病人を治したり、日照り続きに困っていた農民のために雨を降らしたりしたのだ。

その姿は正に神で、救いの主。

少年は神が活躍するごとに、とても嬉しく感じる。

なんといっても村に神を連れて来たのは自分なのだ。しかも、自分の誕生日を祝うかのように来てくれた。

少年は幸せだった。……その時までは。

その日、日が傾き始めたので、村の皆が農作業を終え、村へと帰っていく。そんな中、少年は畑に残っていた。自分の誕生日なのだと神に話した時に貰った、透明な石を落してしまったのだ。

こんなことなら、肌身離さず持っているのではなく、ちゃんと大切に閉まっておけば良かったと、後悔しながら探し回る。

すっかり夜になってしまい、星明かりだけでは探すこともできない。

少年は諦めて帰ろうとした。すると、何かを踏み付けて転んでしまう。少年は痛がりながらも踏んだものを見ると、それは探していた透明な光る石だった。

「良かった」

 心底から安堵したような声を出して、光る石を拾った瞬間、村の方で巨大な爆発が起こる。

「なっ――」

 あまりのことに少年は絶句し、気が付いたら村の方へと走り出していた。

 両親や兄弟が心配だった。友達が心配だった。大好きな女の子が心配だった。

「神様がいるから大丈夫だ。神様がいるから大丈夫だ。神様がいるから大丈夫だ」

 自分自身を落ち着けるようにひたすら繰り返す。

 少年が村に辿り着いた頃には村中、火の海になっていた。

 村に入ってすぐに目にしたのは、少年の苦手な近所のオジサンだ。体の下半分が綺麗さっぱり無くなっている。

 少年は恐怖と嫌悪から胃の中の物を吐きだす。出すものがすぐに無くなり胃液が出て、口の中に苦い味が広がる。

 しばくしてなんとか立ち上がり、自分の家へと向かう。

 道の端々に村の人の死体が転がっていたけれど、怖くて、直視したら気が触れてしまいそうで、少年は見ないように目を閉じてひた走る。

 偶に目を開いて、位置を確認しながらやっとのことで家に辿り着いた時、そこには神が座っていた。

「遅かったな」

 相変わらずの優しい微笑みを浮かべたまま、神はそんなことを言ってきた。しかし、少年は喜ぶことはできない。神の座っているものが、少年の家族だったから。そして神は一人の少女を抱きかかえている。それは、少年が淡い恋心を抱いている少女。

「これはいったい……」

 少年はわけがわからなくなり、言葉も途中で止まってしまう。

「何が起きたかって? そんなのは決まってるじゃないか。こんなことができるのは、神ぐらいなものだよ」

 神は薄く笑いそう言うと、抱えていた少女を起こす。

 すると、少女の背中には、白い羽が生えていた。

 天使だ。

 少年は少女が神の手で天使になったのだと理解する、神に仕える救いの天使。

「襲え。殺さない程度にな」

 少女に神が言うと、天使になった少女が、少年に襲いかかってきた。

 その攻撃は救いの天使などとは程遠く、冷徹で無慈悲な程凄まじい。少年には避けることもできない。

 一撃で殺せるはずなのに、少女はまるでいたぶるようにじわじわと少年を傷つけていく。

 少女の顔には喜びも悲痛さも無く、ただ、淡々と作業のように傷付ける。

 そこには少女の意思など浮かんでいなかった。

 少年は泣き叫び、少女に止めてくれと何度も懇願するが、少女が手を止めることはなかった。

「飽きたな」

 楽しげに見ていた神だがそう呟くと、手に光の帯が出現し、鞭のように振るう。

光の帯は自然ではありえない軌道で動き、少女の体を槍のように貫く。

光の帯の通った部分が無くなっていた。そう、無くなっていたのだ。破裂するでもなく、焼けるでもなく、消滅していた。少女と判別させるための顔が。

 少年には、その死に方に覚えがあった。村で最初に見たオジサンの死体。

 理解する。

目の前にいるこいつが全てやったのだと。

 村の全ての破壊も、好きだった少女を天使にして操ったのも。

「お前は、……お前は神なんかじゃない。……お前は悪魔だ」

 少年は弱々しく呟く。好きだった少女を目の前で殺されたというのに、怒りはそれ以上の恐怖に飲み込まれていた。

「悪魔か。そんな下等なものと一緒にされたくはないな。我は神さ。変革の神レーシュ。汝らの聖書にも書かれているだろう?」

 そう、この神は聖書にも書かれていた。

聖書では、浄化の鞭を手に、圧制を強いる暴君を倒し、人々を苦しみから救ってくれる神。

 その様はおとぎ話に出てくる英雄のようで、少年の好きな神でもあった。

「嘘だ」

 少年は信じられないというより、信じたくないと言うように叫ぶ。

「嘘ではないよ。我ら神は嘘を吐かない。何故だかわかるか? 嘘とは弱いものがすることなのだよ。動物を見ればわかるだろう? 弱いものは生き残るために自らを強いと偽る。つまり擬態だ。そして、強者になればなるほど偽らなくなる。つまり、我ら神は偽る必要などないのさ」

 神の言葉と共に感じる自信。それが、神としての誇りなのかもしれない。こいつは嘘を言っていないと少年には感じられた。だが、一つわからないことがある。

「……なら。……なら何で最初は俺たちを助けるようなことをしたんだ? それに、この光る石だってくれたのに」

 偽らないというのなら、最初から殺せば良かった。

 最初に優しくなんてしてくれなければ、少年はここまでの怒りも、絶望も感じなかっただろう。

「くく、そんなのはただのガラス球。価値など何一つないし、最初は人に敬われるのが楽しかったのさ。しかし、何日もやっていると飽きてしまったよ。だから、別の楽しみとして殺して回ったのさ。中々楽しかったよ。信じてたものに裏切られる顔は」

 神は思い出したように笑う。

「それは偽ったってことじゃないのか?」

 少年の恐怖を怒りが抑え始める。

「違うな。我が偽ったわけではなく、相手が勝手に勘違いしただけだ。例えるなら、猛獣とは知らずに、お前たちが安全な生き物だと勘違いして、自らの家に入れてしまったようなものだ。この場合、猛獣は騙したのか? 違うだろう? 悪いのは愚かな人間だ」

 そこで、少年の怒りは爆発する。

もしかしたら恐怖に耐えられなくなっただけなのかもしれない。勝てる見込みなんかまるでない、ただ殴ろうと無謀ともいえる突進をする。

 少年の無謀な突進に神は微笑む。とても優しそうに。

 殴ろうとした右の腕が、光の帯によって消滅する。しかし、怒りは少年に、一瞬だけ痛みを忘れさせる。今度は左の腕で殴ろうとしたが、肩口を手刀で切り裂かれる。

 両腕を無くし、バランスを崩した少年は神の目の前に倒れる。そして、思いだしたように痛みが巻き起こり、泣き叫ぶ。

「やはり、愚かだな」

 相変わらず優しげな笑みを浮かべながら、痛みに叫び転がる少年に神は言う。

神の笑みはどれだけ優しく見えようと、相手を見下している笑みなのだと少年は気付く。

許せない。

痛みに転がりながらも、少年の意思はそれだけだった。何か一矢報いたいが、両腕を無くした今、少年のできることは限られている。

そして、少年は噛みついた。



森の中を汽車が走る。

その汽車の中で、教会の礼拝用の服に似た、学校の制服を着ている十五、六才ほどの少年がいた。

顔は整っているものの、黒髪は無造作に首元で切られぼさぼさになっており、背は高いが体は細く、少し頼り無さそうにも見える。少年の名前はセイと言い、髪と同じ黒い瞳を、子供のように輝かせて、移り変わる窓の景色を眺めていた。

二十年前に起こった、突発的な機械の発展によって、多くの機械が造られ、数々の産業的な革命が起こった。

その発明された物の中で、最も人の暮らしに貢献した発明は何かと問われたら、電灯、電話、冷蔵庫など、人によって色々な答えが上がる。

そして、セイは汽車を選ぶ。

電灯も、電話も冷蔵庫も、人が暮らすには確かに便利なものではあるけれど、今まで田舎暮らしをしていたセイにとっては、どれも普及しているものではないので馴染みがない。それらがあるのは大きな都市ぐらいだろう。

しかし、汽車は違う。

確かに旅行目的の乗車となると、上流の人間くらいしか乗れないのだけれど、荷物は別だ。

汽車は人だけでなく、というよりも、人以上に荷物を運ぶ。

色々な町に大量の物資を運ぶのには、汽車ほど便利なものはない。

汽車による物の流通が増えたため、今まで以上に、色々な所で安く、珍しいものが簡単に手に入る。

それはセイの住んでいたような田舎町にも恩恵が巡ってきたほどだ。

今は上流の金持ちぐらいしか乗れないが、いずれは普通の人も乗れるようになり、通る場所も増えていくだろう。そうなれば、人はどんどん豊かになっていく。

そんな幸せな理想をセイは夢想する。

ちなみに、セイが汽車に乗っているのは、セイが金持ちだからなのではない。

汽車に乗る人間には二種類いる。

一つは先程挙げていた、上流階級の金持ち連中と、もう一つは教会の関係者。

この国は宗教国家なので、この国の一番偉い人間は教王と呼ばれる、教会のトップ。

汽車の所有権も国、つまり教会が握っているので、教会からの使用の許可さえ出れば、教会の人間は無料で使用できる。

だから、セイは後者として、汽車に乗っている。

今、セイが向かっているのはローチカという、この国では比較的大きな都市。

ローチカには立派な教会直属の学校があるらしく、村にいた神父が、村の子供たちの中で飛び抜けて頭の良かったセイを、学校ヘと推薦してくれた。

セイの来ている制服もその学校の制服だ。

その学校へと寄宿するために、セイは教会の援助と許可を得て、汽車に乗っている。

「あなたもローチカの学校に行くのですか?」

 セイの向かいの椅子に座っていた一人の少女が話しかけてきた。少女はセイと同い年くらいだろう。栗色の長い髪を後ろにゆったりと束ね、とても綺麗な顔をしているが、優しそうな目が印象を和らげ、綺麗と言うより、可愛いらしいと言う印象に収まる少女。

その少女も自分と似たような制服を着ているので、もしかしたら、この少女も同じ学校に通うのかもしれないと、セイは判断する。

「ええ。お世話になった神父様に推薦され、ローチカで学ぶことになりました」

 セイが答えると、少女は嬉しそうに表情を明るくした。

「私もなんです。あっ、自己紹介がまだでしたね。私の名前はイノと申します」

 名乗るのを忘れたことに恥じ入りながら、手を差し出してくる。

「ああ、私の名前はセイです。よろしく」

 セイも友好的に手を差し出して握手する。

「もしよろしければお友達になってくれませんか? 知らない町に行くものだから、心細くて」

「ええ、良いですよ。私も向こうには知り合いなどはいませんので、私の方が頼ってしまうかもしれませんけれど」

 セイは少しおどけるように答える。

「ふふ、その時は精一杯頑張ります」

 イノは微笑んで答えると、両手を重ねて胸の真ん中に当てる。そして、瞳を閉じて祈りだす。これがこの国の祈り方だ。

「神よ。この出会いに感謝します」

 祈っているイノを、セイが醒めた目で見ていることに、イノは気付かなかった。

イノが目を開けた時には、セイの瞳は優しげに微笑んでいる。

「イノは熱心な神の信者なんですね」

「セイさんは違うのですか?」

 セイの言葉にイノは首を傾げる。

「そこまで熱心ではないですね。普通の人と同じくらいですよ」

 この国は先程述べたように宗教国家だ。だから、普通の国民でもそれなりに信仰している。だが、セイの感じとったイノの信仰ぶりは、教会の神父や修道女となんら変わりないレベルだった。

「そうですか」

 イノは少し残念そうに言うが、すぐに気を取り直して言葉を続ける、

「でも、神様はずっと私たちを見守ってくれていますので、神様への感謝は忘れてはいけませんよ」

「気を付けます」

 その後、二人はたわいのない話をして、ローチカまでの時間を潰した。


「うわぁ~」

 セイは汽車から降りると、ローチカの町並みに感嘆する。

 今まで住んでいた田舎町とは違って、地面には石が敷き詰められ、道の端には、田舎にはない、背の高い石造りの屋敷が所狭しと並び建ち、噂で聞いた電灯が、道の彼方まで続いている。

「セイさんはこういった都市は初めてですか?」

 一緒に降りたイノが、キョロキョロと辺りを見回すセイに声をかける。

「ええ。今までは田舎の方に居ましたから、……凄いですね」

 セイのいた田舎町とはまるでちがう、異世界のようだと、セイは改めて感じていた。

「そうですね。人の文明は二十年ほど前の、『知の罪悪』でとても成長しましたから、地方までは伝わっていないものがたくさんありますからね」

『知の罪悪』

二十年前、教会は、工神士と呼ばれる技術を司る神の使いが居るのだが、その知識を広めたのだ。神々の技術力は高度すぎて、理解できないものがほとんどだったが、それでも、技術発展のきっかけとなり、ここ二十年で、機械は爆発的に成長した。その歴史的事件を、知の罪悪と呼ばれている。

「自分の小さかった頃にはこんなものができるなんて、想像もしませんでしたよ」

 セイはそう言いながら、電灯に触れたり、石の道を無駄に足踏みしてみたりする。

「セイさん子供みたいです」

 はしゃぐセイに、イノは微笑む。

「むぅ、さすがに子供扱いは嫌ですね」

 むくれたように言うセイが、益々子供じみていたようで、イノは笑いだす。

「ふふ、ごめんなさい。それでは、学校に行きましょう。セイさんも学校の寮に暮らすのですよね?」

「ええ、私も寮暮らしです。寮は学校の敷地内にあるんでしたね」

 セイは荷物から地図を取り出す。

 村の神父に渡された、学校への地図だ。

地図には駅周辺の道が描かれていて、学校への道順が違う色でわかり易いように色付けされている。少しでもこの辺りのことを知っているものには、とてもわかりやすいものだったのだろう。

しかし、セイはこの町は初めてだ。

駅から続く道は多く、地図で色分けされている最初の道がわからない。

地図には親切にも、通りの名前が入っているのに、道は不親切で、通りの名前が書かれた看板は無い。

 セイは近くにいる人に道を尋ねようと、周りをキョロキョロ見回したが、一緒に降りた乗客も、汽車を見物に来た人達も、セイがはしゃいでる間にいなくなっていた。

「これは、……どうすれば?」

「セイさん。こっちだそうです」

 セイが茫然としていると、イノが手招きしながら一つの道を指さしている。

「なんだ。イノは知ってたんですか」

 セイは安堵したように、イノに近づく。

「いいえ、駅の人に聞いてきたんです」

「……面目ないです」

 少し考えればわかることだ。駅の中には働いている人がいるだろうし、この手の質問も多くされるだろうから、わかり易く教えてくれることだろう。

 汽車の中で、頼ってしまうかもしれないと、冗談のように言ったが、本当に頼ることになりそうだ。

 我ながら情けないとセイは落ち込む。


 イノの聞いた道は正しく、迷わずに着くことができた。

「ここが学校かぁ」

 学校は四階建ての建物で、端から端までがとても長い。

 屋根の上にある鐘も、実際は大きいのだろうけれど、小さく見えてしまう。セイはこんな大きな建物は初めて見るので、圧倒されるような気分になる。

「あっ、教会です」

 イノが校舎の横に建てられている教会の建物を見つけて、嬉しそうな声を上げる。

 学校にある教会も、桁外れに大きい。何百人もいるであろう生徒を、全て入れるために大きくしたのだろうけれど、セイの住んでいた村にあった教会の、軽く五倍くらいはあるだろう。さすがにそこまで大きいと、自分の持つ教会のイメージとずれてしまう。

 セイはあれが教会だと、すぐには思えなかった。

「お祈りしていきましょう」

 イノは嬉しそうに教会へと歩きだすが、セイが付いて来ていないのに気が付いて立ち止まる。

「どうしたんですか?」

「いや、お祈りの前に教員の人を探して、寮のことやこれからの授業のことを聞いた方が良いんじゃないですか?」

「そんなの後でいくらでもできますよ。それより今は祈りましょう」

 それこそ、後でいくらでもできるとセイは思うものの、イノはセイの手を掴むと教会の方へと引っ張るので、仕方なく付いて行く。

 教会の中には誰もおらず、大きさと相まって、なんだか閑散とした印象を与える。セイは入ってはいけない場所なのではないかと、躊躇ってしまうほどだ。

 しかし、イノは何の躊躇いもなく教会の中に入って行き、神々の像の並ぶ祭壇の前までやってくる。

腕を引っ張られているセイも、一緒に付いて行かざるをえない。

 イノはセイの手を放して、重ねた手を胸の真ん中に当て、膝を追って祈り始めた。

 セイはただ、それを見詰める。

祈っているイノはとても神聖な感じがして美しく見える。まるで、おとぎ話に出てくる、聖女のようにすら見える。しかし、セイは祈ることで、何かが救われるなんてことは思っていない。

 祈ることなんて無駄。

それがセイの答えだ。

 汽車の中で、神への信仰心を尋ねられた時、セイは普通だと答えたが、本当はこれっぽっちもない。

 この世界には確かに神は存在する。しかし、それを崇める気もなければ、会ってみたいとも思わない。むしろ、天界だか言う所で籠りきって、人間と関わらずに生きて欲しいとすら思っている。

 セイは神々が嫌いだ。

 今まで人間は神なんかいなくても立派に暮らしてきたのだから、これからも人間だけで生きて行くべきだ。気まぐれな神などには頼らずに。

「セイさんは祈らないのですか?」

 しばらくして、祈り終わったイノが立ち上がって尋ねる。

「ん? もう祈りましたよ。イノの祈りが私なんかより長かっただけですよ」

 セイは肩を竦めて嘘を吐く。教会では悪とされる嘘を。

「そうなんですか」

 イノは納得して頷く。確かにイノの祈りは長かった。普通の神父ですらそこまで長くは祈らないだろう。

 この少女はそんなに長い時間、神に何を祈っているのだろうと興味を引かれたが、セイはやめておく。折角できた友人。嫌われたくはない。少しくらい慎重にもなる。それに、特に祈りなんてものは、心の奥底にあるものを希うものなのだから。

「誰かいるのか?」

 教会の扉の方から尋ねる声がした。学校の関係者だろう。

「ええ、います」

 セイはそう答えて、声の主の元へ姿を現す。

 何か、素直に出ないと危険な気がした。

声をかけてきたのは三十歳半ばぐらいの男の人だ。中肉中背で背は高い方だろう。顔は整っているのだが、冷たい印象を与える。

「うちの生徒か」

 セイの制服を見て判断する。

「ええ、正確にはこれからなる者ですけれど。学校の寮がどこにあるのかを聞こうと立ち寄ったのですが、誰もいないご様子でしたので、祈りだけを捧げさせてもらいました」

 本当は祈りだけが目的だったが、こう言えば、寮について教えてくれる可能性もあるだろう。

「なるほど、入学生か。確かに今年だったな」

 男は納得したように何度も頷く。

この学校は六年制の学校で、入学生は三年に一度、やってくるのだ。

「早速、神に祈るのは良い心がけだ。それで、学校の寮だったな。それなら校舎の一階にある教師室で。自らの入学証を見せるといい。そうすれば、割り振られた部屋まで案内してくれるだろう」

「そうですか。ありがとうございます」

 セイは男に礼を述べて、イノの手を引いて、教会からさっさと出て行く。

 この男には関わりたくないと、セイの中の本能のようなものが伝えてくるのだ。

 二人が出て行き、教会の扉が閉まると、男が呟く。

「あの男、……どこかで」


 セイとイノは校舎に入ると、校舎は長方形ではなかった。玄関を中心に考えると、左右に伸びる廊下と、正面に伸びる廊下がある。

 この校舎は、上から見ると、T字型をしているのだろう。

 玄関は大きな吹き抜けのホールになっていて、天井には、神々を象ったステンドグラスが、綺麗に並んでいる。

「わぁ~、綺麗ですね」

 イノは感嘆とした声を上げるが、セイはそれを見て、お金はあるところにはあるもんだと、下世話なことを考えていた。

「教員室って、どこだと思います?」

 セイはとりあえず、目的地を優先させようと、ステンドグラスに魅入って、全く動こうとしないイノに質問してみる。

 質問したは良いが、イノも知らないだろう。

教会にいた男も、もう少し説明してくれてもいいではないかと、内心、セイは悪態を吐く。

「そうですね。……右は行動する者。すなわち男性を表します。左は支える者。すなわち女性を表します。では。前は?」

 イノは教会の教えの一つを口にし、セイに尋ねる。

「前は、教え導く者。つまり、先人」

「それと神様ですよ」

 イノはセイの言葉に、付け足しながら、満足そうに頷く。

「教員室は前の通路ってことですね」

「ええ、そうだと思います」

 まぁ、セイにとっても反対する理由も無いし、急いでいるわけでもないので、とりあえず、前の通路を進むことにした。

 イノとセイは物珍しそうに、校舎の部屋を覗きながら進んでいると、イノは何か思いだしたようだ。

「そういえば、セイさん。嘘は駄目です」

 イノが攻めるような口調で、セイに注意する。

「ん? 嘘って何ですか?」

 セイは素っ恍ける。心当たりは山のようにある。

「先程の男の人に言った言葉です。私達は祈るためだけに教会に行ったのです。寮については聞こうと思ってはいませんでした」

 教会の教義では、嘘は基本的に禁じられている。

神々は嘘を吐かないので、嘘は災いを呼ぶものなのだと、昔の人は解釈したのだ。故に、教会では嘘は災いを呼ぶと言われ、禁じられている。

「嘘ではないですよ。イノは祈るためだけだったのかもしれないけれど、私は教会に誰かいれば、寮についても聞こうと考えてもいたんですよ」

 これも嘘だ。無理矢理引っ張られて、教会に行ったセイにそんなことを考える余裕はあの時にはなかった。しかし、そんなことを正直に言ったところで、イノによる説教を受けるだけだろう。

 無駄な衝突をしないために嘘を吐く。

セイにとっては嘘とは日常的なことであり、災いでも何でもない。むしろ、災いを回避するための技術だ。

「そうなんですか。嘘吐き扱いをして申し訳ございません」

 イノは申し訳なくて、深々と頭を下げる。

 深々と頭を下げられたセイの気分としては、なんだかこっちが悪いことしたような気分になる。

 いやむしろ、セイは嘘を付いているのだから、謝られる資格なんて無いのだ。

しかし、今さら嘘でしたなんて言えるような状態でもない。

もっと長い説教を聞く破目になる。

「うむ。気を付けてくれたまえ」

 ということで、セイは調子に乗ってみた。

 このやり取りが何となく可笑しくて、ついつい二人は笑ってしまう。

「あっ、教員室ってあれじゃないですか?」

 イノが奥の部屋を指さしている。セイも見てみると確かに教員室と、扉の上に書かれている。

「そうみたいですね」

教員室は校舎の一番奥にあった。


セイ達は、教員室に入る。

近くにいた教生に自分の来訪理由を離すと、寮の鍵と、学校での生活規則の書かれた厚め冊子を渡され、寮の規則や学校の規則に付いて、軽く説明された。

どうやら、玄関を背にして右側が男子寮、左側が女子寮らしく、一階には、食堂や談話室、洗濯用の洗い場などの共有スペースがあるらしい。

二階からは異性の立ち入りは禁止となり、もし、連絡を取りたいのなら、各自の部屋に備え付けの電話があるので、それで、相手に連絡を取るのだそうだ。

電話が備え付けられていたことを聞いたセイが、瞳を輝かせるのを見て、イノは微笑む。

電話が繋がるのは寮内だけらしい。

生徒の部屋は基本的に二人部屋で、既にセイの方には相部屋の生徒も来ているということだ。

粗方の説明を受けた二人は、玄関に戻る。

「さてと、イノ。僕は部屋に行ってみますよ。ルームメイトもどんな人か気になりますしね」

 セイの言葉に、イノは少し寂しそうな顔をする。

「そうですか。私も部屋に行ってみます。セイさん。また、会えますよね?」

 イノのあまりに弱気な発言に、セイは吹き出す。

「ふふ、何を言ってるんですか。同じ学び舎にいるんですから、これから何度でも会うことになりますよ。それこそ、イノが嫌だと思っていてもね」

「そんな。嫌だなんて思いませんよ。セイさんとなら何度でも会いたいと思います。だって、友達じゃないですか」

 イノは少し照れながらも、微笑む。

 セイはイノの浮かべる笑顔を眩しいものでも見るかのように、目を細める。

「そう言って頂けると、嬉しいですね。では、イノ。また御会いしましょう」

「ええ、また今度」


 自分のセイは三階まで上がり、自分の鍵に書かれた三○六の扉までやってくる。

「ここが三○六号室か」

 扉の前には三○六と書かれた表札があるので間違いないのだろうけれど、この中に、これからの学校生活を共に過ごしていく人がいるのかと思うと、少し緊張する。

 とりあえず、友好的な間柄にはなりたいが、相手がどんな人なのかもわからないので、どのように接しようかと考えるが、具体的なものは思いつくわけもない。

 このまま突っ立っていても事態は変わらないと、セイは意を決して、ドアをノックする。

 しばらく待つが返事がない。

聞こえなかったのかもしれないと、セイはもう一度ノックをしてみる。

 ……やはり返事がない。

「留守か?」

 セイは教員室で渡された部屋の鍵をポケットから取り出し、扉の鍵を外して部屋の中に入っていく。

 部屋の中は一人で住むには大きく、二人で住むには少々手狭な大きさだ。

 部屋の入口の横には良くわからないタイルの敷かれた小さな個室があるのにセイは不思議に思いながら、部屋の中を見る。

扉の反対側は、ベランダになっていて、扉を背に右側に二段ベッド、左側には机と棚が二つずつ置いてある。

片方の机に物が置いてあったので、こっちはルームメイトが使っているのだと判断し、もう片方の机に、セイは荷物を置く。

初めて入った部屋というのは落ち着かない。例えこれからここに住まうのだとしても、急に馴染めるものでもない。

セイはそわそわしながらも、自分の荷物を棚に閉まっていくが、数の少ない服や生活雑貨。それと勉強道具しか持ってきていないのだ。

そんなのは時間もかからずに終わる。

ふと、鞄の中に人形が入っていることにセイは気付く。

「これはナズナの」

 教会では身寄りのない子供たちを育ててくれていた。

セイもその一人だ。

年長のセイは、教会で孤児たちの兄貴分的な立場に居た。ナズナは、面倒を見ていた子供たちの一人で、セイのことを実の兄のように慕ってくれていた。

教会では、仕事を手伝えば、お菓子でも買えるようにと、少ないながらもお小遣いが貰える。

この人形は、ナズナがお小遣いを溜めて、偶に村にやってくる行商人から買ったもので、ドッチとかいう名前を付けて、とても大切にしていた記憶がある。

「しまったな」

 セイは呻く。

荷物の準備をしていた時に、混ざってしまったのかもしれない。

今頃教会では、ナズナが落ち込んでいることだろう。

セイが他の町に行くと聞いた時も、凄く悲しんでいたのだ。大切なものを二つも失う喪失感を、味あわせてしまった。

あまりにもナズナに申し訳なくて、今にも村に戻りたくなる。

しかし、そんなことはできない。

なんとか村に返す方法はないものかと、人形をマジマジと見詰めていると、人形の服の中に、紙が入っていることに気付く。

セイは不思議に思いながら、その紙を取り出すと、どうやら自分に宛てた手紙のようだ。

この手紙はどうやらナズナからのようで、手紙の中には、一人ぼっちになるセイに、ドッチを譲ってくれるといったような内容が書かれていた。

セイは苦笑する。

てっきり、自分が心配している方だと思っていたのに、まさか、心配されている方だとは思わなかった。

「ん? 誰かいるのか」

 セイが人形を棚に置くと、扉が開いて声がした。

 振り向くと、そこにはセイと同い年くらいの少年がいた。

 この学校は、能力かお金があれば入れるので、同じ生徒だからと言って、同い年とは限らない。

 おそらく、この少年がルームメイトなのだろう。

 セイは挨拶をする。

「これから、この部屋に住むことになったセイです。あなたもこの部屋の人ですか?」

 少年が納得したように何度も頷く。

「ああ、あんたがルームメイトか。俺はダンだ。よろしくな、セイ」

「ええ、ダン。よろしくお願いします」

 ダンが手を差し出してきたので、セイも握り返す。

「それでだな。机やベッドは好きな方を、選ばせて貰っちまったけど良かったかな?」

 ダンが後頭部を掻きながら、すまなそうに言ってくるが、それは仕方ないことだと、セイは理解している。

「ええ、構いませんよ」

 セイよりダンの方が早くに来ていたのだ。優先順位は必然的にダンの方になるだろう。

「セイはどこの出身だ?」

 ダンはとりあえずといった感じに質問する。

「ヨイツです」

「ヨイツ? 聞いたこと無いな」

 ダンは、この国の町の名前を思い出すように視線を宙に浮かせるが、思い当たるところはなかったようだ。

「そうですね。汽車で東に三日移動した所にあるネテロの町から、更に馬車で四日ほど移動したところです」

「ネテロから馬車で四日ね。はは、どこの田舎だよ」

 ダンは笑う。しかし、その笑いにはそれほど馬鹿にしたような感じがしなかったので、セイも釣られて微笑む。

 それに、セイ自身、ヨイツは田舎だという自覚もあったので、馬鹿にされたところで、別に構わなかった。

「ダンはどこの出身なんですか?」

 セイもダンの出身地を尋ねてみた。

 セイのことを田舎者扱いするのだから、ダンは都会から来たのだろう。

「ん? 俺か? 俺はこのローチカの町出身さ」

「そうなんですか。それは羨ましい」

 セイは感心したように頷く。

 ローチカの町は、この国でも一、二を争うほど発展した町だ。ローチカに住んでいたということは、それだけでアイデンティティーになる。

「よし、そうだな。田舎者、明日暇か?」

 ダンが、何かを決めたように頷き、セイに明日の予定を尋ねてくる。

「ええ、まぁ、入学式までは町を見て回ろうとしか考えていなかったので、いくらでも予定は空きますよ」

 セイが入学式より五日も早くこの町に来たのは、この町に慣れるために、町を見て回ろうと考えていたからだ。それに何より都会の文明力を見てみたかった。

「それなら、丁度良い。俺がこの町を案内してやるよ」

「本当ですか? それは有難いです」

 自分で当てもなく見て回るより、出身者がいれば、見るべきものを見せてくれるだろう。それに、都会の遊びとかもわかるかもしれない。

「ああ、感謝しな。それに、この町じゃ田舎とは違うことが山ほどあるだろうから、わからないことがあったら教えてやるよ。これからの相棒だからな」

 よろしくなといった感じに、ダンが親指を立てる。

「相棒ですか?」

 しかし、セイは相棒という聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 確かにルームメイトなのだから、相棒と言わなくもないだろうが、少々、大げさだ。

「ん? なんだ知らないのか? ルームメイトってことは、同じクラスになって、二人で協力するような課題も出されるんだ。だから、ルームメイトとは仲良くしておいた方が良いって、教生も言って無かったか?」

 確かにダンの言った通りなら、正に相棒、パートナーだ。

 もしかしたら、言われていたのかもしれないが、セイは完全に聞き逃していたみたいだ。

「えっと、言われたような、言われなかったような」

「はは、どっちだよ。まぁ、結局、仲良くしておくのに損はないってことさ。部屋で。ギスギスしたいとも思わないしな」

 ダンは肩を竦めて言う。それについてはセイも同感だった。

「そうですね。では、改めてよろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」

 律儀に頭を下げるセイに、ダンは微笑んで頷く。

「それで、早速聞きたいのですが?」

 いざ、尋ねようとすると、自分の無知ぶりを披露するようで、少し恥ずかしい。

「ん? なんだ?」

「えっと、扉の横にある個室って何なんですか?」

 最初はトイレかとも思ったが、それらしき穴はない。小さな穴はあるのだが、小便はともかく、大便は無理だろう。

 それに各階には共有トイレが置いてある。部屋にトイレがあったら、共有トイレの意味が無くなる。

 セイが不思議そうに首を傾げていると、ダンは笑う。

「はは、やっぱり田舎者だな。あれは浴室さ。ホースがあるだろう、その根元のレバーを捻ると水が出るのさ」

「水が? 凄いですね」

 セイは驚きを声に出す。

今まで、ポンプ式の水汲み機を見たことはあるけれど、レバーを捻るだけで水が出るというのは見たことが無かった。

 後で、思う存分水を出してみようと、セイは心に決める。

「まぁ、そこまで詳しい構造は知らないが、大まかに言うと、屋上に貯水タンクがあって、レバーを開けると、水が流れ込む仕組みになっているらしい」

「へぇ~」

 ダンの博識ぶりに、セイは素直に感心する。

「ただ、注意しておくことは、一応、濾過されているとは言え、飲み水としてはお勧めできない。腹を壊すから気を付けな」

「ええ、わかりました」

 ダンはかなり物知りの部類だろう。

普通の人なら、機械などの技術は、使う方法さえわかれば良いと思うだろう。しかし、ダンは、大まかにとはいえ、仕組みまでを知っているのだ。

それは普通の人より知ろうとする考えが強いということで、つまり、色々と物を知っているということに他ならない。

この調子なら、明日のダンの案内が楽しみだと思う。

きっと、色々と知らないことを教えてくれるだろう。

 セイはそう思いながら、他に聞いておくことはないかと、部屋を見まわしていると、電話が目に入ってきた。

 電話は、入口のすぐ横の壁に取り付けられていた。

 使ってみたいという欲求に駆られ、誰に電話するかを考える。

そこで、イノの事を思い出す。

 しかし、電話するにも、何か、適当な用事はないものか?

 さすがに、用事もなしに電話することを、セイは躊躇ってしまう。

 考えると、すぐに思いついた。

「ねぇ、ダン。もう一人、明日の案内に誘っても良いですか?」

「あん? 別に構わないが、知り合いでもいるのか?」

 セイの質問にダンは不思議そうに首を傾げる。

単純に知り合いがいるのが不思議なのだ。ヨイツのような田舎から、二人も入学者を出すとは、ダンには思えないのだろう。

「ええ、ローチカの町に来る前に、汽車の中で知り合った友達です」

 セイの言葉にダンは納得する。遠くの町からこの町にやってくるには、汽車しかないのだ。

「そうか。まぁ、一人でも二人でも変わらないしな。構わないぞ」

「ありがとう、ダン」

 セイは素直に礼を述べ、早速、扉の横にある、電話のところに行く。

 電話は長方形の箱型で、上の方には部屋の番号を表わした数字の羅列のスイッチがあり、そして、下の方には直接送話用のマイクが付いている。横面にはコードが付いていて、コードの先に受話器がある。

 物珍しげに眺めながら、セイが受話器を取り、耳に当てる。

そして、マイクの横にあるスイッチを押すと、カチッという音と共に、電源が入った。

 セイにとって、それだけで嬉しい。

 イノの部屋のスイッチを押して、受話器を耳に当てながら少し待つと、受話器の中から、何かを回転させるかのような音が聞こえてくる。

 世に言う、呼び出し音なのだが、セイは良くわからず、首を傾げる。

 それでもしばらくすると、カチャッという、小気味いい音と共に、イノの戸惑ったような声が聞こえてくる。

『あっ、はい。い、イノと申します。どちらさまでしょうか』

 機械越しの性か、直接話した時と、声の感じが少し違う気がしたけれど、イノだと名乗っているのだから、イノだろう。

セイは断定し、送話機に話しかける。

「えっと、セイです。突然のお電話ですいません」

『ああ、セイさんですか。もう、誰かと思いましたよ。どうかしたんですか?』

 先程、戸惑っていたのを誤魔化すように、イノはセイを責めるような口調を使うが、本気で責めてはいないというのは、セイにもわかる。

「ルームメイトが、この町出身らしいんですよ。そして明日、案内してくれるという話なので、宜しければ、イノも一緒に行きませんか?」

『あっ、はい。喜んでご一緒します』

 イノは嬉しそうに即答する。

「何時くらいが良いですかね?」

『そうですね。朝は六時にご飯を食べて、その後神様への祈りや奉仕活動の時間もありますので、……十時くらいが丁度良いのですが、宜しいでしょうか?』

「う~ん。ちょっと待って下さい」

 セイは自分が決めるべきではないと判断して、ダンの方を見る。

「ダン。明日の朝十時くらいで良いですか?」

「ん? まぁ、そのくらいが妥当だろう。構わないぞ」

「わかりました」

 ダンの言葉に頷き、意識を電話の方に戻す。

「ルームメイトも大丈夫だということなので、明日の十時に玄関に集合ってことで良いですか?」

『ええ、大丈夫です。わかりました。ふふ、明日が楽しみです』

「そう言ってくれると何よりです。では、明日」

『ええ、また明日』

 イノの言葉を聞くと、セイは受話器を元の台に戻して、電話機の電源を切る。

「ふぅ~」

「はは、何疲れてるのさ」

 セイが疲れたようにため息を吐くものだから、ダンは苦笑する。

「緊張したんですよ。電話って初めてですから。それに、相手の顔が見れないと、相手がどう思っているのかわからないって言うのも疲れます。なんか、相手の機嫌を読み取る方法が声だけじゃないですか」

 セイは耳が疲れたと言わんばかりに、耳たぶを揉む。

「はは、深く考え過ぎだ。人と話す時なんて、そんな人の機嫌なんて考えないだろう?」

 ダンが呆れたように言うが、セイも呆れてしまう。

 セイは知っているのだ。

たった一つの失言で、人の関係なんていくらでも変わってしまうのだと。

だから、セイは考える。

今から話すことが、相手にとって不快ではないかと。

それをしないダンは、まだ純真な子供なんだとセイは思う。

しかし、それをセイはダンに言う気はない。それこそ、関係が悪化してしまうかもしれないし、それに、セイはその純真さは羨ましいとも思う。

そういう純真さを持っている者こそ、心からの友達を作りやすいというのも事実だからだ。

それでも、セイにはそういう純真な生き方はできないから、セイはダンの言葉に「そうかもね」と、曖昧に同意しておく。

「それよりセイ。夕飯はどうするつもりだ?」

「夕飯ですか?」

「そうだ」

「特に考えてはいませんが、学食に行こうかと思ってますよ。生徒には無料で振舞われるのでしょう? 自分で買っていては、食費も馬鹿になりませんからね」

 セイの生活費は教会から、勉学支援のために支給されたお金だ。一月ごとに、銀行に振り込まれるのだが、その支給額は、毎日三食食べるだけで精一杯のお金だ。無駄はできない。

「ああ、やっぱり勘違いしてんな。夕飯は、学食やっていないぞ」

「え?」

 セイは驚いて、教員室で渡された冊子を調べてみる。

 学食の利用法についての注意事項には、指定された時間までに席に着くことと、夕飯は出されないということが書かれていた。

「本当だ」

「だろ? 教会の教えだと、夜に働くことは、魔を呼び寄せるって言うからな。だから、学食は、夜はやらない」

「でも、夜働かないって言っても、町の食堂とかは普通にやってるんじゃないですか?」

 夜働かないと言っても限度がある。

 セイのいたような田舎なら通用するが、ここは都市だ。いや、大都市と言っても良い場所だ。そんな大都市ならば、普通の人が仕事帰りに、どっかに食べに行くということはあるはずだし、食堂経営者や酒場の人達だって、そういったお客さんが一番の儲けに繋がるはずだ。

それを教会の戒律だからという理由だけで、厳守させることは、いくら、宗教国家とはいえ、難しいはずだ。

「いや、まぁ、もちろん。町の食堂や酒場は営業しているさ。ただな。この学校は教会直属の学校だからさ、そういう戒律には厳しいんだ」

「なるほど」

 まぁ、納得せざるをえない。直属なら、そういった無理も通されるだろう。

「だから、これからの夕飯はどうするつもりだ? 一応、食堂で自炊もさせてくれるぞ」

 それを聞いて、セイは少しホッとする。

 毎日のようにどこかに食べに行くよりは、自分で作った方が、はるかに安上がりだ。

「そうですね。これからは自炊をします。でも、今日はさすがに疲れたので、どこかに食べに行きますよ」

 さすがに越してきたばかりだ。体も疲れていたし、何より、朝、汽車の中で軽く食べただけなので、お腹がペコペコだ。

 今から出かけて、材料を買い、そして作る。それだけの時間、我慢できる自信はセイにはない。

「それなら、近くで安くて美味くて、大盛りの店があるから案内するぜ」

「ぜひ、お願いします」

 セイはすぐに頭を下げた。


 朝、セイ達が食堂に行くと、五十人ぐらいの生徒が食堂にいた。

「結構、人が居ますね」

 セイが人の多さに少し驚き、声を出す。

「ふあぁ~。そうか? こんなの少ないだろう? 確か、この学校は生徒だけで三百人くらいだからな」

 ダンは眠そうに欠伸をしながら、セイの呟きに答える。

「三百人。凄いですね」

 セイのいたヨイツの人口は五百人ほどだ。そして年の近い人だけを言うのなら、三十人にも届かない。

 年の近い人達がこんなにも集まっていることがセイには珍しく、新鮮でもあった。

「全く、田舎者だな。別に凄くはないぞ。学校としては少ない方だぜ」

「そうなんですか?」

「ああ、俺がここに入学する前に通っていた学校は七百人以上通っていたぞ」

 セイは目を丸くする。自分の住んでいた村以上の子供達が、学校に通っているところなんてセイには想像できない。

「それに人の数は増え続けているって話だから、いつかは田舎でも、そのくらいの人数の通う学校ができるかもな。ふわぁ」

 欠伸交じりにダンが言う。

 セイはその状況を想像する。

 人が増えれば村も活気づき、この都会のようになるのかもしれない。それは良いことかもしれない。

「そうなってくれれば良いですね」

「あふっ、そうだな」

 ダンは欠伸をしながら適当に答える。

「なんか。眠そうですね。ダン」

 欠伸の多いダンに、やる気を殺がれたような気分になったセイは、恨めし気に見る。

「眠いに決まってんじゃないか。朝の六時前だぜ。早過ぎるっつの」

 朝食の時間は六時からなのだ。それまでに席に着いておかないと、朝食は抜きにされるのだと、寮のルール冊子には書かれていたのだ。

「そうですか? そんなに早く無いでしょう。私はいつも四時くらいに起きてましたよ」

 村で畑仕事をしていたのだ。日が出る前に、朝食や畑仕事の準備を済ませておくのが、セイには普通だった。

「マジかよ。これだから田舎者は。都会の人間は、夜寝るのも遅いし、朝起きるのも遅いんだよ」

 ダンは呆れたように言う。

「そうなんですか? でも夜なんて、面白いことなんてないでしょう? ……もしかして星ですか? 綺麗ですよね。星」

「見ねぇよ。ていうか、町の明かりで星なんて、ロクに見えやしないしな。見るには皆の寝静まる、深夜にでもならなきゃ無理だぜ」

「そうなんですか」

 セイは残念だと、肩を落とす。

「俺の目的はラジオだよ」

「ラジオってなんですか?」

「ん? 知らないのか? う~ん、それなら後で見せてやるよ」

 ダンは口で説明しようとしたが、実際に見せた方が早いだろうと判断した。

「それより、早く席に着こうぜ」

「あ、はい」

 セイはどこに座ろうかと、食堂を見渡す。

食堂の席は三百人が座れるようになっているので、今の生徒数ではほとんど座れると言っても良いだろうけれど、それでもセイは迷う。

食堂に座る五十人の中にも、法則のようなものができているのだ。

和気藹々と、十人ぐらいの集団になって、楽しそうに話している人達と、二人で話しているだけの人達と、一人でただ、黙ってじっとしている人達の、三つのグループが出来上がっているのだ。

セイとしてはもちろん、十人くらいの集団に入れて貰いたいが、なんだか、入り難い空気が出来上がっている。

ここはダンと一緒に食べるという自然な流れに任せようと思ったが、ふと、一人でじっとしている人達の中に、イノの姿を見つけ、あまりの物悲しさに声をかける。

「や、イノ。おはようございます」

「あっ、セイさん。おはようございます」

 イノは笑顔で、挨拶を返す。その顔がとても嬉しそうに見えてしまうのは、気のせいだろうか?

「おい、セイ。この美少女は誰だ?」

 ダンがそわそわした感じで尋ねてくる。

「この美少女は、昨日言った、汽車で知り合った友達ですよ。イノと言います」

「おお、そうか」

 ダンは目を輝かせたかと思ったら、視線をセイからイノへと戻す。

「はじめまして、イノさん。セイのルームメイトのダンです。町の案内も俺、じゃなくて、僕がやります」

 何故だか、ダンの口調が丁寧になったので、セイは不思議そうに首を傾げる。

「はじめまして、イノと申します。ダンさんがこの町の案内をしてくれるのですね。この町に来るのは初めてなので、知らないことばかりで不安だったんですよ。色々教えて下さいね」

 イノがダンに笑顔を向ける。それだけでダンの鼓動は早鐘のように脈打つ。

「ええ、もちろんですとも。イノさんのような美しい人とご一緒できるのですから、張りきらせて頂きます」

 言葉通り、ダンは張り切っているようだ。先程までの眠そうな態度はどこに行ったのやら。

「そんな美しいだなんて。そんなことはないですよ」

 イノはダンの褒め言葉に恥ずかしそうに俯く。

「いやいや、イノさんほど綺麗な人は見たことないですよ。なぁ、セイ?」

 ダンが、同意を求めるように、セイを見る。

「そうですね。私が今まで見た中では二番目に綺麗です。そして、ダンの口調は気持ち悪いです」

「何故二番」

 ダンが非難するように言う。というか、セイのダンに対する非難はスルーされたようだ。

「そんな。二番目なんて。褒めすぎですよ」

 イノには二番でも十分な褒め言葉だったらしく、恥ずかしそうにする。

「俺、じゃなくて、僕の中では、イノさんは一番ですよ」

「ありがとうございます」

 イノだって女性だ。容姿を褒められるのは恥ずかしいことではあったけれど、嬉しくないわけでもなかった。

「さて、美少女のイノ。同じ席で食べても良いですか?」

 セイが尋ねる。

「ええ、誰もいませんから大丈夫です」

「そうですか。では、同席させて貰いますよ。美少女のイノ」

 そう言ってセイがイノの前の椅子に座る。

セイが前に座るイノの顔を見ると、不機嫌だとでも言わんばかりに眉根を寄せていた。

「もう、セイさん。からかわないで下さい」

 さすがに美少女と言われ続けるのは嫌だったようだ。

「ごめんなさい」

 セイも悪ふざけが過ぎたと思って、素直に頭を下げて謝る。

 イノはそんなセイがおかしくて、つい微笑んでしまう。

「そういえば、イノさんはどこの出身なんですか?」

 ダンがイノに尋ねる。

「出身ですか?」

「ええ、セイはヨイツとか言う、田舎らしいんですけどね。どこだそこって、感じですよ」

 そう言ってダンは笑う。

「田舎者扱いして馬鹿にしてくるんですよ」

 セイが悲しそうに言う。別に心から非難しているわけでもない。ただ、わかりやす過ぎるイノへの好意に、セイはからかいの気持ちが出たのだ。

「駄目ですよ。ダンさん。人の良し悪しは、町の出身では決まりません」

「いやっ、……それは馬鹿に、……してたつもりはなかったんだけど、してたのかもしれないな」

 予期せぬイノの叱責に、ダンは一瞬狼狽するが、自分の非を認めてセイに謝る。

セイとしてはダンの慌てふためく姿を見ようと思っていただけなので、謝られたことで、自分の罪悪感を刺激される。

「いやいや、そんな気にしてるわけじゃないですから、大丈夫ですよ」

 意外に真面目な人なんだなと、セイはダンに対する印象を少し改める。

「それで、イノはどこの町から来たんですか?」

 気分を変えようと、セイがダンの言っていた質問を引き継ぐ。

「私はアーデルです」

「アーデルって言うと首都ですよね?」

 セイは驚きつつも、確認するようにもう一度尋ねた。

「ええ、そうです」

 イノはあっさりと頷く。

首都アーデル。

教王の住まいし、この国の首都。

セイは当初こそ驚きはしたものの、良く考えれば納得もする。

教会の権威が最も強い町だ。イノが普通の一般人より神への信仰心が強いのは、その町出身だからだろう。

「あっ、俺、行った事あるぞ。首都アーデル」

 丁寧に喋ることに飽きたのか、ダンの口調が砕けた者に変わる。

「どんなとこなんです?」

 行ったことのないセイが尋ねる。

「ちっちゃい頃に、両親に連れられて一度だけ行ったんだが、綺麗なとこだったぜ。真っ白な建物が、ズラッと整然と並んでいて、整備された道には、小川が通り、木々が柱のように並んでいて涼やかな印象を与えるんだ。正に聖地って感じだぜ」

「へぇ~。イノはそんな凄いところから来てたんですね」

 セイが感心して言うが、イノは微笑みながらも少し困った顔をする。

「確かに凄いところなんでしょうけれど、私はずっと教会の中で育ったので、町に出たことも数回しかなくて」

「そうなんだ」

「ええ、だから、あまりどういった町なのか、私自身わからなくて」

 アーデルの事を聞けると期待したダンは、がっかりする。

それをイノは恥ずかしそうに俯く。

自らの住んでいた町のことを何一つ説明できない自分を恥じているのだろう。

「それなら、今度アーデルに戻った時にでも、自分の町の事を調べて、私達に教えて下さい」

 セイはイノの気持ちを汲んでそう言った。

 知らないのなら知らないで仕方ないことだ。それを恥じるのなら、今からでも知ろうとすれば良い。だから、知らないことを恥じるイノに、学んでから教えるようにセイは言う。

 そうすれば、学ぼうという意思が確固たるものになるだろうから。

「はいっ、必ず教えます」

 イノは勢いよく答える。それだけやる気が出ているのだろう。

「ええ、約束ですよ」

 セイはそんな姿を微笑ましく思う。


 食事の時間になると、朝食の膳が、各自に配られる。

 しかし、誰も手を付けようとはしない。全員に配られるのを皆待っているのだ。

朝食の膳が全員に行き渡ったのを確認して、教生が、皆の前に出る。

「今日この時、飢えることなく食事を得られることに、神々に感謝しましょう」

 教生の言葉と共に、食堂にいる全ての生徒が、胸に手を当て、祈りを捧げる。それは、教会の信者なら、良くやることだった。

セイのいた、ヨイツの孤児院でもやっていたことだ。

しかし、セイは祈りの格好をしながらも、神のことなど考えてはいない。

セイは神々に感謝することなどないと考えている。

日々の食事は、農家の人達が、毎日、汗水垂らして働いてくれているからだ。だから、神々に感謝するより、農家の人に感謝するべきだ。

セイはそう思う。

だけど、それを口に出しては言えない。

そんなことを言えばたちまち、異端者扱いされるだろう。そんなことになれば、最悪、国から追い出される。

セイは神々は嫌いだけれど、教会やこの国が嫌いなわけではない。

教会の神父様には色々とお世話になってきた身だ。嫌いになるわけがない。

セイはこの国から出ようとは考えたことはない。

この国が好きだから。

 少したって、教生が祈りをやめ、食事をするように促して、やっと食事の時間が始まる。

三人も食事を取り始め、粗方食べ終わったところで、セイは口を開く。

「そういえば、イノは奉仕活動をするって言っていましたけれど、具体的にこの後、何をするんですか?」

「そうですね。とりあえず、校舎横の教会の神父様に会って、何かお手伝いをするつもりです。教会のお掃除とか」

「なるほど。教会の神父って言うと、昨日の男の人でしょうか?」

 セイは、昨日、教会で会った男の人を思い出す。

 神父にしては、少しばかり、険呑な雰囲気を持ち過ぎているような気がする。

「ええ、おそらくそうだと思います」

「ん? なんだ? アクシン神父に会ったのか?」

「アクシン?」

ダンの言葉に、セイとイノは首を傾げる。聞いたことのない名前だ。

「ああ、三十半ばの、男の神父様だよ。なんでも噂じゃ、聖人らしい」

「へぇ~、だからですか」

 セイは納得した気分になる。

 教会では、聖人は悪魔を倒すために、神々から力を貰ったとされる、特殊な人間だ。

おそらくアクシンと呼ばれる神父も、悪魔と何度か戦わされたこともあるだろう。

 だったら、教会で会ったあの男の人の険呑な雰囲気も理解はできる。

 命を賭けた戦いを、経験しているような人なんだろう。

「セイは聖人を知っているのか?」

 ダンが意外だというように尋ねてくる。それに対して、セイは心外だと言わんばかりに眉を寄せる。

「それは知ってますよ。悪魔を倒す正義の味方ですよね? おとぎ話に良く出てくるじゃないですか」

「まぁ、そうか」

 ダンは納得して頷く。

 聖人の存在は、英雄譚やおとぎ話としてしばしば語られる。

親が子供を寝かしつける時話す寝物語なんかでも、聖人が良く現れるくらいだ。知らない人の方が少ないだろう。

「でも、何で聖人がこんな学校にいるんだろうな?」

 ダンは疑問を口にする。

聖人は先程挙げたように英雄になるような存在だ。

聖人は普通の人より身体能力は高い。少しぐらい年を取っていたって、十分現役として通用するのだ。二十年前に、知の罪悪と呼ばれた悪魔による事件があったのだが、それで活躍した聖人は五十歳くらいだったという。

他にも、高齢で活躍した聖人は数多くいる。

アクシン神父は十分現役で通用する年なのだ。こんなところで燻らせず、悪魔退治のような色々な仕事を、教会が割り当てるのが普通だろう。

だから、ダンとしては不思議でならないのだろう。

学校の神父の仕事を悪いとは言わないが、確かに、普通は聖人のやるような仕事ではないだろう。

「それは神迎えの儀式をやるような学校ですから、神父様は聖人のような徳の高い人が求められるんじゃないですか?」

「えっ?」

「神迎え?」

 セイの言葉にイノは驚き、ダンは不思議そうに首を傾げる反応をそれぞれする。

「神迎えってなんだ?」

 ダンは改めて尋ねる。

「何って、神様を教会に呼ぶ儀式ですよ。この学校では三年に一回、その儀式を行っているそうですよ。だから、入学式も三年に一回名っですよ」

「へぇ~、そんなのをやっているんだ。地元なのに知らなかったな」

「そうなんですか?」

「ああ。普通ならそういったのは知れ渡ると思うんだがな」

 神を迎える。

 教会にとって、それはとても名誉なことだ。

 だからこそ、教会からすれば隠すどころか、むしろ、喧伝するようなことのはずだ。

 セイも不思議そうに首を傾げる。

「なぁ、それ、違う学校なんじゃないのか?」

「そうですね。そうかもしれません」

セイはダンの言葉に考える仕草をしたが、あまり執着していないのか、あっさりと頷いた。

その中、イノだけは考え込んでいた。

 

 イノは朝食を済ませた後、教会へやってきていた。

 奉仕活動をしようと教会までやってきていたのだが、イノはほとんど上の空だった。

朝食の時にセイの言った神迎えという言葉が気になって仕方ない。

この学校で行っている神迎えの儀式。

それは、神が人間の中から自らの従者、天使を選ぶ儀式。そして、選ばれた者は天使となり、神の下で永遠の幸せを手に入れる。

しかし、それは世間にはあまり知らされていない。

神が決まった場所にやってくる。

それが万が一悪魔達に知られると、神を襲いにやってくるからだ。

だから、神迎えの儀式は隠される。知っているのは教会の権力者と当事者とその関係者だけだろう。

なら、何故セイは知っているのだろうか?

当事者ということはまずない。当事者はイノ自身だからだ。

イノは天使の候補としてやってきているのだ。

次に、セイが教会の権力者と繋がりがある可能性を考えてみるが、セイはヨイツの人間だという話だ。

イノは地図上ではその村の場所を知っている。本当にこの国の僻地と言って良いような場所だ。そんな村の人間に、教会の権力者との繋がりがあるのだろうか?

どこからか情報が漏れているのかもしれない。

「何をしている?」

 教会の前で考え込んでいるイノを、不審に思ったのか昨日の会った男が話しかけて来た。

「あっ、いえ、考え事をしていただけです」

「……そうか」

「あの、あなたはこの教会の神父様ですか?」

「ああ、この教会の神父、アクシンだ」

「私はイノと申します」

「ふむ、お前が今回の候補か」

 予め伝えられていたのだろう。納得するように頷く。

「ええ、そうです。これからお世話になります。後、今日は神様への奉仕活動をしようと思って来たのですが、何かお仕事はありませんか?」

「ふむ、そうだな。……付いて来い」

 アクシンは少し考え、イノを促すように教会の中に入っていくので、イノはアクシンの後に続く。


「お待たせしました」

 セイとダンが、玄関で待っていると遅れたイノが駆けながらやってくる。

「いや、そんなに待ってないさ」

「そうそう、一時間ぐらいですよ」

 ダンが否定をし、セイが茶化して言う。

「うぐ、本当にすいません」

 真に受けたイノは本気で申し訳ないと思い頭を下げる。

「いやいや、そんな待ってないから、遅れたの十分くらいでしょ」

 ダンの言葉にイノは顔を上げ、セイを睨む。

「セイさん。嘘を吐いたんですか? 嘘は駄目だって言ったじゃないですか」

 しかし、セイはどこ吹く風といった感じで微笑む。

「嘘じゃないですよ。今のは冗談です」

「冗談だって、嘘を付いていることには変わりありません」

「違いますよ。嘘とは騙すことです。そして、私はからっただけです。それに待っていたのは事実ですよ。町を見て回ることを心待ちにしていましたから。少なくとも、一時間以上は」

「うぅ、屁理屈です」

 言い返す言葉が思い浮かばないイノは頭を抱える。

「はは、さぁ、行きましょう」

 セイは笑い、二人を急かすように先に玄関を出る。


「さて、昼飯には早いし、どこか行きたい場所とかあるか?」

 学校の敷地から出ると、ダンが二人に尋ねる。

「何があるのかわからないので、答えようがないのですが」

 セイが首を傾げながら返す。

「別に具体的な場所を言えとは言わないさ。どんな場所に行きたいかを聞いてるんだ。例えば、これからこの町で暮らしていくんだから、雑貨を売っているとこはどこにあるか、とかあんだろ」

「では、それは、どこですか?」

「うわっ、むかつく」

 折角、案内してあげようとしているのに、何も考えていないようなセイの態度に、ダンはイラッとする。

「あはは、ごめんなさい。ちょっと、都会に来たことに浮かれてて、そういった生活関係も必要だってことを、失念してましたよ」

 セイは笑って誤魔化そうとする。

「全く、田舎者が。これから先が思い遣られるぜ」

 ダンは精神的な疲れを感じ、眉間を揉みほぐす。

「ダンさん。私は図書館を見てみたいです。この町は交易の盛んな町だから色々な国の本が置いてあると聞いたのですが」

 イノが意見を言う。

「図書館か」

 ダンは町の地理を思い浮かべる。

ダンは行き先を聞きはしたものの、それなりに計画を立ててもいた。

ダンとしても、紹介したいお薦めの場所はいくらでもあるのだ。だからお昼までに、先程挙げた雑貨屋のような、各自が必要だと思う、近場のお店を紹介しようと思っていたのだが、図書館となると、話しが変わってくる。

この町にある図書館は大きく、その中を詳しく案内しようとしたら、それだけで一日が終わってしまうだろう。

「まぁ、案内するのは構わないけれど、今日は場所まででいいかな? 他にも回りたいところがあるから」

「わかりました」

 イノは頷く。

 

 セイ達は最初、ダンの案内で色々なお店の並ぶ商店街に行く。

 商店街には、今までセイの見たこと無いような物が、所狭しと並んでいる。

 はしゃいだセイは、色々な店に入っていき、ダンに迷惑をかける。

「ダン。商品は目で見て振れてこそ真価がわかると思いませんか?」

 セイはお店の機械を触らせて貰えなかったことに不満に思い、ダンに同意を求めて問いかける。

「確かにな。でも、高価な商品は人を選ぶものさ」

 案に、お前じゃ買えないだろうと、ダンは返す。

「うぅ~。貧乏人には機械を見ることはできないって言うんですか? この、差別主義者め」

 セイは悔しそうに俯く。

そんなセイの子供のような姿が、イノはおかしくて仕方なかった。


次に行った図書館は、博物館も兼ねている性か、大きいと思っていた学校の校舎の倍近くもある。

「むう、博物館ですか」

イノだけでなく、セイも入りたがった。

博物館には機械の展示がされているのだ。機械好きのセイとしては是非見てみたかったし、本だって普通に読むのだ。セイにとっても図書館はとても興味深かい。

「次、行くぞ」

 しかし、ダンは無情に告げる。

「えぇ~、行きましょうよ、図書館に。なんて言っても、博物館ですよ。機械ですよ。おまけに本まであるんです」

「いえ、本がメインですから」

 イノが軽く突っ込む。

「全く。今度連れてきてやるから、今日は我慢しろ」

「ぶ~ぶ~」

 ダンはセイのブーイングを無視して、先を歩き出す。

「ふふっ、なんだか、ダンさんが、セイさんのお父さんみたいですね」

 二人のやり取りにイノは微笑む。

「こんなのが自分の子供だったら、殴ってるよ」

「お父さん。暴力はいけません」

 セイは顔の前にバッテンを作る。

「誰がお父さんだよ」

 ダンは疲れたように息を吐く。


 お昼になり、ダンはランチを取ろうと、一つのお店に入る。

 料理のメニューから、どんな食べ物か想像できないセイは、ダンに尋ねながら、注文を決める。

「知らない料理ばかりですね」

 メニュー表を見ながら、セイはしみじみと言う。

 自分の田舎者具合を、まざまざと見せつけられた気分だ。

「そうですね。外国の料理ばかりのようです。私も、聞いたことはあるけれど、食べたことのないものばかりです」

 イノが落ち込むセイをフォローする。

「へぇ~。外国の食べ物なんですか」

 セイは珍しそうに、もう一度メニューを見る。

「ああ、しかもこの店のは、ちゃんと美味い。他の店だと、外見ばかり似せようとして、不味かったりするんだ」

 その後、運ばれてきた料理は、ダンの言う通り、美味しいものだった。

「昨日も思ったんですけれど、この町の料理って、味が濃いですね」

 セイは昨日の連れて行かれた屋台を思い出して言う。

「そうか?」

 毎日食べているダンにはわからず、首を傾げる。

「おそらく、この町が交易の盛んな町だからですよ」

 イノが物知り顔で言ってくる。

「どういうこと?」

「つまりですね。この町には多くの香辛料が出回っているんです。だから、香辛料の少なかったセイさんの村よりも、贅沢に使われているんでしょう」

「なるほど」

 二人は感心する。


 昼食も終わって、三人はまったりとしながら、ダンの案内で、競技場に連れて来られた。

「ここは、町で一番の大きな運動場なんだ。そして、運動場の隣は、この町で最も大きい公園になっている。公園の方には色々なアスレチックやランニングコースにもなっている散歩道があるんだ。それに、よく広場では大道芸人達が色んな芸をしていて、結構面白いぞ。とはいえ、今日は運動場にしよう。色々な道具も貸し出してくれるんだ。少し汗を掻いていかないか?」

 セイはすぐに頷いた。汽車による長旅で、ここのところ、体を動かすことが無かったのだ。だから、ダンの提案は嬉しいものだった。

「イノは大丈夫ですか?」

 セイは心配気にイノを見る。ちょっとした遊びをしようとしても、イノは女の子なのだ。男みたいに走り回るのに抵抗があるかもしれない。

「大丈夫ですよ。私、こう見えても、運動神経良いですから」

 イノは心配ないと微笑むが、男二人は手加減しようと決めた。

「とりあえず、バスケでもするか」

「何ですか? バスケって?」

 ダンの言葉に、セイは尋ねる。

 イノも同じ様に不思議そうな顔をしている。二人とも知らないようだ。

「知らないのかよ。まぁ、いいや。教えながらやろう」

 ダンはボールを借りて来て、バスケのルールを教えてくれる。

 最初は戸惑っていたセイとイノだったが、ルールを把握していくと、二人の飲み込みは早かった。

 当初はイノの運動能力を心配していた二人だが、それは完全な杞憂だった。

 イノの運動能力は高く、二人が本気を出しても、イノは余裕で付いてくる。それどころか、二人がクタクタになってへたり込んでも、イノだけは疲れた様子もなく、元気なままだった。

「はぁ、凄過ぎだよ、イノさん。男として自信が無くなってくる」

「全くです」

 ダンがぼやき、セイも同意する。

「ふふ、大きな教会の掃除や子供達の世話とか、色々な仕事をしていたので、体動かすのは得意なんです」

 イノは微笑むが、イノの身体能力は、そんな雑務なんかで身に付くものだとは、二人には到底思えなかった。


 夕時になると、三人は運動場での遊びを切り上げて、ダンのお薦めの場所へと連れて来られた。

「劇場?」

 大きな建物の看板を見て、セイは首を傾げる。こういった場所は初めてなのだ。

「ああ、演劇が行われているんだ。人が物語の登場人物を演じているのを見るだけなんだが、俺は好きでな。何度も足を運んでいる」

「ふ~ん。偶に村に来る、人形劇みたいなものなんですか?」

 セイは村にやって来る、興行の人達が見せてくれた人形劇を思い浮かべる。

見たことも聞いたこともない話を、人形を使ってわかり易く見せてくれた。それはセイの中で、楽しいものとして、記憶に残っている。

しかし、そんなものを、こんな大きな劇場でやる必要性を感じない。

「まぁ、似たようなものだけど、スケールが全然違うな。もっと、壮大で、わくわくするものだ」

「むぅ、人形劇でも、結構わくわくしていたんですけど」

 自分の楽しんでいるものが、小さいと言われたようで、少し憮然とする。

「ふふ、でも、それなら、十分楽しめると思いますよ」

 子供っぽく拗ねるセイに、イノは微笑んで、話しかける。

「イノも見たことあるんですか?」

「ええ、劇場はアーデルにもありましたので、何度か連れて行ってもらいました」

「そうですか。私だけですか」

 なんだかセイは悔しいような、寂しい気持ちになる。

 とりあえず自分も見てみようと、劇場のもう一度看板を見ると、セイの動きが止まる。

そこには、セイの半月分以上の生活費が、飛びそうな値段が書かれていた。

「いやいや、ダン。こんなの高過ぎて入れないですよ」

 ダンはセイの言葉に、同じ様に看板を覗きこみ、納得する。

「こんなの一番良い席だからだよ。立ち見なら、もっと安い」

「そうなんですか」

 とりあえず、自分は無知だと悟り、セイは、ダンに言われるままに付いて行き、立ち見席で、演劇を見る。

セイの感覚では立ち見でも高いとは思ったけれど、少し無理をすれば、払える額だった。

 立ち見席は舞台から遠かったが、セイはそれでも十分に楽しめた。

 遠くとも、大振りなのにどうしてか自然に見える演技は、しっかりと見てとれたし、台詞も、怒鳴っているわけでもないのに、はっきりと聞こえてくる。

 この演技者は素晴らしい演技力を持っているのだと、素人のセイから見ても、明らかだった。

 そして、劇の内容も良かった。

内容は教会で良く語られる、ある聖人の英雄譚なのだが、教会で語られるような堅苦しいものではなかった。

巧みなアレンジがされていて、笑いがあったり泣かせたりと、聖人は何も特別な存在ではなく、自分たちと同じ人間なのだと、そう思わせてくれるような作りをしている。

「よく、教会が許可しましたね。聖人が、庶民的だなんて教会の考えと違うでしょ」

教会としては、聖人を神々の威光の象徴として、特別な存在にしておきたいだろう。

この劇は良くできているが、それだけに、教会の考えから逸脱している。

そんな劇をこんな町中で行うことができることに、セイは不思議に思う。

「そうでもないですよ。最近、教会の中でも、聖人の考え方を変えようとしていますから」

「そうなんですか?」

 セイは興味深く思う。

「ええ、当初教会は、聖人は神様に選ばれた特別な存在で、人間とは違うという考え方を深めました。しかし、人々は、教会の思惑以上に、聖人を特別視して、恐れるようになってしまったのです。それはまるで、化け物のように聖人を恐れる人まで現れたのです」

「化け物ですか」

 セイは考える。聖人は、人をはるかに超えた存在。そして、聖人は教会による裁きを担当することが多い。それは、教会の恐怖の象徴のようにも取れる。

 教会に不評を買ったら、自分達が裁かれることになるのだから。

「異端者扱いされてしまいますから、表立っては、聖人を怖がったりする人はいませんでした。けれど、それは偽りです。聖人の周りの雰囲気は、偽りの感情が覆い尽くし、穢れて行きます。その結果、聖人の中に悪魔に変貌してしまった者も現れてしまったそうです」

 セイは偽りが災いを呼ぶなんて信じない。

 確かに嘘は人との間にトラブルを招くことがよくあるだろう。しかし、世の中には、偽りの言葉に救われている人間もいるし、偽りによって、無駄なトラブルを避ける人間もいる。

 だから、聖人が悪魔になったのは嘘ではないだろうと、セイは思う。

 人々は聖人を恐れた。

 少しでも粗相をすれば、天罰が落ちるのだと言われたのかもしれないし、もし、気軽に喋ったりしたら、尊い聖人様を汚していると、教会から罰を受けさせられたのかもしれない。

 それほど昔の教会の聖人の特別視は凄かった。

 だから、義務的な行動でしか、人は聖人に触れようとはしなかったのだろう。

 普通の人間とたいして変わらない聖人の心は、そんな連中の中で安定するわけも無かっただろう。気軽に話せる奴も、心を許せる奴も、愛しい人も周りにはいないのだ。

そんなところでは誰だって、孤独に心は荒れ、悪へと堕ちて魔となってしまう。

「では、今は違うんですか?」

「ええ、人との交流をさせることにしたんです。そうすれば、聖人は恐怖の存在ではなく、素晴らしい人なのだとわかると思ったのでしょう」

「なるほど」

 セイは納得する。

 人が聖人を恐れた最大の理由は、よくわからないからだろう。

神によって特別な力を与えられた、教会の敵を裁く者。

教会はそれしか教えていなかったのだ。誰だって、どう接して良いかわからない。ただ、わかっているのは、自分を裁ける力を持っていると言うことだけなのだから。

だから、人と接することで、人々は聖人を理解することに繋がるし、聖人にとっても、人との交流は心の安定に繋がりもするだろう。

「おそらく、アクシンさんが、神父様をやっているのは、その一環でもあるのでしょう」

「そして、この劇も、聖人への、恐怖の緩和としては、素晴らしいものなんでしょうね」

 セイはそう言いながら、劇が終わって観客に向かって挨拶をする出演陣に、夢中で歓声を送るダンを見て苦笑する。


 夕食は劇場の近くで済ませる。

 夕食の間中、ダンが演劇の素晴らしさを語っていたので、二人は笑顔で相槌を打ちながら、聞いておく。ダンとしても、喋りたいだけだったのだろう。ずっと、上機嫌で語り続けていた。

 さすがに寮の部屋に戻っても話し続けるダンに、セイは辟易しながらも、今日は楽しい日だったと、セイは心から思う。


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