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「……うむ! 汝は剣の道を生きる……そういうことなのだな?」
「もちろん、そのつもりでございます!」
「殊勝な心掛けだ。その道を阻むつもりは無い。ただ、汝と共にありたいだけだ」
おぉ、なかなか粘るじゃないか。がんばれ王子。
「そうではないのです、殿下。私には、心に誓った者がいるのです」
玉砕だ。もしかしたら、招待された中にいるかもしれない。
少しドキドキしてきた。お、斜め右の席に好青年発見。それとも通路を挟んだ席に座っている紳士か?
そんな風に考えていると、踵を軸にしてロウラが勢いよく振り返った。
来るか? 来るのか……?
「アラタ! 私はあなたを愛しています! 共に、同じ道を歩みたい!」
そうだった。ロウラは馬鹿だった。合算しても30分も過ごしていない。そんな相手を愛する奴があるか。
それに目を瞑ったとしても、普通は王子の告白を断った直後に高らかに宣言したりしない。
『あちゃー。この子も勢いで告白しちゃうタイプだ』
イグルは黙っててくれ。
「ふっ……そうか。愛する者がいるのなら仕方ない」
王子はキザったらしく、額に指を添えて笑った。
しかしその眼光は鋭く、俺の背筋を凍らせた。絶対に諦めてないし、絶対に敵視されている。
幸いなのは、王子の背後で微笑み合う王と王妃の存在だ。
この状況を些細なドタバタ劇程度に受け止めてくれているようだ。
少なくとも、ロウラや俺が罪に問われることはないだろう。
ロウラが命を懸けて魔王に立ち向かった理由が、分かった気がした。
「あんたがアラタか!? おめでとう!」
「あいつのこと、幸せにしなかったら承知しねぇからな!」
「不思議な顔立ちだね。どこの国の人?」
ひっきりなしに声を掛けられる。
招待されたのは、俺以外ロウラの知り合いだ。誰が"アラタ"なのかは一目瞭然。
「か、勘弁してくれ……」
俺の苦労も露知らず、目が合ったロウラはニッと笑った。
それが合図となったのか、とりあえず祝っとけの精神で演奏者たちが音楽を奏でた。
***
夕日に照らされながら、俺は王城のテラスで溜息をついた。
さっさとここから逃げ出したいが、どうやら今夜パーティーが催されるらしい。
国を代表する者たちが集まる場……ロウラの家族すら参加しない。
なのに、特別に俺も参加させられることになった。
「アラタ、元気を出してください。殿下主賓の立食パーティーです。とんでもない御馳走が食べられますよ」
「食欲が逞しいな……」
ロウラは食べて元気になるタイプだな。そういえば、魔王と戦った時も「ステーキが食べたい」って言ってたな。
あれ、誤訳じゃなかったのか。
「突然あのようなことを……困らせてしまって、ごめんなさい」
「ま、過ぎたことはいいさ」
「っ! では、私の伴侶に!?」
「なるわけないだろ。俺は35だぞ。出会ったばかりの17歳と結婚なんてほとんど犯罪みたいなもんだろ」
「犯罪? 何を言うのですか。お互いに丁度良い頃合いではないですか」
無垢な瞳が俺を見つめる。
この世界、あるいはこの国では問題にならないらしい。
「なんで俺なんかを……」
「世界を救ったのは私ではない。アラタです。騎士として、英雄と番いたいと思うのは至極自然です」
「番うとか言うな。本能で生き過ぎだろ」
ロウラはピタリと肩を付けて、離れようとしない。
困った。実に困った。早く目的を果たして日本に帰ろう。
「あー、そうだった。犯人を見つけるんだった」
「むむ、それは一体?」
俺は自身の素性を隠したうえで、魔王に与する人間が王国内に存在する旨を話した。
「その不届き者が私の命を狙っている、と。結構ではないですか。望むところです!」
「色々と受け入れるのが早いな……。何で俺がそんなこと知ってるのか気にならないのか?」
「知る必要があるのですか?」
そう言って、ロウラは目を細め、口角を上げてから俺の顔を覗き込んだ。
恋は盲目、と言えばいいのだろうか。それとも純粋な信頼なのか。
「しかしそうなると、私が殿下のご厚意を無下にした所為で、城内を洗う機会を失ってしまったということに……」
「気にするな。他に方法を考えよう。それに、城の中に犯人がいるとは限らない。どっかの貴族とか、商人とかが犯人かも」
「いずれにせよ、可能性を潰していく必要がありますね」
なかなかに真剣な面持ちだ。
ロウラのことだから「片っ端から聞いて回りましょう!」なんて言うかと思ったが、大丈夫そうだ。
「城の人間を疑うのなら、機会は今夜しかありません」
「でも限られた時間で犯人を特定して証拠を得られるかどうか……」
「えぇ。しかし犯人の狙いが私ならば、敢えて好機を与えてやりましょう」
「囮になるつもりか?」
「ふふ、任せてください!」
問題点は、万が一にでもロウラが殺されたら、世界が崩壊してしまうということ。
ハイリスク、ローリターンといったところか。
『アラタさん、言っときますけど時間はあんまりないですからね』
イグルが割り込む。
分かってる。行動あるのみって言いたいんだろ?
「言っとくが、俺は遠距離攻撃しか防げないからな」
「近接戦は私が」
忠告のつもりだったのに、まるで互いに背中を預け合うことの決意表明みたいになってしまった。
「ロウラ様、アラタ様。準備が整いましたので、会場までご案内いたします」
時間だ。俺たちはメイドに連れられて、大広間の扉をくぐる。
会場は、目が痛くなるほどの原色で溢れていた。
孔雀の羽をあしらった扇子に、歩くたびにジャラジャラと鳴る宝石類。
俺の安っぽい量産スーツとは、布の面積あたりの単価が桁違いだ。
「で、作戦はどうする?」
「はい、既に決めています」
ロウラは一歩進んで、給仕のトレイからワインを掴み取り、遠心力のままにスカートを広げて振り返る。
「泥酔です! 飲み明かしましょう!」
その不躾な声が、高貴な者たちの視線を奪った。




