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「引け、ロウラ! 兵はほぼ全滅……もはや勝機は万に一つもない!」
「万に一つも勝機があるのですね? ならば勝ったも同然!」
「計算もできんのかこの馬鹿ぁ!」
恩師の絶叫を背に、私は焦土を蹴った。
三千の精鋭は、すでに物言わぬ炭と化した。僅かに生き残った者たちも、心を折られている。
恐怖で剣を投げ捨てなかったのは私だけ。ならば、私が進むしかないではないか。
彼方に据わる魔王の猛攻は、何物をも寄せ付けない。
絶え間なく放たれ続けるのは、触れるだけで命を削り取る魔弾。
――避けられない。
本能が死を告げる。だが、足は止めない。
騎士道とは、死地においてこそ輝くもの。
肉体が滅びようとも、その喉元に牙が届けば私の勝ちだ。
「おおおおおおッ!」
私は迫りくる滅びの光へ、真正面から飛び込んだ。
熱波が肌を焼く。視界が白に染まる。
ここまでか――。
「……ん?」
衝撃が来ない。痛みもない。
恐る恐る目を開けると、そこには――場違いなほど退屈そうな顔をした男が立っていた。
甲冑も着けず、奇妙な仕立ての黒い服。
戦場には似つかわしくない、泥一つついていない革靴。
男はあろうことか、魔王の攻撃を背にして、私を見下ろしている。
「き、貴様何者だ! ここは危険――」
警告は、轟音にかき消された。
太陽の如し火球が天を赤く染め、破裂する。鉄すら瞬時に溶解させる熱の雨が降り注いだ。
直後、男は人差し指を自身の口元に当てて呟いた。
「【主人公には、決して弾は当たらない】」
終わりのない花火が男の背後で輝き続ける。それは幼い頃に見上げた流れ星と同じ光を瞳に描いた。
まるで世界が初めからそうであったかの様に、魔弾は私たちの周りを素通りしていく。
私はまだ生きている。そして男も、一度の被弾も無く地に足を付けている。
「あーあー、伝わってるかな?」
男は喉を揉みながら言った。
人種は分からない。でも、この国の言葉を話している。
「君を助けに来た。俺を盾にしてさっさと逃げるぞ」
「な、何故私などを……」
たった一人の消えゆく灯。死地に踏み入れてまで救助する利点はない。
「それは――君がこの世界の主人公だから」




