水害被害と対策
辺境伯 ウルズ・ヘッケラ
そこそこ偉い人だろうに気さくな感じの紳士。
そして 夫人のローズ。
おっとりした雰囲気だが、メイリーそっくりだ。
それもそのはず、メイリーの姉らしい。
「メイちゃん。会えて嬉しいけど、英雄候補なんてどうして」
「姉上、メイリーとお呼びください」
困ってるな。まぁ可愛いしいいんじゃないかメイちゃん。
一通り家族の再会があったらしいが、俺はケージで丸くなっていた。
誰かに抱えられた気配だけ覚えている。
次に気づいた時、急に寒くなった。
広大な土地が水と折れた木の枝、いや木ごと埋まってるな。
どうやら水害を受けた農地ということだ。
水害被害。それは土石流とそれに乗ってやってきたスライムだ。
「討伐依頼は出した」
「だが、小型で分散している。数も読めん」
「冒険者が嫌がる案件ですね」
「効率が悪すぎる」
その言葉に、皆が黙る。
……なるほど。水害そのものより、厄介なのはこっちか。
「スライム程度で、ここまで?」
「程度なら良かったんだがな」
ウルズが苦笑した。
「水害で、家畜の死体を食って育った」
ローズが、静かに言い切る。
「放置すれば、繁殖しますわ。次は沼になります」
それを聞いて、全員の顔が引き締まった。
落ち込む辺境伯をよそに俺はケージから出る。
試しにファイアーボールで焼いてみる。
スライムを倒した。経験値はこの世界にはないようだ。
始末はできるが、数がとんでもない。
「畑のスライムは……私がやります」
そう言ったのは、セリナだった。
「できるのか?」
ウルズ辺境伯が眉を上げる。
「住民の方と協力すれば、危険な作業は、私が引き受けます」
「農具で?」
「ええ。鍬で十分です」
ざわ、と周囲が騒めく。
「魔法は、火だけじゃありません」
ちょこちょこスライムを燃やしてた俺を見る。
「スライム相手なら、凍結などで動けなくするのが有効です」
ローズが、満足そうに頷いた。
「集めたら一気に焼きます。集めるのに人手が必要です」
「時間はかかるが……」
ウルズが腕を組む。
「畑は、戻ります」
セリナははっきりと言い切った。
「手伝いはしますが、戻すのは皆さんです」
……なるほど。派手じゃないが、確実だ。
◆◆◆
スライム退治の話をしてもバルガスは非協力的だった。
「駆け出し冒険者の仕事だ」
割に合わん、と顔に書いてある。
僧侶は、黙々と凍ったスライムを集めている。
メイリーはスライムを凍らせている。
どうやらメイリーは氷魔法が使えるらしい。魔法剣士だったのか。
「効力が薄くなったら、魔法をかけなおします。」
セリナは、農民の道具に魔法をかけて回っている。
魔法をかけられた鍬で掘ると、スライムが凍る。
単純だ。そして、果てしない。
気が遠くなる作業だが、農民たちは手を止めない。
畑が戻ると分かっているからだ。
スライム発生の大元はすぐに見つかった。
最近できた横穴が、ふたつ。
原因はまだ分からないが、
この穴からスライムが湧き続ける限り、
いくら畑を救っても、同じことの繰り返しだ。
「野良仕事は終わったかよ」
悠々と、バルガスがやって来た。
そして、ご苦労と言わんばかりに
返事も待たずに横穴へ入っていった。
仕事をする気になったのはいいが、単独行動が目立つ。
メイリーは何かを言いかけたが、それをやめた。
セリナは意に介していない。
意外と肝が太いのだよな。
「……いっそ、別れて行動しますか」
そう言ったのは僧侶だ。
ジョー・モーリヤ。
酒臭い息を吐きながら、珍しく正気の目をしている。
ずっと酔っ払っているせいで、
まともに会話に参加しているところを、
これまで一度も見たことがなかった。
「では二手に分かれるとして
お嬢さん方は、バルガスさんを苦手としているようですし。
僕が、バルガスさんの補佐に回りますよ。男女でちょうどいいですし」
その後、ジョーは俺をみる。
【いや、俺はそっちはいかんぞ】
「ですよね」
納得したように笑って、
ジョーは横穴へ消えていった。
察しがいいのは助かる。
てか、あいつメイスじゃなく酒瓶持ってたな。
セリナは身軽になるためにケージを置いていくらしい。
俺は颯爽とセリナのフードに入りこむ。
歩けって?やだよ寒いし。
その様子をメイリーが羨ましそうに見ている。
甲冑が寒そうだから、メイリーの肩には乗らない。
そういや、宿屋ではメイリー見かけなかったな。
甲冑脱ぐなら、膝の具合を確かめるのもやぶさかではない。
セリナが灯りを浮かせ、メイリーが先を歩く。
俺?俺は後方警戒ですよ。




