使い魔は猫である。名前は今日決まる。
心なしか家が片付いてる。俺が作った本のトンネルがない。
軽くショック。
何事かと見回すと。
家に、少し背が伸びたハルカスがいた。
……いや、孫娘だ。魔導師、セリナ。
若いが、魔導教会でも群を抜いて優秀らしい。
そして俺は、セリナの使い魔として、旅に同行することになった。
【ちょっと待て、聞いてないぞ】
「にゃーん」【今、言ってる】
突然のハルカスの猫語に、セリナが目を丸くする。
「……仲、いいのね」
ハルカスは少し恥ずかしいのか、咳払いをして続けた。
「お前は少し目が悪い。この子を、使い魔として連れて行きなさい。こいつの危険察知と目は良い」
【動くものに反応しちゃうだけだけどな。あと、臆病】
「でも……猫ちゃん連れて旅って……」
「こいつには、ファイアーボールを仕込んでおいた」
その言葉に、セリナは完全に固まった。
戦力になることは理解したらしい。
だが、何かを言おうとして口を閉じた。
長い付き合いで、ハルカスが考えを曲げないのも知っているのか、それ以上、何も言わなかった。
セリナが帰った後、ばあさんは俺に謝った。
「勝手に召喚されて、猫になって……その上、旅に出すことになった」
謝られているが、まぁ問題ない。ちょっと散歩するだけだろ。
「隣国を回って、挨拶だ」
【隣国って、どのくらい離れてる?】
「近いところなら、十日もかからない」
【……近いところは?】
「遠いところだと、戻ってくるまで一年以上だな」
【マジか!そんなに留守にして、寂しくないのかよ】
その言葉に、ハルカスは笑う。
「私の心配なんて無用だ。何年、一人で暮らしていると思ってる」
笑い疲れたのか、目元に涙まで浮かべていた。
「……まぁ、少し足元が寒くなるな」
【寝床が変わると、寝られなくなるな】
「どこでも寝るだろ、君は」
【……あ。思い出した】
「なんだ?」
【俺、まだ名前がないわ】
悲しい別れには、なりそうになかった。
◆◆◆
「イチゴ、モモ、バナナ」
【前二つはともかく、バナナはどうなんだ】
俺とハルカスは名前で悩んでいた。
俺は前世の記憶が薄いし、ハルカスの名前はさっきから食い物ばかりだ。
「もちもちしてるからモチ」
【さっきよりマシだが、却下】
終わらない。
名前もそうだが、もう一つやることがある。
セリナとの連携練習である。
使い魔とはいうものの、猫がただいるだけ。
足元ちょろちょろ。
うん、邪魔だろうな。
試しに肩に乗ってみる。ハルカスより背が高いせいか、ちょっと恐い。
セリナが歩いてる分には、まぁまだ問題ない。
ただ戦闘し始めたりしたらどうするかね。
降りてる時はいい。
などと考えてると、ハルカスが猫用ケージを持ってきた。
「猫が目に見えてる時は呼べば、こいつに吸い込まれる」
なんかとんでもないもの作ってるな。
戦闘で離れても、目が届けば戻れると、確かに便利だ。
セリナも目を輝かせてるが、一つ疑問がある。
【人間体で吸い込まれたら入り切らんぞ?】
「にゃあにゃん」【猫だけ吸う。猫吸いだ】
うん。急にハルカスが猫語使うからセリナが笑うの我慢してるな。
……旅立つ前に、ろくでもない装備だけが増えていく。
それにこれ持ってたら戦闘邪魔だろ。
結果、セリナの首元に待機する。
「おばあちゃん、これダメくすぐったい」
「慣れるまで我慢しな」
うん首からいい匂い。そして温かい。
でも不安定。
セリナも含めて、名前会議。
命名「ナギ」
うむ、かっこいい。
「のんびりしてそうだから、ナギ」
由来はともかく。
満足した証として、セリナの膝で寝ておく。
「もっちもちだから、モチでもいいね」
「にゃーん」【それはさっきやった】
俺を優しく撫でるセリナと、それを優しく見守るハルカス。
旅なんか行かないでこのままでいいんだけど?
だめ?
ダメですか、そうですか。
役に立てる気は、あまりしない。
暖房器具としてしか、使い道はないぞ。




