健全な男子 もとい 健全な雄猫
最近、ハルカスが忙しそうだ。家を留守にすることが増えた。
寝床がないのは少し寂しいが、天井のヒモと格闘することで紛らわす。
ある日、帰ってきたばあさんが、その光景を見て呆れていた。
健全な若い男子の必須科目ですが?何か?
帰ってくると、俺は膝の上で暖房器具になる。
俺の唯一の仕事と言っていい。
……とはいえ、俺も暖かいから、仕事じゃないな。
実際、この時間が好きだ。
ただ最近は、魔法の使い方だの、基礎のお勉強時間にされるので、少し逃げ出したい。
ともあれ、そのおかげで、肉体強化とファイアーボールが使えるようになった。
魔術回路も、なんとなく認識できるようになり、ファイアーボールの大きさも調整できる。
魔法が使えるのは楽しいが、あまり使うと、人間になれる魔力が減ってしまう。
人に戻ると、また別の魔法を教えられる。
どうやら、猫の時に使える魔法は、人の姿では使えないらしい。
身体強化は使えるのに。
ファイアーボールが出せず、少しがっかりする。
【猫で魔法を使っても、しょうがないだろ】
「使えるに越したことはない」
【人間に戻る方法か、せめて時間を伸ばしたいんだけど】
「今は忙しくて、そっちの研究に時間を割けないんだよ」
【忙しいって、何してるんだ】
「いずれ、分かるよ」
ハルカスは、少しだけ、寂しそうな顔をした。
◇◇◇
人の姿になった俺は、少し散歩に出るとハルカスに告げた。
「門限までには帰るんだよ」
念を押される。
そう、俺の人間姿は一時間限定なのだ。
夜の城下町。
この姿は、あまり人目につかない方がいいだろう。
そう考えて、俺が選んだのは――屋根の上だった。
なんだこれ。
身が、やたら軽い。
肉体強化が効いているのか、屋根から屋根へ飛び移っても、足音がほとんどしない。
瓦の上を走っているはずなのに、猫の時より静かだ。
やばい。
楽しい。
調子に乗って飛び回っていると、下の通りで小さないざこざが見えた。
居酒屋の前で、女の店員が男に絡まれている。
……あれは、どう見てもアウトだな。
ちょっと脅かすか。
屋根の上で、指を鳴らす。
次の瞬間、通りの端に雷が落ちた。
――やべ。
思ったより、威力があった。
石畳が焦げ、男たちは悲鳴を上げて逃げていく。
幸い、怪我人はいないようだ。
俺は、何も見なかった事にして、その場を離れた。
雷は猫の時に使えないから、練習が難しいな。
そろそろ戻るか。
そう思った矢先、体に違和感が走る。
まずい。
門限だ。
部屋の前まで辿り着いたところで、変身が解けた。
猫に戻る。
……ドア、開けられない。
中には、ハルカスの人影が見える。
気配にも気づいているはずなのに、ドアは開かない。
「……にゃあ」
しばらくして、鍵が外れた。
「門限、守れなかったね」
……ごめんなさい。
その後しばらく外出禁止でした。




