猫とモラル
「服が出てくる魔道具、作っといたから。首輪にしておきな」
【すごい。そんなことできるのか】
感心する俺に、ハルカスは首輪をつけてくれる。
おお、違和感ない。ザ・猫度、アップ。
「試しに人間になってごらん。ずっと寝てたんだ、できるだろ」
【では――へーんしん!】
……おお。
ちゃんと着れてる。サイズは少しでかいが、問題ない。
ともあれ、すごい。
ただ――実家のタンスみたいな匂いがする。
「もらっといて、あれだけど」
「分かってる。魔道具の実験で入れたボロだ。好きなの、買ってきな」
ハルカス、仕事は早いし、話も早い。マジで有能。
まともな人間なら、口説いてた。
……てか俺、今、何歳なんだろう。
◇◇◆
街の喧騒と、日差しが眩しい。
ハルカスが「好きに使いな」と、銀貨を三枚くれた。ちょっとした服は銀貨二枚らしいから、十分足りる。
タイムリミットは短い。感動してる前に、動くか。
ガラス張りのショーウィンドウなんてものがある。よくある異世界ファンタジーより、文明は進んでいそうだ。
スチームパンク、ってほどでもないか。
久々の二足歩行は不思議な感覚だ。なんだか、ふわふわする。
騎士団の行進か。奥の通りが騒がしい。
甲冑に身を包んだ女騎士が、先頭を歩いている。
……綺麗な人だな。
もっとよく見たいが、このボロで前に出たら切り捨てられそうだ。後にしよう。
店先で古着を吊るしている店を見つけた。ここなら安く揃えられそうだ。
おお、かっこいい黒い革のコート。ずしりと重いのも、悪くない。
「重い割には鎧ほどの効果もない。無駄な代物だが、気に入ったか?」
店主が、面白そうに声をかけてくる。
「かっこいいです。これください」
「見た目はいいわな。見かけない顔だが、どこから来た?」
言葉に詰まると、店主は何を思ったのか、少し悲しそうな顔をした。
「……そうか。お前も苦労してきたんだろう」
「おまけだ。靴も持っていけ」
ボロ着てるから、同情されたのかな。
銀貨二枚で、色々手に入った。コートに袖を通すと、少しはマシな格好だ。
通りの食い物屋に目が行く。
猫の時は薄味しか受け付けなかったが、今なら濃い味もいけるんじゃないか?
そう思って通りを横切ろうとした、その時――すれ違った。
栗毛の髪。魔力の匂い。
赤い瞳と一瞬だけ、視線が合う。
振り返った拍子に、ローブ姿の少女とぶつかった。
小銭を、ばらまいてしまう。
「ごめん」
俺が言うと、少女は一緒に小銭を拾ってくれていた。
「いえ、私も……目があまり良くなくて」
三つ編みで、大きな眼鏡。ローブの中は――基本、美少女。
応用的に言うと俺のドストライク!
互いに会釈して、別れる。いい子なんだろうな。
美少女は、ぽつりと呟いた。
「あの人……おばあちゃんの匂いがした」
少しだけ、首をかしげる。
「お弟子さん?」
騎士団の行進は、もう終わっていた。残念。
大通りには、立派な石像がある。冒険者が三人――奥の魔導師は、さっきの子に似ている。
……などと感慨に耽っていたら、体に違和感が走った。
やばい。タイムリミットだ。
ここはまずい。
路地裏に滑り込んだ瞬間、俺は猫になっていた。
服は……収納されたか。
一息ついた、その時。
持ち上げられた。
ハルカスだ。
「君は、人の姿でも落ち着かないんだな。帰るよ」
ハルカスに抱っこされて、家に帰る。
……あ。
中に着る服と、パンツ。買ってない。
翌日、俺はもう一度、ハルカスに頭を下げた。
「モラルを買わせてください」
「……君のところでは、パンツをモラルと呼ぶ文化なのかね」
俺は、モラルを手に入れた。
ついでに、シャツとズボンも。




