夜襲と見張り番
夜、見張りでメイリーとセリナが起きている。
遠くで遠吠えが聞こえた。まだ距離はある――
そう思ったが、違った。
暗闇に紛れ、いつの間にか俺たちを囲んでいる。
「ダスクハウンドだな」
灰色と黒の塊。その奥で、赤い目がいくつも光る。
二十……いや、下手をするとその倍はいる。
メイリーが剣を抜き、同時にセリナが馬車の周囲に土の壁を展開する。
「ナギ、ちょっと二人を起こしてきて」
言われる間もなく、俺は壁の上に置かれていた。
二人はそのまま前に出る。
ダスクハウンドは様子を見るように、ゆっくりと円を狭めてくる。
「おー、いっぱいいるね」
壁の上には、いつの間にかエルマがいた。
寝巻きなのか、いつものメイド服とも少し違う。
ハーフパンツと緩めのタンクトップみたいな格好だ。
「ナギくん。私たちも行くよ」
【いや、あの二人を……】
また、こいつに振り回されるのか。
「おいエルマ、また勝手なことを――!」
メイリーの叫びと同時に、円が崩れた。ダスクハウンドが雪崩れ込んでくる。
セリナが指輪をかざし、ファイアーボールを散弾のように放つ。一瞬の怯み。
その隙を、メイリーが逃さない。剣閃が走り、包囲の一部が切り裂かれた。
その音で、壁の内側が騒がしくなる。
従者やジョーたちが起きたらしい。援軍が期待できるな。
「ほいじゃー、ナギくん。お空にファイアーボールお願い」
言うが早いか、エルマはメイリーが切り裂いた円の反対側へ走り出す。
【空って】
一瞬迷った、その時。
「暗くてよく見えないんだ。私の背中に当ててもいいよ」
【面白いこと言うな】
ファイアーボール。
「やだ、ナギくん。大きくて、熱い」
【変な言い方するな】
迫るファイアーボールをエルマが身を捻ってかわす。
火球はそのまま、彼女に迫っていたダスクハウンドに直撃した。
一帯が一瞬、明るくなる。
その光の中を縫うように、エルマの投擲ナイフが飛び、追撃する。
「数が足りないかな」
軽く言うが、その一撃で群れはさらに分断された。
包囲は崩れ、全方向から攻撃できる優位性も失われる。
その時だ。
セリナが張った土壁が、内側から破壊された。
【まさか、突破されたのか】
「敵襲かと思ったら、犬か」
現れたのはバルガスだった。内側から壁を壊しやがったらしい。
肩に背負った大剣を、無造作に振る。
今度は、ダスクハウンドの壁が壊される。
分断された片側が、一気に崩れた。
後方では、メイリーが剣と氷魔法で数を減らしている。
深追いはせず、確実に押し返しているようだ。
周囲を見渡す。さっきよりも、ダスクハウンドとの距離が明らかに遠い。
さすがは獣だ。
勝ち目のない戦いには、深追いする気もないらしい。
闇の向こうへ、静かに下がっていく。
「これくらいか」
メイリーが剣を収める。
「こんな痩せた犬を倒しても、なんの金にもならん」
バルガスはそう吐き捨てると、早々に馬車へ戻っていった。
「食べられませんしね」
いつの間にか、ジョーが周囲を見回っている。
「あー、皆さんはもう寝ても大丈夫ですよ。見回りと見張りは、こちらでやっておきますね」
従者とともに歩いてる。
相変わらず酒瓶持ってるな。
あれはメイスのつもりだろうか。
俺をひょいと、エルマが抱き上げる。
「寝ようか」
そう言って戻ろうとした瞬間、今度はエルマの襟が、メイリーに掴まれた。
「お嬢様! おやすみなさい!」
「エルマ……昼間といい、今といい。何をしてるのかな」
お説教が始まった、その横で。今度はセリナが、俺を抱えて馬車へ戻る。
あくびを噛み殺しながら、俺を見て。
「今日は、いっぱい活躍したね」
満足げに、そう言った。




