旅立ちと監視者
起きると、まだ夜だった。セリナが髪を乾かしている。
「ごめんね。起こしちゃったね」
髪を結ばず、眼鏡もかけていないセリナは、ハルカスと間違えてしまいそうなくらい似ている。
「明日のお昼には、出発するらしいよ」
髪をお団子状にまとめたセリナが、ベッドに横たわる。俺は顔のあたりを嗅いで回った。
湯上がりで、石鹸の匂いがするな。
くんちょこ。
……ふむ。嫌いじゃない。
太ももに乗って、しばらくふみふみ。
セリナは考え事をしているのか、どこかうわの空だ。
少し足を開いてくれたので、その隙間に挟まる。
ジャストフィット。
……と思ったら、挟んで力を入れられた。
その後しばらく遊んだ。
大ジャンプしたらシャンデリアが揺れて焦った。
◇◇◆
別室。
椅子に座るローズの前に、セバスチャンが立っている。
「こないだはナギくんと大立ち回りしたみたいね」
「お恥ずかしいことです」
「いいのよ、たまには息抜きもしないと。あの子可愛いものね」
ローズの言葉に、セバスチャンは否定も肯定もしない。
「横穴の調査報告書です」「ありがとう」
「まず、ジョー様の方は住人の証言と一致しました。
メイリー様が入られた穴では、トロールの死骸を確認」
「……で、あなたの見解は」
「メイリー様お一人でも対処は可能でしょう。ですが、スライムに寄生された状態となると、私にも読みきれま
せん」
「そう」
「ですが、焦げ跡がありました。ファイアーボールの焦げ跡とは、性質が異なります」
ローズは、その報告に黙り込む。
「第三者の介入が疑われます」
ローズは背もたれに体重を預け、静かに息を吐いた。
「それで?」
「確証はありませんが……雷です」
「なるほど。引き続き、監視を続けて」
「ハッ」
◇◆◆
朝の館は、いつもと少し違っていた。見た目は同じなのに、空気が張りつめている。
俺と遊んでくれるメイドも、今日はどこか上の空だ。皆、何かを急いでいるように見える。
朝食を済ませて外に出ると、その理由が分かった。
いつも落ち着いた歩き方をしているベテランメイドが、今日は旅装束に身を包んでいる。
さらに、従者と荷馬車が数台。
「ふふ、ナギくん。不思議そうな顔してるね。私たちも同行するからね」
どうやら、獣人の国への挨拶を兼ねて、この地の織物などを届けるらしい。
「ん? 私の名前?」「エルマだよ。よろしくね」
聞いてないが、よろしくしてやろう。
「なんだ。お嬢様は、お付き付きで旅をするのか」
バルガスは、いつも通りだな。
「お酒の贈り物もあると、喜ばれますよ」
それ、お前も飲むつもりだろ、ジョー。当然のように、馬車の後ろに腰掛けているし。
まぁ、後方監視は譲ろう。腕は確かなようだ。
バルガスは、隊列の中ほどで馬車に乗っている。
本来はメイリーとセリナに馬が貸し出される予定だったが、セリナが乗れないため、二人も馬車に変更となった。
それも途中までで、山道に入れば徒歩になるらしい。
……しんどそうだな。
ローズさんが見送りに来てくれる。
「メイちゃん。無理はしちゃダメよ。生水も気をつけてね」
メイリーの手を握り、心配そうに見つめる。
「皆さん、お気をつけて」
そう言って手を振り、俺にも視線を向けてきた。
「小さな勇者さんも、気をつけてね」
言葉のあやだろうが、内心びくっとする。だが、喉を撫でられてゴロゴロしているうちに、その違和感は消えていた。
こうして、俺たちは旅に出る。




