3日常
「魔王様! いったいいつウルリナ王国を滅ぼすんですか?」
私をいやらしい目で見てきた変態どもをいつ一掃してくれるのかとワクワクしながら聞いた。私とお茶をしていた魔王様は少し呆れたような顔をした。
「ルアーナよ、お前に言っておかないといけないことがある。我々は別にウルリナ王国を滅ぼすつもりはない」
「そうなんですか?」
「ああ、ただかつて奪われた領土を取り戻したいだけだ」
そう言う魔王様の目には野心ではなく哀しみのようなものが浮かんでいるように見えた。
「そうなんですか。じゃあ勇者パーティーがやって来たら教えてくださいね。皆様に強化の術をかけますから」
「皆様と軽々しく言うがそんなことが可能なのか?」
「私、魔力量は国一番だったんです。戦闘員だけならなんとかなると思いますよ。本当は少人数に全力でかける方が効率的かもですけど」
少し考えて適切な説明を探す。
「正直、百の魔力を百人で分けるより百の魔力を一人に与えた方が強化できますからね」
「ならばルアーナよ、お前が強化するのは私一人で十分だ。その代わりお前の全力を尽くせ」
「分かりました。その時が来たら全身全霊で魔王様を強化します」
「して、ルアーナ。お前はなぜ部屋から出ないのだ? 私がこうして様子を見に来ると毎回部屋にいるだろう」
「え、出歩いてもいいんですか?」
「当たり前だろう」
「でも私、人間ですしやっぱりよく思われないのでは?」
「お前はすでに我が庇護下にある。誰も害そうなどと思うものか」
「じゃあ、うろうろさせてもらいますね。どこか入ってはいけない場所はありますか?」
「特にない。好きにうろつけばいい。ああ、だが仕事の邪魔はしないように」
「はい分かりました、皆様のご迷惑にならない程度にウロウロしますね」
そう言うと魔王様は頷いて出て行った。
「ベルタさん、私、部屋から出てもよかったんですね」
お世話係のベルタさんに声をかけたら呆れたような顔で見られた。ベルタさんは爬虫類っぽい尻尾の生えた綺麗なお姉さんである
「だからそんなに引きこもってたらカビが生えるって言ったでしょうに」
「おっしゃる通りで……。ベルタさん、案内してもらえません?」
「ええ、ええ。もちろんですとも。ほらほら、行きますよ」
それからベルタさんは城内を案内してくれた。魔王様の執務室とかたぶん一生縁がない。二人で中庭に出た。寒い。魔界はウルリナ王国より北にあるから仕方ないんだけど。防寒具、持ってくればよかったなあ。でもそんな大荷物だと神殿を抜け出せなかっただろうし仕方ないか。
「へくしゅん……!」
「あらあら、大変。すっかり冷えてるじゃないですか。お部屋に戻りましょうか。人間にはこの寒さは堪えるんですね。学習しました」
喋りながらベルタさんは私の手を触ってその冷たさに驚いたようだった。爬虫類っぽいベルタさんの方が寒さに弱そうなのに平気だなんて信じられない気持ちだ。
部屋に戻ったらおくるみに包まれる赤子よろしく毛布でぐるぐる巻かれてしまった。
次の日、仕立て屋がやって来た。冬物を仕立ててくれるらしい。お金は魔王様が払ってくれるとか。ありがたい。魔界のために勇者パーティーを蹴散らそうと私は決意を新たにしたのだった。




