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最終話:祭りのあと ~それぞれの成長と未来への序章~

『ギャル☆コレ ~アゲ盛りパーティ~』のリリースから、一週間が経過した。


 ゲームは、リリース直後の爆発的な勢いを維持したまま、ダウンロード数を順調に伸ばし続け、各種アプリストアのランキングでも上位をキープしていた。


 サーバーは依然として高負荷状態が続き、運営チームは細かなバグ修正やユーザーサポートに追われる日々だったが、それでも、プロジェクト全体としては、誰もが予想しなかったほどの「大成功」と言える結果を収めていた。


 そして、その成功を祝うための、ささやかな打ち上げパーティが、あのカオスな日々を過ごした第7開発準備室で開かれることになった。

 部屋は、キラ☆が持ち込んだ風船やガーランドで(以前にも増して派手に)飾り付けられ、長テーブルの上には、ピザや唐揚げ、寿司、そして大量のスナック菓子と缶ビール、ジュースが並べられている。

 開発に関わったメンバーたちが、久しぶりに肩の力を抜き、リラックスした表情で集まっていた。


「えー、皆さん! まずは、本当にお疲れ様でした! そして、『ギャル☆コレ ~アゲ盛りパーティ~』の大成功、おめでとうございます!」


 高山健吾たかやまけんごプロデューサーが、缶ビールを片手に、少し照れたような、しかし感無量の表情で挨拶を始めた。彼の目の下の隈は依然として深いが、その表情には、これまでの苦労が報われたことへの安堵と喜びが浮かんでいる。


「正直に言って、このプロジェクトは、私が経験した中でも、最も困難で、最も予測不能なものでした」

 会場から、苦笑まじりの笑い声が起こる。

「何度も、もうダメかと思いました。胃薬の消費量も、過去最高を記録しましたし…」

 再び笑いが起こる。


「しかし! 皆さんの情熱と、チームワーク、そして何より、決して諦めないという強い意志が、この困難なプロジェクトを成功へと導いたのだと、確信しています。特に、富安リーダー、キラ☆君、佐藤さん。君たち三人の化学反応なくして、このゲームは生まれませんでした。本当に、感謝しています!」

 高山は、深々と頭を下げた。

 その言葉に、京一郎も、キラ☆も、佐藤も、少し気恥ずかしそうに、しかし誇らしげな表情を浮かべていた。


「まあ、固い挨拶はこれくらいにして…」

 高山は、缶ビールを高々と掲げた。

「今日は、全てを忘れて、大いに飲み、語り合いましょう! 本当にお疲れ様でした! 乾杯!」


「「「かんぱーい!!」」」


 部屋中に、威勢の良い声と、缶やグラスがぶつかる音が響き渡った。

 祭りの後の、心地よい喧騒が始まる。


 メンバーたちは、解放感からか、口々に開発中の苦労話や裏話に花を咲かせていた。

「あの時のサーバーダウン寸前、マジで生きた心地しなかったよな…」

「キラ☆さんが見つけた、あの顔面事故バグ、修正間に合って本当によかった…」 「富安リーダーの徹夜コーディング、鬼気迫るものがありましたよ…」

「佐藤さんのデザイン修正の速さ、神がかってました!」


 京一郎は、部屋の隅で、一人静かに缶ビールを傾けていた。

 目の前で繰り広げられる賑やかな光景を眺めながら、彼は、これまでの日々を静かに振り返っていた。

 怒涛のような、非現実的な、しかし間違いなく、彼の人生において最も濃密で、最も感情を揺さぶられた数ヶ月間。

 技術者として、そして一人の開発者として、自分が大きく変化したことを、彼は実感していた。


「センパイ、一人で黄昏てないで、こっち来なよー!」

 不意に、キラ☆が、頬を少し赤らめながら、京一郎の隣にやってきた。


 彼女の手には、なぜかマイクが握られている(いつの間に持ち込んだのだろうか)。

「…あまり、騒がしいのは得意ではないので」

「もー、またそーゆーこと言って! 今日くらい、いいじゃん! 打ち上げなんだし!」

 キラ☆は、強引に京一郎の腕を引き、輪の中心へと連れて行こうとする。


 京一郎は、苦笑いを浮かべながらも、以前のような強い拒絶感は感じていなかった。

 むしろ、彼女のこの強引さが、今は少しだけ心地よくさえ感じられる。


「ねえ、センパイ」輪から少し離れた場所で、キラ☆が改まったように言った。

「…あのさ、今回は、マジで、色々…ありがとね」

「…ボクの方こそ。あなたがいなければ、このプロジェクトは…おそらく、全く違う、そして、これほど成功したものにはならなかったでしょう」

 京一郎は、素直な気持ちを口にした。

「えへへ、そっかな?」

 キラ☆は、照れたように笑った。

「でもさー、ウチの、あの無茶苦茶なアイデアを、ちゃんと形にしてくれたのは、やっぱセンパイの、あのヤバい技術があったからだし。マジで、リスペクトしてる」

「…光栄です」

「うち、最初、センパイのこと、マジでカタブツで、融通きかなくて、絶対仲良くなれないタイプだって思ってたんだけど…」

「…それは、否定しません」

「でも、なんか、一緒にバカみたいに徹夜したり、喧嘩したり、泣いたり笑ったりしてるうちにさー…なんか、戦友? みたいな感じになったのかなーって」


「…戦友、ですか」

 京一郎は、その言葉を口の中で転がしてみた。

 悪くない響きだ、と思った。


「…そうかもしれませんね」


 二人の間に、穏やかで、温かい沈黙が流れた。それは、激しい衝突を乗り越え、互いを認め合ったからこそ生まれた、特別な空気感だった。


「富安君! ア…いやキラ☆君!」

 そこに、五十嵐社長が、満面の笑みで近づいてきた。

 彼は、打ち上げの噂を聞きつけて、顔を出したようだ。

「いやー、君たち、本当に素晴らしい仕事をしてくれた! 我が社の誇りだよ!」


 社長は、二人の肩を力強く叩いた。

「特に、富安君! 君があの『ギャル』という未知の領域に果敢に挑み、そして見事に成果を出してくれたこと、私は心から嬉しく思っているぞ!」

「…社長のおかげ…とは、あまり言いたくありませんが」

 京一郎は、少し皮肉っぽく言った。

「結果的に、貴重な経験をさせていただいたことには、感謝しています」

「はっはっは! 素直じゃないな! だが、それでこそ富安君だ!」

 社長は、豪快に笑った。


「どうだね? この経験を活かして、また何か新しいことに挑戦してみる気はないかね? 例えば…次は、AIとアイドルの融合とか!」


「…それは、また別の機会に考えさせていただきます」

 京一郎は、やんわりと断った。


 もう、社長の無茶振りに振り回されるのは、しばらくは遠慮したかった。


 打ち上げは、深夜まで続いた。

 メンバーたちは、互いの労をねぎらい、成功の喜びを分かち合い、そして、少しだけ未来の話をした。


 京一郎は、プロジェクト終了後、再びアストライア・エンジンの開発チームに戻ることになっていた。

 彼の卓越した技術力は、依然として会社の基幹技術開発に不可欠なのだ。

 しかし、彼の心の中には、以前にはなかった、ある種の物足りなさのようなものが生まれていた。


 論理と効率性だけを追求する世界。


 それは、彼にとって最も得意な場所であるはずなのに、プロジェクト・ギャラクシーで経験した、あのカオスで、予測不能で、しかし人間味に溢れた熱狂を知ってしまった今、少しだけ色褪せて見えるような気がしていた。


 ふと、彼は、キラ☆がよく口にしていた言葉を、無意識のうちに呟いていた。

「…まあ、ワンチャン、また何か面白いことがあれば…」

 自分で言ってから、はっとして口をつぐむ。

 隣にいた佐藤が、くすくすと笑っているのに気づき、彼は顔を赤らめた。


 キラ☆は、モデルとしての活動を再開する予定だった。

 ゲーム開発という未知の世界に飛び込み、多くのことを学んだ彼女は、以前よりも少しだけ大人びて見えた。しかし、彼女の好奇心と行動力が衰えたわけではない。

「ねー、リョウチー! 次はさー、うちらで、マジでインディーゲームとか作っちゃう?」

「ええ? 私も巻き込むの?」

 そんな会話を佐藤としている。彼女は、きっとこれからも、自分の「好き」と「カワイイ」を追い求め、新しい何かを生み出していくのだろう。

 時折、彼女が「あのAPI連携って、結局どういう仕組みだったんだっけ?」などと、開発用語を(まだ少し怪しいながらも)使おうとする姿に、京一郎は微笑ましい気持ちになった。


 佐藤は、その優秀さを買われ、すぐに別の大型プロジェクトにデザイナーとして参加することが決まっていた。

 彼女は、京一郎とキラ☆という、あまりにも対照的な二人を見事に繋ぎ止め、プロジェクトを成功に導いた立役者の一人だ。

「また、いつか、このチームで何かできたら、面白いでしょうね」

 彼女は、そう言って、柔らかく微笑んだ。


 高山プロデューサーは、相変わらず胃薬を手放せないながらも、『ギャル☆コレ』の運営プロデューサーとして、日々のアップデートやイベント企画に奔走することになるだろう。彼の苦労は、まだ続きそうだ。


 そして、打ち上げもお開きの時間となり、メンバーたちがそれぞれ帰路につく中、京一郎とキラ☆は、なぜか二人で、夜のオフィス街を並んで歩いていた。


「…終わっちゃったね、センパイ」

 キラ☆が、少し寂しそうに呟いた。

「ええ、終わりましたね」京一郎も、同じような気持ちを感じていた。

「なんか、あっという間だったなー。最初は、マジでどうなることかと思ったけど」

「同感です。…ですが、結果的に、非常に…刺激的なプロジェクトでした」

「うん、うちも! 超大変だったけど、超楽しかった!」


 二人の間に、心地よい沈黙が流れる。


「…それで」キラ☆が、ふと思い出したように言った。

「もし、もしだよ? ギャルコレの続編とか作ることになったらさ…センパイ、また一緒にやってくれる?」

 京一郎は、少し驚いて、キラ☆の顔を見た。

 彼女の瞳は、真剣だった。


 京一郎は、数秒間考えた後、小さく、しかし確かな声で答えた。

「…検討します。…ただし、次は、もう少し現実的な要求でお願いしますよ?」

「えー! ケチ! 次は、もっともっとヤバいやつ作るんだから! 目指すは、宇宙規模でアゲ盛りっしょ!」


 キラ☆は、いつもの調子で、大きな夢を語る。

「宇宙規模…ですか。また、サーバー負荷が大変なことになりそうですね…」

 京一郎は、やれやれ、と肩をすくめるような仕草をしたが、その口元には、確かに笑みが浮かんでいた。


 友人とも、同僚とも、師弟とも違う。

 戦友、という言葉が、やはり一番しっくりくるのかもしれない。

 技術一筋の堅物エンジニアと、常識外れのカリスマギャル。

 全く異なる二つの惑星が、偶然衝突し、反発し合い、そして、奇跡的な化学反応を起こした。その軌跡は、『ギャル☆コレ ~アゲ盛りパーティ~』という、一つの確かな形となって、今、多くの人々を楽しませている。


 彼らの物語は、ここで一旦の幕を閉じる。


 しかし、それは決して終わりではない。

 それぞれの道へと進む彼らの心の中には、共に過ごした日々の記憶と、互いへのリスペクトが、確かに刻まれている。

 そして、いつかまた、彼らの道が交差する日が来るかもしれない。

 その時、彼らは、どんな新しい「アゲ盛り」な物語を、世界に見せてくれるのだろうか。

 そんな未来への、かすかで、しかし確かな希望の光を感じさせながら、プロジェクト・ギャラクシーの物語は、静かに、そして晴れやかに、終結した。


(了)


 こちらは初出は別サイトで公開したもので、処女作とは言いませんが結構初期に暗中模索でタイピングしました。イメージ的にはアニメ化より実写化みたいなイメージあります…2時間ドラマみたいな。


 ゲーム開発は、ここで語られているよりずっと複雑で多くの人が関わるのが普通ですが、まあ、ドラマなのでということでご了承ください。

 そもそもどういうゲームなのかすら分からないですよね…機能的に実装されていそうなシステムの描写があるのはアウトゲームと呼ばれるメイン以外なので…まあ、ぶつ森みたいなゲームなのではないかと思います(適当)


 主人公にはモデルがいて、エンジニアではないのですが意固地で技術力あるけどプライドも高くて、なかなか周囲と溶け込めないタイプでした。

 彼は極めて高い技術力故に会社のメインとしてクライアントから名指しで依頼が来るくらいの実力ありましたけど、故に孤立無援で結局会社を去ることになりました。

 まあ、かくいう私も若いころは意固地で周りに迷惑かけるタイプだったので、この作品は高い技術を維持しつつも周囲と上手く理解を進めた方が物事うまくいこともあるよ?普段全く縁がない立場の人との交流で、視野が広がることもあるよ?という人生経験の中からの余計なお世話を語った作品です。


楽しんでくれたら幸いです。

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