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【第一部完結】同居人は異世界の女神さま!? 男に逃げられ、金も尽き、運まで消えたら、女神に振り回された件について  作者: yururitohikari


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元カレ・元カノの事情


  ”──今日、会いたい。話したいこともある”

 ケンジからそのメッセージが来た、その日の夜。


 杏は、いつものファミレスに行く。

 「今日はスーツなんだね」

 先に席にいたケンジに、杏は声をかける。

 「お客さんのところ行ってたからね」

 

 「何にする?」

 ケンジはメニュー表を渡してくる。


 「この前は肉だったし、魚かな……焼き魚にしておく」

 杏が答えると、ケンジは

 「じゃぁ、俺は鉄火丼にする」と言った。


 注文をタブレットに入力する。

 少しの無言。

 

 「仕事、どう?」

 ケンジは言葉少なに聞いてきた。

 「あんまり変わらないかな。キャリアはさっぱりよ」

 「そっか──」

 頷きつつ、ため息交じり。


 「──やっぱ、杏と居ると元気出るな」

 そう言ってケンジは少し笑う。

 「どしたのよ? そうそう”話したい事”ってなに?」

 「それは食べてからにしよ」


 料理が運ばれてきて、食べ始める。

 会話がいつもより重たいと杏は感じた。

 

 「その話の件なんだけど」

 食事が終わり、世間話をした後に、ケンジは言いにくそうに口を開いた。

 「ごめん。今月、返せない」

 「え? そうなの。それならSMSで言ってくれればいいのに」

 「それだけじゃなくて、その──」

 うつむくケンジ。


 「どした?」杏が声をかける。

 ケンジはまた、額をテーブルに付けて言った。

 「杏以外も借りてた人がいて、その人に返さないと……」


 ごめん。もう少しお金貸してほしい。

 ケンジはそう言った。


 ケンジの言い分はこうだった。

 杏以外にも借りている。

 闇金には借りていない。


 消費者金融に少しと、個人に複数。

 返す先は、高校の先輩に当たる人。


 本来だったらボーナスの時にまとめて返す話だった。

 だが、先方の事業の都合で急に現金が必要になった。

 返さないと、向こうにも迷惑がかかる。


 「ごめん。それこそ消費者金融に借りるべきなんだけど」

 ケンジはそう言いながらも、借りる金額が大きいので避けたい。

 金利も付いてしまうと、項垂(うなだ)れて言った。


 「そんな大きい金額っていくら?」

 思わず杏は聞いた。

 「──50万」

 「無理よ。そんなの」

 考える余地もないと思った。


 「そこを。無理を承知で。せめて10万でも……」

 返せないと先輩の事業に、影響が出てしまう。

 消費者金融で今いくら借りれるかも分からない。

 本来返すあてだったボーナスが20日には出る。

 だから、それまで貸して欲しい。


 「ちょっと、やめてよ。ファミレスで頭下げないでよ」

 周りの客の視線が気になる。

 「ちゃんと返す。この前まで返せてた。だから信じてくれ」

 ケンジは食い下がってくる。

 「杏には迷惑ばかりかけてるけど、やっぱり俺には杏が必要なんだよ」

 頭を下げたままだった。


 杏は銀行口座をスマホで確認する。

 ──50万なんてあり得ない。

 東北旅行で大きなお金を使ったばかりだ。

 あのお金だってレイネの稼ぎの分だ……


 残高は60万近くある。


 杏のボーナスも20日。

 それまで、引き落としも無い。


 すぐに困ることはない。


 「──わかった。口座番号教えて」


 「──え?ほんとに?」

 驚く表情で見上げるケンジに杏は言った。

 「もう一度、あなたを信じてみる」


 杏は50万円を、その場で振り込んだ。


* * *


  

 横浜の楽器店。

 「あーちゃん、レイネのお金ってどのくらい使えそう?」

 レイネはシンセサイザーの前でかれこれ20分ぐらい止まった後、そう言った。


 「──え? これ?」

 「Fantom、これ欲しい」

 「ちょー、40万ー?」

 その値段に杏は驚いた。


 「その前にレイネ、楽器弾けるの?」

 「ん?鍵盤数が違うけど、似たようなの向こうにもあるし、弾けるよ」

 そう言って、『八月の夜』のサビをさらっと弾いた。


 「ほんとあんた、サイサイ好きね」

 「うん。かわいい」

 ニコっと笑い続けた

 「レイネ、ガールズバンドデビューしたい。でも、ナカマいない。ぼっちちゃん」

 ちな、『ずとまよ』の『秒針を噛む』もできるよと言ってメロディラインを弾く。


 「ヒゲダンは?」

 「んー、ギリ、ナッツ」

 思い出すように少し天を見て弾き始める。

 「おっすご! って、これ、今欲しいの? ──ボーナスまで待って」

 カード払いも出来るが、もしもの事が頭をよぎった。


 「ボーナス? それ知らないけど、分かった。待ってみる」

 いとおしそうに鍵盤に向き直るレイネ。

 杏は胸を撫でおろしつつも、罪悪感は拭えなかった。


 ──あなたのお金、勝手に貸しちゃったのよ


 レイネは「また今度ね」と鍵盤に向かって話しかけていた。



* * *  

 

 その日小鳥遊杏(たかなし あん)は、桜木町から横浜に戻っていた。

 顧客事務所での作業が早く終わった。

 事務所に戻るにも中途半端な時間だ。

 たまにはウィンドウショッピングでもしてから帰ろう。

 横浜で降り、普段あまり行かない東口に向かった。


 ──ブルル

 スマホが受信を知らせる。

 ケンジからだ。


 ”相模大野で、外回り中。暑いから、杏も気を付けてね”

 

 ケンジも頑張ってるな。

 杏の気持ちも上がる。


 どこかのタイミングでレイネに紹介出来る仲になっていたらいいな。

 きっとそれはお金を返せたとき。

 そんな風に思いながら、地下街を巡りデパートに入る。

 雑貨や洋服を見て、ブランドフロアにいるときだった。

 

 「ちょー嬉しいんですけど! ありがとう、ケンジ」

 と若い女の声が聞こえた。

 ケンジと聞こえ一瞬どきりとしたが、よくある名前だ。


 それに知っている方のケンジは、相模大野にいる。


 「いいっていいって! ドカンと金は入ったしさ」

 男の声を聞いたとき、杏の心臓はバクバクと脈打ち始める。

 聞き覚えがある?

 そんなはずは。


 ケンジは、相模大野に居るはずだ。


 「またなんか危ないバイトー? ちゃんと働きなねー」

 女の甘えた声。


 ケンジは、相模大野で仕事をしているはず。


 「ちげーよ、危なくねーよ。ちょっと、元カノにせびっただけ」

 聞き覚えのある声がする。

 それ、酷くない?ま、あたしは貰うだけだからいいけど、女は言った。


 杏は、覗くようにそちらを見る。


 嘘でしょ。

 あなた、相模大野に居るって、メッセ送ってきたよね。

 なんで、ここにいるの?


 後ろ姿だが、背格好で分かる。

 ファミレスに着てきた服装。

 キスしようとしてきた、あの日に着ていた服。


 ケンジが露出の多い服を着た若い女と、手を繋いで歩いている。

 「あいつ、ちょろいから」

 「カバン買ってもらっちゃった。元カノさん、サンキュー」


 頭が真っ白になった杏は、その場から逃げ出した。




 * * *



 

 あーっと、今日もあーちゃんが走って帰ってくるー。

 ヒールのカツカツ音でレイネは察知した。


 さて、味噌汁に火をかけようか?

 いつもなら、玄関開けて、身支度して。

 リビングに来るのが大体15分ぐらい。

 タイミングばっちりな感じで夕食。


 しかし、今日は走ってくる。

 前回は急に飛びつかれた。


 今回はどっちだろう?

 抱き付かれる方に、100ペリカ。


 火は危ないから、かけずにいよう。


 ガタンッ!

 いつもより大きな音を立てて玄関が開く。

 あ、抱き付かれる方だなと、その時は軽く思っていた。


 「──ぅぐっ」

 案の定、杏は抱き付いてくる。

 ただ前とは違う。

 

 震える杏の頭を抱き、その場に座り込む。

 「大丈夫、レイネはここにいるよ」

 いつもより力を込める。


 杏が泣いているのは、見なくても聞かなくてもわかった。


 「よしよし」

 背中や頭を優しく撫でる。


 杏は声を上げようとするが、ひきつけを起こして言葉にならない。

 「落ち着いてからで、いいよ」

 一緒にいるから大丈夫。

 撫で続けながら、レイネはそう付け加えた。


 やがて杏は「やっぱり、馬鹿だよね、私……」と言った。


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