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【第一部完結】同居人は異世界の女神さま!? 男に逃げられ、金も尽き、運まで消えたら、女神に振り回された件について  作者: yururitohikari


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8/96

ぱくっ

 ここ。行きたいです。

 これも、噓ですか──?

 異世界人が悲し気な声でつぶやいた。


 杏がのぞき込むと、そこには一面の桜の写真。

 ピンクの霞が空に舞い、湖面に散る花びら、遠くに見える和風のお城。


 「……あっ、ここ弘前公園じゃん。これはある」


 「ほんとですか!“ヒロサキこうえん”の“おはな”!」

 レイネはめちゃくちゃ嬉しそうに笑った。

 指で花びらの写真をなぞりながら、目がキラキラしてる。


 「弘前を選ぶあたりセンスあるじゃん」

 杏も一緒に覗き込み、続ける。

 「私も行ったことないけど、めちゃ有名だし、桜の名所って聞くよ」

 「嘘じゃないんですよね?行きたいです、ここ行きたい!」


 弘前公園で桜を見る──レイネの夢は、まさかの堅実な春の旅行プランだった。


 「……いいなぁ、行けたら。でも今って──」

 杏はカレンダーを見上げた。

 「2月末か……まだ桜、咲いてないよ」


 「咲いてないの……?」

 しゅん……とレイネの肩が落ちる。


 「咲くのはたぶん、4月の終わりくらい。弘前だとゴールデンウィークあたりが見頃かな」


 「ゴールデン…?」

 またレイネは首をかしげる。

 「連休のこと。みんな一斉に休む魔法の期間。だからね、ホテルとか超取りづらいのよ。予約するだけで、戦争なの」


 「戦争? 蹴散らせばいい?」

 「いや、もう。蹴散らさないで。お願い、武力行使の発想はやめて」

 いろいろ言葉に気を付けないと、ズレる。


 「……今から頑張れば、日帰りで弾丸ツアーならワンチャン…?」

 「弾丸……撃たれるの!?」

 レイネは眉をひそめる。

 「ならば、護衛魔法で!」

 「違う違う!例え!比喩!日本語ムズいな!」

 言ったそばからこれか。


 杏はをぱらぱらめくりながら、弘前城公園の解説を読む。

 英文だが充分わかる範囲の構文だ。

 「へぇ、桜守なんていう人がいるんだ。これは正しいっぽいな──でも、桜の木の下に人身御供?いや、さすがにそれは間違ってるでしょ」


 2割ぐらいあってそうだな。


 「なになに、弘前城は、江戸からくり城と呼ばれ古来よりロケットランチャーが実装されている?」


 うん、8割妄想だ、これ。


 これは、この子(レイネ)の誤解を解いてやらないといけないのではないか……。

 杏は思い始めていた時、ふと疑問が生まれる。


 「……てかさ、そもそもなんでそんな雑誌持ってたの?」

 「それは……ですね」

 レイネは少しだけ、真剣な顔になった。


 「それは……こっち世界から、私の世界に()()()()()()がいたんです」

 レイネはちょっとだけ表情を引き締めた。


 「来ちゃった、って……異世界転生的な?」

 「転生というか……たいていは“迷い込み”ですね。本人の意思とは関係なく、気がついたら迷い込んでた、ってケースが多いです」

 「……え、怖」

 杏の脳裏に、駅のホームや信号の赤、エレベーターの隙間など、"異世界行きスポット"のイメージがばばばっとよぎった。


 「で、その迷子さんが、この雑誌を持ってたんです」

 「え、待って、迷子って……日本人だったの?」

 「わかんないです。あいあむざばにーずって言ってました」

 「あ、そ、そうなの」


 その人、今どうなったの?と杏が聞こうとしたとき、レイネの表情がふっと陰った。

 「……最初は、私も保護しようと思ったんですけど」

 「え、でも何かあったの?」

 「リアルポ〇モンとかいって、魔物に近づいちゃって。止めたんですけど……」

 「まさか──」

 「パクッ、て」

 「パク……?」

 杏の脳内に、チョコパイを一口でいくゆるキャラみたいなビジュアルがよぎる。


 レイネは、杏の反応を真顔で受け止めながら、はっきりと言った。

 「食べられちゃった」

 「ええええええええーーーーっ!?」

 返す言葉がなかった。

 想像以上にサラッとしたショッキング情報だった。


 「なんていうか」

 レイネは思慮深く言う「“旅先では浮かれすぎない”って、大事なんだなって思った──あと、ちゃんと人の話を聞こうって」

 「教訓がリアルすぎるのよ!」


 一息ついた杏は、改まって言う。

 「よし……じゃあ、咲く時期になったら、一緒に行こう」

 「えっ!ほんと!?」

 「うん。あなたの夢、叶えよう。こっちの世界に来たんだもん。それくらいのご褒美あっていいよ」

 「ありがとう、あーちゃん!」

 レイネの笑顔が、花びらみたいにぱっと咲いた。


 (……この子が信じてる“日本”を、ちゃんと教えてあげたいな)

 杏はそう思いながら、再び雑誌の表紙に視線を落とした。

 「……てか、“サムライ・サイバーパンク・パラダイス”って何よ」


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