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【第一部完結】同居人は異世界の女神さま!? 男に逃げられ、金も尽き、運まで消えたら、女神に振り回された件について  作者: yururitohikari


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【ダMEN’S NON!NO!!】ストロングゼロ飲んで、記憶消失

 

 レイネが霊薬だの不思議なことを言った後だった。

 浮かない表情。

 声を掛けてもすぐに反応しない。


 どうかしたのかな?

 杏は、心配した。

 手を取ろうとしたが、レイネは立ち上がって「トイレに行く」と言った。


 表情が暗い。

 一緒に行くよ、と言ったのに押し戻されてしまう。


 ほんとに大丈夫かな……。

 レイネの背中を追おうとしたとき、聞き覚えのある男の声がした。

 「杏じゃん。元気してた?」


 杏はその男の顔を見て驚いた。

 「ケンジ? 偶然ね」

 それは、かつて杏が付き合っていた、ダメンズ彼氏のひとりだった。


 物腰が柔らかいのも、程よい清潔感も変わらない。

 店員に横柄な態度も取らず、一緒にいて恥ずかしいと思った事はない。

 むしろ、居心地は良い。

 そんな男だった。


 ただし、物腰の良さは言い換えると『決めきれない』である。

 結局は優柔不断で、断れもせず異性関係や金銭関係でもルーズさとして現れる。


 別れた理由も、ケンジの浮気と金銭の無心だった。


 「すぐ行くからちょっといい?」

 ケンジは杏の返事を待たず、隣に座る 


 ──ちょっともよくない。早く帰れー!


 立ち去りたい。

 杏は思ったが、レイネを置いていくわけにもいかない。


 「さっき居た人、だれ? めっちゃ美人じゃない?」

 ケンジが小さく言う。

 「レイネ。いま、一緒に住んでる外国人……」

 「あ、一緒に住んでる? ああ、そうか……」

 何か納得したように頷く。

 「美人過ぎて、苦手かも」

 そう、ケンジは続けた。


 その後ケンジは、仕事どう?とか、作ってくれたカレーとかうまかったよな、なんて話をしてくる。

 「俺もちゃんとした職に就こうと思って。杏を見習わないとね」

 にっこり笑った後、悪びれる様子もなく続けて言った。 

 

 「聞いたよ。タケシと別れたんだって?」


 ──どっからその情報を。


 「そうね。3か月前ぐらい前かな」

 「それって、俺にもっかいチャンス巡ってきたってことかな?」

 じっと杏の目を見てくる。


 ──でたー。騙されるもんですか。


 「無い無い」

 杏は手をぶんぶんと横に振った。

 「えー?そうなの? 振られた側としては期待しちゃったんだけどな」

 冗談めかしたように肩を竦める。


 「お金も、女の子もルーズなのは変わってないでしょ?100%ムリ」

 杏は冷たく言った。


 キビシーなーと大げさに仰いだ後、ケンジは言った。

 「そんな事ないよ。あれから俺だって成長した。反省したんだ」

 声を押さえ、真面目な表情だ。

 杏は、騙されない、騙されないと心の中で繰り返す。

 「そういえば、タケシ、結婚するらしいんだってな?」


 ──え?結婚?


 杏の表情から察したのかケンジは続ける。

 「あ、知らなかった? 聞いてないの? デキ婚だってさ。5か月」


 ──5か月?同棲期間と重なってるじゃない……


 杏は頭が真っ白になった。

 ケンジは、一方的に話している。

 

 どっかの部長さんの娘らしいよ。

 どこだっけか?

 それで転職もしたらしい。


 そういえば、杏。

 急に連絡とれなくなったじゃん。


 しつこくしないからさ、SNS教えて。

 ほら、まだ返して無いお金。

 きっちり返したくてさ。

 

 「あ、うん。わかった」

 杏は言われるがままQRを表示する。


 「別件あるから、じゃあこれで」

 そう言って、ケンジは去っていった。


 彼との生活は、あれだけ息苦しい日々だったはずなのに。

 ”お前には飽きた”

 あり得ない別れの言葉だったのに。


 ──タケシが結婚。


 その一言は杏の心の中に、複雑な思いを芽生えさせるには充分だった。


* * *


 

 ケンジが去ったあと、しばらくしてレイネが戻ってきた。

 やっぱりレイネの顔を見ると気分が晴れる。


 そんなレイネも、先ほどとは違って持ち直したようだ。

 明るい声音で「お待たせ。ごめんね」と元の席に座る。

 「お腹すいちゃった。なんか食べていい?」

 レイネの元気そうな姿に杏は安心した。

 「もちろんよー」

 

 しばらくしてケーキが運ばれて来る。

 美味しそうに食べるレイネを杏は見つめる。


 あと、後数週間でレイネとはお別れか……。

 残された時間をどう過ごそうか……。


 少しは自立しておきたい。

 そんな姿をレイネに見せておきたい。

 そう思って『キャリア』の話も少しでも進みたくて……でも、そんな簡単に答えは見つからない。

 追い打ちのようにタケシが結婚する話。


 自分だけが取り残されていく気がする──やはり寂しさは拭えなかった。


* * * 


 帰宅したその日の夜。

 杏は風呂から上がると、レイネはリビングで何か作業をしている。


 「今度は、なーに?」

 杏は横に座り込むとストロングゼロをグビっと飲んだ。


 真剣な表情で作業している横顔。

 相変わらずマイペースだなと思う。

 もうしばらくしたら、帰ってしまう。

 こっちは気を揉んでいるというのに。

 

 「グラスソルトだよ。色付けた塩を瓶に詰めていって……」

 こんな感じ、とひとつの完成品を見せてくる。


 小さな瓶の中にカラフルな塩が詰められ、黄色い花が咲く草原が描かれている。

 「きれいね」

 杏は素直に呟いた。

 「てへへ」

 「これも売るの?」

 細かい作業を続けるレイネに聞く。


 「売る物と売らない物がある。これは売らない。あーちゃんと行った蕪嶋神社の菜の花」

 あの時の、ウミネコの声、潮騒、少し肌寒い潮風。

 その光景を思い出す。

 杏は込み上げてくるものを抑える。

 

 「……ねぇ、レイネ」

 「ん?」

 「ほんとに、帰っちゃうの?」

 強アルコールのせいにして、言ってしまえ、と杏は思った。

 「そうね。帰らないとね」

 レイネの口からは、やはり聞きたくはない回答。


 「ほら、こないだも社会科見学、行きたいって言ってたでしょ?」

 「うん。行きたい」

 レイネは杏を見て、にこっと笑う。

 「社会科見学は、味噌以外にもあると思うよ?カルピスとか、マヨネーズとか」

 我ながら何言ってんだろう。


 「でもさ、生活費かかるよ」

 淡々と作業を続けるレイネはそう言った。

 「大丈夫。レイネの稼ぎがそれなりだし……」

 レイネの手が止まる。


 杏は「親御さんが、心配してるとか?」と聞いた。

 「心配はしてるかも。なんも言わずに勢いで来ちゃったからね」

 「そこだけ聞くと、家出少女みたい」

 杏は、ふふっと笑った。 

 しばらくしてレイネは、ぼそっと言った。

 「そだね。レイネ、大人だし」

 

 「だよね、大人だし──」

 ん? どういうこと?

 「社会科見学って他に何があるんだろ……」

 レイネはそう言いながら作業を再開している。

 「あれ?いまレイネ、なんて言った?」

 「社会科見学何があるかなって」

 「違うその前!!」

 「レイネ、おとなだもん」

 「それっ それって!」

 杏は深呼吸をしてから、続けた。


 帰らないってこと?


 「うん。帰らなくてもいい?」

 「いい!いい!むしろいて!」

 杏は喜びのあまりレイネに抱き付いた。

 「わぁ。あーちゃん、塩こぼれちゃうよ」

 「ごめん、ごめん」

 杏はストロングゼロを飲み干し、2本目を開ける。


 やけ酒が、祝杯に変わった。


 「絶対だよ!絶対。 帰っちゃだめよ」

 杏は酔いに任せながら言った。

 「はいはい」

 レイネは塩の山を整えながら答える。


 杏は酔いにまぎれた高揚感に浸った。

 ふぁーっ!言ってみるものね!

 テンション上がってきた、行動すること、言葉にすることで世界は変わるわ。

 「そっか、いるのかー。夏は海もあるしー、収穫の秋は最高よ」

 杏は思いつくままに言葉にしていた。



 浮かれる思いに任せていろいろと言葉が出てくる。

 「そういえば、レイネって許嫁のどこが好きなの?」

 「ふぇっ?ど、ど、どこって……」

 もじもじと赤面しながら塩をざくざくといじっている。

 100年先という安心感。

 そしてレイネをいじれる最強ネタ。

 「いいじゃん。教えてよ」

 杏はいじわるっぽく追い打ちをかけた。


 えー、あのーなどとレイネは渋りながらも、恥ずかしそうに言った。


 《《アレ》》が《《デカイ》》ところ……


 「ブッーーーーーーー!!」

 杏は、口にしていたストロングゼロを吹き出した。

 「やだ、あーちゃん、塩、吹かないでよ! ああぁもう、床もびちゃびちゃじゃない!」

 「ちょっと!!あんたが変なこと言うからでしょ!」

 「変って?」

 レイネは、「なんでレイネが怒られるのっ」と言いながら、近くの布巾で床を拭く。


 「アレがデカイとか!」

 「あれって、え?どういうこと?包容力っていうんだっけ?」

 「へ?」

 「え?──何かと勘違いしたの?」

 レイネは異世界天然なセリフで追い打ちをかけてきた。

 ひとまず杏は、人前でアレがでかいのが好きとか言わない、それはこの世界の常識だ、と諭すように言った。

 あと塩吹くとかもな、と念をおす。

 「わかった」

 レイネは口を膨らませながら、それならば仕方ないと呟いた。


 散らばった塩を片付けたレイネが一息つく。 

 「あーちゃん」

 「どしたの?」

 隣に座る豚ジャージのレイネを見る。

 「今日さ、献血したじゃない?」

 「はいはい。血液型一緒だったね」

 「ね。で、その時レイネが言ってたこと覚えてる?」

 「あーあの、霊薬がどうのとか?あれ、なに?」


 一瞬めまいがする。

 

 「あーちゃん。今日、献血したじゃない?」

 レイネが昼間の出来事を話してくる。

 「したした! で、レイネ、血液型なんだった?」

 「O型でいいのかな?」

 献血カードを見せてくる。

 「あ、私と一緒! O型はね!」

 レイネと一緒だ。杏はそれだけでもなんだか嬉しかった。

 思わず血液型診断の話をする。

 レイネは、血液型診断を知らないようだった。

 へー、おーと言いながらにこにことレイネは聞いている。


 レイネはまだいる。

 そして血液型の共通点。

 杏は、自分でも驚くぐらい、うかれていた。


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