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【第一部完結】同居人は異世界の女神さま!? 男に逃げられ、金も尽き、運まで消えたら、女神に振り回された件について  作者: yururitohikari


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私だけのあなたでいて


 青森市に入ったあたりだ。

 レイネが「あーちゃん、写真撮ろうよ。レイネとふたりで」と言ってきた。

 素直に、受け入れられない。

 「なんで?」(わたし)は聞き返す。


 レイネは、洋館があある。そこで、コスプレ写真を撮ろうと言ってくる。

 返事をしなかったが、彼女は続ける。

 「ふたりの写真は”今度ね”って言ってたでしょ?」


 昨日、受け流しただけの口約束を出してくる。

 覚えててくれたんだ。 


 杏はその申し出を聞くと、胸につかえていた何かが溶け始めた気がした。


 「良いけど、衣装無い」

 嬉しいのに、どう答えたら良いのかわからない。

 私の口をつく言葉は、何故こうなってしまうのか。


 レイネは答えを用意していたかのように、

 「法衣があるし、ロケーションとしても良いはずだ」と言ってくる。

 そして「ブラもしている」と懐かしい事を言った。

 それでも素直に表情を緩めなかった。


 こうしていれば、レイネが私を向いてくれている。

 そう思った。


 車を停める。

 白い壁に緑の屋根。

 雰囲気のある門と中庭。

 上がる気持ちを抑えながら、先に衣装を変える。


 レイネは11次元ポーチから法衣を取り出すと、法衣のバックルや紐を外す。

 思ったより複雑な作り。分厚い皮鎧レザーアーマーも取り外す。

 「それ、着替えるの大変じゃない?」

 率直な疑問を口にする。


 レイネは、コツがあってねと言ったあと、魔法を使い一瞬で着替える。

 「私にもできるかな?」

 杏は冗談めかして言った。

 「できると思うけど、30年ぐらいはかかるかな」

 そう言ってレイネが微笑を向けてきた。


 庭園を背景に、写真を撮り始めた。

 お互いのスマホで交互に。


 初めて出会った時の法衣を切るレイネ。

 あの時は、ものすごいロングヘアだった。

 突然の出会い。

 無茶なお願い。

 何でこんなことに巻き込まれたんだろう──最初はそう思っていたのに。


 闊達なレイネには、今のボブヘアの方が似合うと杏は思う。

 よく動く表情。透き通った瞳。

 特徴的な耳に揺れるピアス。

 至近距離で寄り添うと、レイネの体温を感じる。

 「結構、映えるね」

 そんな会話をしていると、二人の様子を見ている数名がいる。


 ”あのエルフ耳の子、可愛くない?”

 ”外国人観光客かな? 日本語大丈夫っぽい”

 ”素材違うよね”


 「──あの」と声を掛けてくる。

 やっぱりお目当ては、レイネ。

 杏はどんよりとしたものを感じる。


 「写真、撮ってもいいですか?」

 やっぱり誰かが間に入ってくる。

 「ごめんなさい。時間が無いのと、友人といるので」

 杏の手を引いてレイネはそう言うと、車に向かった。


* * *


 青い海公園へ移動中、レイネは「アイス食べたい」とスマホを見せてくる。

 画面に映し出された地産地消を謳うジェラードショップだ。


 あかねリンゴ味とシードル味。

 「アイスじゃなくて、シードルを飲みたいわ」

 杏が呟くと、車だからダメなんでしょとレイネが言ってきた。


 ベンチに座り、潮風を感じながらアイスを口の中で溶かす。

 冷たくて、シードルの透明感のある風味が広がる。

 ”チョコミントは歯磨き粉っていうけど、レモングラスと間違えていた”

 そんな話をする。

 アイスが溶けるように、わだかまりが溶けていく。


 お互いのアイスを少し食べ、少しの間無言になる。

 二人だけの時間。


 「──あ」


 レイネが何かに気付いたように声を出す。

 目の前をベビーカーが通り過ぎていく。


 レイネの興味が私から、そのベビーカーに移るのが痛いほどわかる。

 一人分先に座った母子を、レイネは横目で追っている。


 それが杏にとって、とてつもなく不愉快だった。

 結局、いつもどこかで、誰かが入ってくる。


 不愉快だ。

 どうして間に誰かが入る?

 どうして、私を見ていない?


 だって、 

 異世界から来た非常識人を守ってきたのも私

 旅行に連れて行ったのも私

 日々の生活の面倒を見てたのも私

 一番近くにいるのも私

 レイネの魅力を一番知っているのも私

 だから

 彼女の優しさも、言葉も、気遣いも、視線も──全部私に向けられるべき


 でないと、私のいる価値が無い


 「ふにゃぁ…」

 その赤子が喃語を発した。

 「かわいいっ!」

 黄色い声を上げ、レイネはベビーカーに向かっていた。

 「あら」

 母親がレイネに微笑む。


 杏は呆然とその背中を見つめた。

 レイネは嬉々として母親と会話し、ベビーカーを覗き込む。

 

 「抱っこしてみますか?」

 「え?いいんですか?イエスかハイしかないです!」

 聞いたことのないような喜びに満ちている。

 ぎこちない仕草で、赤子を受け取るレイネを杏は見続ける。


 急激に溢れ出す、嫉妬。

 それに飲み込まれそうになった時だった。


 「めっちゃ可愛い」

 赤子を胸に抱き、その表情を覗き込むレイネの横顔。

 

 笑顔だった。


 その笑顔は、愛しく純粋で無防備で、美しいものだった。

 杏は、その笑顔に気づかされた。


 ──私は、奪おうとしていたんだ。この人の笑顔を。


 胸のつかえも、どんよりした気持ちも、何もかもがほどけていく。

 そして、嫉妬でもない妬みでもない、違う感情が生まれる。


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