魔法があればいいのに
気持ちの整理がつかない……。
小鳥遊 杏は、魔法があればいいのにと思った。
その日見た夢が叶う。
そんな言い伝えの夜、見た夢は最悪だった。
レイネが私に背を向けてどこかへ行く。
"そんなはずはない。ただの言い伝え"
否定はしたいが、いつかレイネは自分の世界に戻る。
そうなったとき、私はどうすればいいのだろう。
ひとりぼっちだ。
色どりが戻ってきたこの日常も消える。
そうなったら怖いほど寂しい。
ねぇ。気づいてよ。レイネ。
頼ってよ。
わたしが必要って思ってよ──
杏は、スマホで”夢判断”を検索する。
『親しい友人とのケンカ』
その向こうでレイネがドレッサーの前で髪型を整えていく。
器用なレイネは、手櫛で外ハネを作り満足そうに微笑む。
いままで私がやっていたのに。
いままでやってあげていた全てを、レイネはそつなくこなしていく。
スマホの充電も。
敢えて見つけにくい所に置いていた化粧水もあっさり見つけ、なにごとも無かったようにこなしていく。
私が入る余地など最初からなかった。
杏はそう思わざるを得なかった。
一通り支度が終わり車に乗り込む。
”あーちゃん、シートベルト締めて”
いつものようにレイネが言ってくる。
「自分で締めて」
そう言ったら、きっともう一度頼って来る。
そしたら、締めてあげる。
いつものやり取りの大切さ......
──パチン
レイネは自分でシートベルトを締めた。
違うよ。
もっと近づいてよ。
「青森市に出て、お昼食べたら八戸に戻るから」
行き先を告げ、車をだす。
会話も無く、レイネが曲を流す。
好きな曲をかけてくれる。
そこまでわかっているのに、なんで気づいてくれないの?
「あーちゃん」
「何?」
「なんか、怒ってる?」
「怒ってないわよ」
「レイネ、なんかした?」
違う。したんじゃなくて、してくれないっ!
「なんかしたって!? 昨日、知らない人とインスタ交換してたでしょ!」
──違う。私が言いたいのは、そんなことじゃない。
最悪な夢が、始まりだ。
杏は息苦しさを感じながらそれを思い出していた──
ただの夢なのに、不安で一杯なのよ。
「知らない人と交換するなんて危険でしょ。ちょっとは考えてよ。変な人がいたらどうするの?」
ちがーう!それはそれで、心配だけど。
あなたが、知らない人と仲良くなるのが嫌なのよー!
落ち着けわたしー!
「えー、あーちゃんが愛想よくしろって……」
レイネは腑に落ちないような口ぶりだ。
もう反論しないでー。
私のメンタルもうゼロよー!
「そんなことまでしろとは言ってない!私のせいにするの──?」
ダメー、そんなこと言ったらレイネが離れていく!
「子供には勝手に声かけるし、ああいうのこっちだと不審者扱いよ!なにがレイネちゃん、笑顔ちょーだいよ。なにが”はーい”よ!」
あーちゃんの言う通りって言ってよ!
「えー。こども、かわいいから」
「あんた、知らない人にひょいひょい着いていきすぎよ。新幹線の時もそう、八戸もそう。無防備すぎ。私は、レイネを心配してるの。こっちの常識を身につけてよ、もう!」
私はあなたのことを考えてる。
だからレイネも──
「ごめん、気をつける」
レイネの小さな声が聞こえた。
どうしてよ。
どうして、私は言いたい言葉じゃない言葉が出るの……
そう思いながら最後に出そうになった言葉は何とか飲み込んだ。
『フォローした人みんなブロックして!』
その言葉がよぎったとき、タケシの冷たい表情が思い出される。
「俺以外の連絡先、全部消せ」
やろうとしていた事が、タケシと一緒じゃないの……
杏は、こんな事になるぐらいなら、思いが伝わる魔法があればいいのにと思った。




